想いのかけらと小さな奇跡 ある時、ソニックに一通の手紙が届いた。
それはとても拙い文字で綴られていて、切手もなければ、住所もない。封筒にただ、「ソニック・ザ・ヘッジホッグへ」とだけ鉛筆で書かれた、簡素なものだった。
中を開けると、子供の文字で書かれた、はがきのようなものがでてくる。
「だいすきな ソニックへ おねがいがあります ぼくのおねえちゃんは びょうきです ソニックおねがい ぼくのおねえちゃんをたすけてください」
その手紙を見て、ソニックは、困ったように頭を掻いた。小さい子供がどこかで書いて、誰かに渡してもらえるように頼んだのだろう。誰かが攫われたりだとか。困っているだとかいう事件ならば解決することも可能だが。流石にこれは……
「……まいったな」
助けてやりたいことは助けてやりたいが、ソニックは医者でもなければ、科学者でもない。出来ることは限られてしまう。
「花を届けてやるくらいのことなら、出来るかもしれないが…」
そう思っていたソニックの手から、スーパーソニックが手紙を取り上げた。
何をするのかと、オリジンのソニックが見つめていると、じっと手紙を見つめたかと思うと、それを持ったまま、ふらりと外へ出ていこうとしたのだ。
「おいまてよ!」
声を上げたのは、ダークソニックだった。
「ソニック、止めろ。あいつ、もしかすると…」
オレの予想が正しければ。それは世界の常識を覆すことになる。慌ててダークソニックはスーパーの腕を引っ張って止めた。
「どこに行くつもりなんだ。スーパー。お前、それは…絶対にやったらいけないことだぞ」
スーパーソニックは応えない。じっとダークを見つめると、何故そんなふうに言われなければいけないのかと言うような表情を浮かべていた。
「オレは、願いを叶えにいくだけだ」
「やっぱりか……それはダメだ。何でもかんでも、人の願いを叶えていいわけじゃない。確かにお前は、それだけの力の塊だろうさ。でも」
スーパーソニック。人の願い、人の思い、感情を力に変える、カオスエメラルドの力。それを受け止め使役する、カオスエメラルドの化身とも言うべき存在は、とてつもない奇跡の力が宿っている。思いを力に変え、奇跡を起こす石の力を使えば、奇跡は起こるのかもしれない。だが……
「お前にとっちゃ、朝飯前のことかもしれないけどな。やっていいことと悪いことっていうのが、世の中にはあるんだ。それを考えろってんだ」
スーパーは理解し難いというような表情で、オリジンを見つめる。青い針鼠のオリジンは、じっと口に手をあて考えていた。
「オレは医者じゃないんでね。病気を治すことはできない。でも… お前がそれをやりたいって言うなら、いいんじゃないか?」
「お前…!!! いくら自由にするのが好きだと言っても、それは!」
ダークは牙を剥くような迫力で怒りをあらわにする。そんな奇跡を扱えば、どのような事が起こるかもわからない。お人好しを乗り越えて、神にでもなるつもりなのか。
「お前も存外、どうなるか考えずに行動するところがあるけどな……少しは自分の事を考えたらどうなんだ…」
怒りの感情や、破壊衝動といったものから生まれたダークソニックだが、どちらかといえば、ソニックの中の利己主義が形をなしているものに近い。自分の利益を優先に考え、他を軽視するその考えは、オリジンやスーパーにはとても薄いものだ。
「どうしても行くっていうなら、オレも行く。カオスエメラルドはどうせ勝手に集まってくるんだろう?全部使って、病院中の患者でも治そうものなら、世界中でパニックになっちまうぞ」
はー…と大きくため息をつくダーク。スーパーがやり過ぎないよう、見張っているのは自分の役割らしい。舵取りをしようともしないオリジンの楽観にも困ったものだが、自分の元にもなっているので、理解できないわけでもない。
好きにすればいいさ とだけ言うオリジンの背中に呪詛をはきかけ、ダークソニックはスーパーの背中を追って、家を飛び出していった。
それから後、とある病院で訪れた奇跡に、新聞記者がこぞって集まる騒動には発展した。だが、その病院の優秀な医師に、称賛と栄誉が与えられることで事なきを得る。
オカルト話を扱うような、信憑性の薄い雑誌にだけは、その病院に降り立った天使と悪魔の話が掲載されていたのだった。