なにかをなくしたはなし。 奇妙な二人が、一つ屋根の下に居る。
どちらも同じで、どちらも違う、そんな存在同志が、二人でソファーに座っては、午後のニュースを垂れ流しするTVを横目に怠惰な時間を過ごしていた。
やれどこかの国がクーデターだとか、どこかの町では何かが生まれただとか、とりとめのない話ばかりが流れているが、自分に関する話ではないので現実味というのはいつも感じられはしない。
むしろ隣にいる存在の方が、自分にとっては大問題で。黒い姿をした自分そっくりな針鼠は、同じようにTVの音を聞きながら、何を思っているのか、菓子を片手に退屈な時間を過ごしているのだ。
「なあ 何か面白いことないのか」
TVの中の話だなんて、どこまで真実かどこまで作り話かなんて、結局見ている方にとってみればわからないことなのだ。
そんなことよりも町へ出て、おかしな人間を見ている方がよっぽど面白いのかもしれないと、けらけらと黒い存在は笑っている。
とある時。とある場所。そのきっかけはもう覚えてはいないがソニックの影の形が、ふらりと現れた。
ダークソニック。
名前とも言えない、そんな名称で呼ばれているその存在は、確かに自分のシルエットとそっくりで、もう一人、対の存在で現れたスーパーソニックという名称のやつと表裏一体となっている。
自分の事を「オリジン(origin)」と呼び、いつからか住み着いていた彼は、自分と同じ存在ながらも奇妙な関係を保っていた。
「面白い事?なんて、お前の存在以上に面白いものなんかないさ」
「……Really?本当はそんなこと思ってもないくせに」
「本当さ。自分の中にいるはずの別人格みたいなもんが、形作って隣に座ってるなんて。奇妙というか、奇跡というか。自分で自分に話しかけるなんて、滑稽なコメディアンみたいなこと、そうそう起こることじゃないだろ」
けらけらと。今度はオリジンが笑い転げる。
元々は同じ存在なのだから、気が合わないわけでもない。むしろ無言で、何も話をしないことの多いスーパーソニックの方が、何を考えているのか思考がつかめないでいる。
「まさかオレの非情な面が、ふらっと形をとって現れるだなんて」
何気なしに言ったその言葉が気に入らなかったのか、黒は眉根を潜めてガタリと立ち上がった。
「非情?? オレを非情って言ったのか?非情なのはどっちだろうな?お前の激情から生まれたオレに、そんな事言えるのか?」
先程までけらけらと笑っていた空気がはじけ、霧散していく。
「切り離したのは、それに引っ張られそうになるからだろう?めったに見せないお前の激情が形になったオレを切り離した時点で。さあ。どっちが非情と言えるのでしょうか?って話さ。勝手なもんだな」
指を刺され、指摘をされても、青はぴくりとも表情を変えはしない。黙って立ち上がった黒を見上げては、まっすぐに見つめるだけだ。
「情、というオレを捨てたお前は、一体何になるつもりなんだ。ココロがなければ、ただの兵器に成り下がるだけだぜ?同じセリフをアイツに言える資格があるのか?」
青は応えない。ただ、黒を見上げるだけ。感情の起伏。精神のゆらぎ。そういう命の叫びの波紋のようなものが、青からは一切感じられなかった。
「面白いことを面白いと、まだ思えているならいい。まだ、取り戻せるかもしれない」
それだけ吐き捨て、黒は風のように颯爽と青の前から姿を消した。
あとに残るのは。ただただ無表情に画面をみつめる青が残されていた。