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    ボイルド・オイルⅠ:ボイルド・オイルⅡ:暴かれた世界Ⅰ:ボイルド・オイル 彼を首輪つきの飼い犬と称するには、青年が内包するたましいは荒野を一人駆け続ける苛烈と孤高に慣れ親しんでいた。けれど誰にも寄りかからない峻烈な狼と呼称するには、ジャッキーがバッドランズから拾ってきたノーマッドの青年であるVは案外、いったん掛けられる情を受け入れればその口をついて出る言葉はともかくとして、予想していたよりは存外に素直で人懐こいところがあった。ナイトシティにあってもノーマッドとしての精神を捨てずに生きる人間特有の性質である誠実と彼自身の個性であるお人よしも相まって、皮肉を好むきらいはあり受け入れてない人間にはそっけないのだが、それでもVには人好きするところがあり、そしてそんな彼の性質をヴィクターはかなり好ましく思っている。直接聞いたことはないが、彼をナイトシティに誘い今や彼の兄貴分といえる立場にいるジャッキーも、おそらく自分と大体同じ意見を持っているだろうとヴィクターは予想していた。
     ヴィクターはジャッキーの手当てを粗方終えて、今度はVの手当てに移っていた。ジャッキーがどこかから拾ってきた出所が曖昧な依頼で大層酷い目にあったらしい二人に、野心があるのは大いに結構だが、あんまり妙な無茶はするもんじゃないぞとヴィクターが苦言をもらせば「だとさ、ジャッキー」と少しばつの悪い表情を浮かべてらしくない所作でその身を縮めている大男に、抑えきれない悪童の笑みを浮かべたVはジャッキーに皮肉っぽい言葉をかけた。けれど常より切り口が鋭い皮肉に反して、Vの声にはジャッキーを責める色はない。
    「ジャッキー。ジャッキー、ジャッキー! おーいジャーック。おい聞いてんのか? ジャァッキー!」
    「聞いてる、ほんとに悪かったってV! もう勘弁してくれよ……今回の依頼、本当に俺が悪かった。全面的に依頼を拾ってきた俺のせいだ。この埋め合わせは必ずする、それでいいだろ?」
    「なら、お前からママウェルズに頼んで今日の晩飯は豪華にしてくれよ? ああそうだ、ヴィクターの分も用意してくれ、って付け加えてな」
    「おいV、勝手に話が進んでるが……俺もご同伴に預かっていいのか?」
     今は振り回すことを楽しんでいる常は人に振り回されているお人よしの、いまは完全にこの状況を楽しんでいるとしか表現のしようのない悪い笑みを浮かべた青年は、ヴィクターの言葉に「いいに決まってるさ、見ての通り依頼料どころの話じゃなかったし、ついでに俺たちの懐は知っての通り素寒貧で、払えるもんなんかろくにないんだよ、ヴィク。かといって代金の代わりだってサイバーウェアを引っこ抜かれちゃ困るしな。ま、あんたがそんなことしない奴だってのは知ってるが」と言葉を紡ぎながら彼の癖である、無意識に抑えた感情を零したようなかすかな、けれど親愛に満ちた控えめというには零した感情の色がよくわかる、心に湛えている感情はかなり濃いのに、その一端を零しているだけなせいか、どこか笑っているという印象が薄い彼独特の、彼が心を開いているものに対してよく浮かべる笑顔を顔にはいた。
     的確に進むヴィクターの手当てを受けながら、ママウェルズに頼む献立やヴィクターに用意する酒についてジャッキーと話しているVに、自然とヴィクターも笑顔を浮かべる。彼は犬でも狼でもない、どちらかといえば、そうだ、Vは猫のようなのだ。一匹きりの孤高を纏うことも、気に入った誰かに懐くこともできる、ナイトシティでは絶滅しかけだが翼を持つものも犬も消えてなお、未だにしぶとく生き残っている猫といういきものに。そしてこの街に産まれたものには決して培えない、この町の人間にとっては触れられない陽炎のような言葉である誠実という精神をその胸に確かに秘める、かつて砂漠に生き、砂漠をその車で駆け回ったしなやかないきもの。それがヴィクターから見たノーマッドの青年が持つ印象だった。
     そして軽やかに軽口を叩き合っていた二人の手当てを終えると、そのまま二人に引っ張られてコヨーテ・コホまでVの車で連れて行かれた。店に満ちる喧騒を、手当てが終わるまでにすっかり腹をすかした若者二人に手を引かれつつ家庭的な光に満ちた騒がしさを突っ切りながら、一体いつママウェルズに連絡したのやら、すでに用意されていた料理の乗った皿が置かれたカウンター席に座ると、ヴィクターはVの横顔を少しだけ盗み見た。その顔には輝かしい未来への野心が満ちているのを、そもそもヴィクターの目はアイウェアで隠れているからそう簡単にわかるとは思わないが、それでもあからさまに不躾な視線にならないように、先ほど処置した傷を見ているかのように視線を取り繕いながら見つめると、それから二人と同じように用意された作りたてである証明の熱をまだ保持している食事に、そっとVから視線を外したヴィクターも取り掛かった。
    Ⅱ:暴かれた世界 患者を生かすことは無論リパードクの仕事だ。そして殺すことは傭兵がなすことであり、勿論リパードクの仕事などではない――そんな前提の上でけれど、とヴィクターは思考する。殺してやるべきだったのではないのだろうか、避けられない死にすべての選択肢を奪われ、その中でどうにか生きるために自我を存在を削り取る執行猶予めいた時間の中で足掻くVを見て、ヴィクターはどうしようもない後悔を覚えてはそんな言葉を脳裏に浮かべる。それが生きようともがく彼を侮辱しているのと同じなのはヴィクターとて分かっている。けれど――けれど。ヴィクターは燃え尽きるまでの時間を長くしてやることも、彼を本当の意味で救うことも、彼の中に存在して彼を蝕む記憶痕跡のようにその側近くにいて、前へ前へと這うように進む手を握ってやることも出来ない。それは、ヴィクターの領分ではない。
     ヴィクターは短い期間で複数のリパードクの施術を受け、その結果かなりめちゃくちゃに継ぎ合わされたVのサイバーウェアたちを調整していた。なかなかに腕の悪いリパードクの施術も受けたらしく、接続の仕方も電源の取り方もクロームの取り付け方も、今回ヴィクターの前でそれが起きたように、いつまた急な不具合を起こして倒れてもおかしくないほど雑な仕事を施されていた。
    「V、施術を受けるリパードクは可能な限り選べ。複数の手術を受けたとはいえ、こんな雑な施術された客はなかなか見ないぞ」
    「そんなにか?」
    「そんなにだ。……まったく。不具合を起こしたのが、たまたま俺のところでよかったな。…………V、俺は、今お前さんがしなきゃならんことは理解している、つもりだ。こちらでパーツは出来るだけ用意する。お前がなさなきゃらないことは困難なことしかない。困難を踏破するためにも、出来れば俺のところで施術を受けちゃくれないか」
     Vに対して放つ言葉に現状をすこしでも考えればどこまでも望み薄でしかない祈りを混ぜ込んでしまうのをヴィクターはやめられない。ヴィクターは彼の肉体に施されたサイバーウェアやクロームの一つ一つを点検し継ぎ合わせられたパーツを診断し、必要以上に丁寧に不具合を起こす可能性を潰していく。ヴィクターは幸運と評したが、まるで身辺整理のように墓まで金を持って行くつもりはないとヴィクターに借金を返しに来たVのサイバーウェアに軽い不具合が起こったのは一体どちらにとっての幸運だったのだろうか。
    「ヴィク、まってくれよ。あんたが優しいのはよく知ってる。けど、いくらなんでもそこまでしてもらう必要は」
    「…………俺が、そうしたいんだよV」
     いっそ無意味な優しい言葉しか発せず、どちらの天秤にも振り切れられない男を責めるようにいつの間にかどこかから忍び寄ってとうとう空気に取って代わってこの穴倉を満たしてしまった寂寞を揺らす言葉を探しているらしいVに、ヴィクターは努めて彼が信頼する名医が言いそうな言葉を掛けようとしたが、駄目だった。ヴィクターが彼に告げたいものはなにも言葉にならない。明日には去っているかもしれない命に、明日には削られきって成り代わられるかもしれない精神に、ヴィクターはどう言葉を掛け、なにをどう伝えればいいのだろう。寂寞を裂きうる答えは、この空気を打ち消すための言葉は、生き返った瀕死のVが運び込まれたあの時に、とっくに破損してしまったのかもしれない。
     ふと、Vがヴィクターの何もつけていない手に惑いを隠さずに触れた。ヴィクターより低い体温に、高いとはいいがたいヴィクターの温度が移っていく。Vの手はこんなにも冷たかったろうか、元から怪しいものだったらしい仕事に失敗してヴィクターの手当てを受けて、金が払えないからとママウェルズに頼んで用意してもらった特製の料理を食べていた時の彼の温度はどうだったろう。普段意識しない瞳を、ヴィクターは見つめ返す。Vの瞳はこのような色をしていただろうか、瞳に宿る感情が違うせいなのだろうか。あの日光り輝く野心が盛っていた瞳にはどこか暗い――そう、末期の病巣を抱えた患者特有の、無情に命を刈り取ってゆく死神が好む、様々な感情が混ざり合った果てに元の色が不明瞭になった色彩が、輪郭がぼやけた諦念があった。あの日盗み見た輝く野望はどこにも見出せず、ヴィクターはVが己に向かってさらに伸ばした手を見つめていた。
    「ヴィク」
     ヴィクターは、抵抗しなかった。Vがヴィクターの指に己の指を絡め、触れ合う皮膚が平等な温度になるのをヴィクターはただ受け止めていた。躊躇いを多分に含んだ手はヴィクターの手首を握る。そのままヴィクターを引き寄せようとしたVの動きに、ヴィクターはただ手首に回った彼の手にもう片方の手を重ねることでとどめる。ヴィクターとVは、何かと怪我をこさえてくる患者とリパードクで、命を救ったものと救われたもので、気心が知れたずいぶんと年の離れた友人で。けれどそれ以上でもそれ以下でもない、否、それ以上にはなりたくない。以下にはなっていい、何であの時俺を助けたんだよと泣き叫ばれたほうがヴィクターにとっては、今のようにヴィクターを乞う瞳に宿る哀切を見返すより、よほどましだ。
     ヴィク、俺は、と寂寞の中に幽かにこだました声にヴィクターは答えない。Vの心境を想像したがヴィクターはそれ以上は踏み込ませない。明確に関係性が今以上になってしまえば、Vを失った時ヴィクターはどうなってしまうのだろう。Vはまだヴィクターの手首を握っていて、ヴィクターはその手を、親愛だけをこめてさすってやった。どこか形が曖昧だったVの諦念に、ヴィクターは理解してはいけない苦い感情が混じるのに、自分は感情の変化などに気づいていない、うすぼんやりしていた諦念に滲む黒々としたなにかなど、俺は見ていないというふりさえしてヴィクターは意識から切り離す。
     V、とヴィクターは今その手に持ち、心の中で凝るすべての祈りをこめてその名を呼ぶ。今ここを満たすさみしいしずけさは、穴倉に座ったままどこにもいけない男をどこまでも突き放している。ヴィクターから放たれた祈りは、やはり空中で解けて霧散する。当たり前だ、最初から届かない、どう届かせたいかもわからない祈りなどそんなものだ。かつてヴィクターが自己の芯の部分に孤高と誠実を抱えた猫のようだと感じた今は傷まみれで死に掛けている男と、そんな男の側にはあれない無力な男の間にあるどうしようもない溝に霧散した祈りは幾度も身を投じたが、昔は確かに存在しなかった、いつの間にか出来てしまった深い深い溝を埋めるには砕け解かれ霧散して元の形を失った祈りでは、とても、足りは
    夜船ヒトヨ Link Message Mute
    2022/06/17 12:10:42

    ボイルド・オイル

    本編軸ライフパスノーマッドで男性VのVヴィク、本編のネタバレは特にないけど状況はact2以降を想定しています。愛も情もあるけどまったく明るくない。なんでヴィクターロマンスないの?

    #サイバーパンク2077
    #ヴィクター
    #男性V
    #Vヴィク
    #cyberpunk2077
    #腐向け

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