You are everything. お前に客人が来ている。と、全く身に覚えのない事で、応接室というものに呼び出された。
家族との束の間の団欒や、外部の友人などと会う時に使われる部屋だが、自分とは縁がない物だと思っていた。
外部に全く知り合いがいないわけでもないが、思い当たる節がない。何かの間違いではないのかと思いながら、シャドウは応接室の扉を開く。
「あ!シャドウ!よかった……任務には行ってなかったんだね」
扉が開かれるのと共に、ぱっと立ち上がった客人は、小柄な子狐だった。
大きな尻尾を二本持ち、音速で走り回る青い針鼠に遅れをとらずについてく、彼の右腕とも言うべきその人物は、不安そうな表情を浮かべながら、応接室の大きめのソファーに座っていたのだ。
「テイルス……」
「ごめんね、急に呼び出したりして。どうも外には行ってなかった様子だったから、会えないかと思ってここまで来たんだ。本当は通信機器をハックしてもよかったんだけど……」
「いや かまわない。何の用だ」
「実は……ソニックが……ずっと帰ってこなくて……」
大体一緒に行動することの多い二人であるが、ソニック一人で居なくなったりすることもある。そういう時は、数日経てば帰ってきて、どこにいった、ここにいったと、お土産片手に語ってくれるのが日常であったりするのだが。
「なんか、様子がおかしかったんだ。僕にも、エミーにも、ナックルズにも何も言わないで出ていったきり、どこに行ったのか予測もつかなくて……こんな事めったにないし、だいたいエッグマンがいるところだったら、すぐに検討もつくのに…」
ここのところ、ソニックが痛いほど相手してやったエッグマンは、体制を整えているのか、動きを見せてはいなかった。
不安そうに語る子狐の瞳が潤んでいく。ソニックだったら大丈夫だと、いつもの信頼はあるのだろうが、それを差し置いても、彼にとってみれば「様子がおかしい」事の方が気になっているのだろう。
「シャドウだったら、もしかしたら、何か知っているかもしれないと思って」
もしも、何か気になることでもあったら教えてほしい。と、懇願される。だが、応えるわけにはいかなかった。
ここ数ヶ月、テイルスのいる研究所、ならびに、彼の行動範囲内で、不穏な影が暗躍しているのをソニックが見逃すはずもなかった。天才的な頭脳を持ちながら、相手はただの子狐だ。ソニックが近くに居るために、手出しをするのは難しいかもしれないが、その手がどうやら警戒範囲を突破したらしい。
手を出される前に、GUNの情報網を使い、組織の概要を掴んだソニックは、「テイルスには絶対黙ってろ」と残したまま、文字通り風のように消えたのだ。恐らく、あと数日もあれば、手土産と共に帰ってくるだろう。使えるものは使っておいて、一番大事な者には何も伝えず身勝手なものだと、ため息をつく。
「心配するだけ無駄だ。君が一番わかっているだろう」
無愛想な物言いだが、紛れもない事実だった。
本人が知らないところで。誰よりも一番に思われていることを、本人が一番知らないでいる。
どんなにロボット工学の知識があろうと、エッグマンに匹敵する頭脳の持ち主だと言われようと。
自分に対する思いの無知だけは、少年らしいのかもしれなかった。