Trick or Treat! 華やかに飾られた街を行く。前をぴょこぴょこと跳ねるように走る、小柄な針鼠の少年は、空色の棘をふわふわと揺らしながら、ご機嫌な様子だった。頭には小さなシルクハット。背中には小さめのマントをつけ、手には細いスティックを持ち、さながらマジシャンのような出で立ちだった。
その後ろを、慣れないマントに身を包み、包帯で装飾を施された白い針鼠が後を追う。首周りに赤いスカーフをつけ。手には少年から手渡された大きめのカボチャを模した菓子をいれるカゴを持たされていた。
「おい、ちょっとまってくれよ!ソニック!どこ行くんだ?!」
小さな針鼠の少年に出会ったのは、ついさっきのことだった。どこからか、マントに包帯と、仮装の衣装を手にもって現れた。自分も仮装するから、と、シルバーに押し付けては、甲斐甲斐しく用意も手伝ってくれたのだ。
そこまでされると、断ることもできないのが、シルバーの良いところだった。されるがままに、装飾を施され、そこには立派な?ヴァンパイアのようなシルバーが出来上がっていた。
「なあ、どこ行くんだ?こんな格好で…ちょっと恥ずかしいんだけど、なあソニック聞いてるか?」
ニコニコとシルバーの姿を見ては、嬉しそうに跳ね回るソニックは、返事をしてくれない。それならと、シルバーは思考の方にESPを移行させ、思考を読むように持っていってみる。
流石に、テレパスのマネごとくらいのことしかできはしない。言葉がなければ会話はできないし、相手の思考を少し読むので精一杯だ。
「楽しい…とこに?行く? 家を……まわって…?人の家を? は ハロウィン?っていうのかお祭りなのか…」
パチパチと手をたたいて少年は喜んでいた。説明がいらなくて助かるといった風で、くるりと一回転しては、町中の家の扉を叩く。
家人が出てくると、小さい少年を見たご婦人が、喜びながらお菓子を配ってくれていた。
「はー…過去の世界は変な祭りがあるんだな…。え?なに?オレももらってこいって? いいよ!オレはお菓子とかそんな」
ソニックはぐいぐいとシルバーの背中を押す。人間からしてみれば、身長100センチほどしかない針鼠種の男性は、子供のサイズと同じなためか、どうしても幼く見られてしまう。
「あら!可愛いヴァンパイアさんね!お決まりのセリフをどうぞ?」
家の玄関で女性がお菓子を片手ににこやかに待っていた。そんな様子を見ると、無下にいらないとも言えず、シルバーはモジモジ困ったような仕草を見せる。
「あー…オレ、こういうの初めてなんだ。なにか言うことがあるのか?」
「あら!初めてなのね。トリック・オア・トリートっていうのよ。いたずらか、お菓子か?って言う意味なの。はい、どうぞ!」
軽く説明をしてから、家人の女性は、シルバーの手に持つカゴへ、これでもかとチョコレートを詰め込んだ。
ソニックも軽く手を振り、ご機嫌な様子で家人に別れを告げる。
早速とばかりに、ソニックはシルバーの持つカゴから、チョコレートを奪い取ると、パクっと口の中へ放り込んだ。
「なんだか…くすぐったいな…こういうの」
平和な世界の小さなお祭りに、胸が高鳴る。楽しいっていうのはこういうのだったかな……と、成り行きでも自分を巻き込んでくれたソニックを見ると、ソニックはシルバーに向かって、ピッと人差し指を指した。
「……笑えるんじゃないか……って言ってる…のか?」
ウンウン、と頷いて、ニカっと笑うソニックを見て、最後に笑ったのはいつ頃のことだったかと、シルバーは思う。
少し強引だが、優しさの溢れたソニックの行動に舌を巻きながら、シルバーはもらった菓子の中から、小さなロリポップキャンディーを口へと放り込み、
「菓子っていうのも、たまにはいいよな!」
と、満面の笑みを送って返したのだった。