魂の形。器の影。 喧騒もほどほどの、人気の少ない酒場で、その男には出会った。少年のような出で立ちの薄灰色の棘をした針鼠種の男は、胸元には長めの長毛種のようなタテガミを、背中の方まで伸ばしていた。金色の瞳には、黒い隈取が特徴的で、額には五本の棘が扇のように揃い、後頭部には大振りの棘が二本、しなやかに伸びている。
旅をしていると男は語り、ここには初めて立ち寄るのだという。自分もそれほど地理に詳しいわけではないが、ソニックがあちこちと冒険しているおかげもあって、同じ知識財産を共有している以上、全世界のだいたいの地図は頭に入っていた。
「へえ 一人旅か。気楽でいいじゃないか。オレも一人で旅をするのが好きなんでね」
本当に旅が好きなのは、オリジンの方なのだが、同じ存在から生まれた以上、好きなものは共有している。変わっているのは思考と、感情のみだ。
「気楽…なのかもしれないね。もともとが一人であれば、孤独を感じることもない。どこへ行こうというわけでもない、宛のない旅だよ」
「最高じゃないか。ゆく先々での出会いと別れを楽しむっていうのも、旅の楽しみ方の一つだろ」
「君と、ここで出会ったように?」
「そうだ、名前を聞いてなかったな。オレは……ソニックだ。ちょっと有名な方のソニックと同じ名前だけど、まあ、気にしないでくれ。似てるんで、色々と面倒だけどな」
オリジンの名前を語るのは、あまり好きではないが、同じものである以上、別の名前を騙るのもおかしな話だ。ダークソニックは素直に名前を告げる。
「僕は…メフィレスというんだ」
薄灰色の針鼠の男は、少し低めのしわがれたような声を出す。外見からすれば、それほど年齢もいかない少年のような出で立ちなのに、声とその仕草から、思考を読むことが出来ない。
ニコニコと笑って話すのでもない、少し不気味なその男の仕草に、警戒心が警鐘を鳴らし始めた。
「ふうん……気に触ったら悪いが、変わった名前だな。世の悪魔祓いが黙っていられなくなりそうだ。忠告しておくが、その名前はあまり使わないほうがいいんじゃないか?」
「そういう感想を持つんだね。あの時に名前を伝えていたら、君はどういう反応をするのかと思っていたけれど」
グラスを持つ手をダークソニックは止めた。こいつは会話が成立しない。これは厄介な相手に捕まったものだ。オリジンの記憶の中に、この男の記憶はないのはわかっているが、相手はこちらを知っているようだ。
「悪いな。どうやら誰かと間違えているんじゃないか?お前とは初めて会うし、あの時、なんてのを俺は知らないぜ?」
「この姿を見ても、思い出さないのかい?」
メフィレスと名乗る男は、椅子から立ち上がるとくるりと一回り身を翻して見せる。
何を言いたいのか理解できないままでいると
「この姿の少年を、僕は探しているんだよ」
と、まるで舞台役者のような仕草をつけて、その男はダークを見る。
理解に苦しむ。写真などを持つわけでもなく、この姿の少年を探している と、のたまう。まるでそれは…
「いい加減にしないか。本性を見せたらどうなんだ…」
器の中に入っているものが、器と同じ形の魂だとは決まってはいない。警鐘の鐘が鳴り始めた時に気づくべきだった。何もかもがもう遅い。
酒場の床に広がる、深淵の闇の影が、ダークソニックの足元まで伸びていた。