memories. 指定された場所。指定された日時。きちんと守って訪問してやるとは、なんてオレは偉いんだと。一人胸を貼った。
可愛らしくピンクに彩られたその扉を、どんどんどん!と多少力を加減して叩いた。
「あ!ナックルズ!きたきた!ありがとね!!」
部屋の中から現れたのは、可愛らしい桃色を身にまとった女の子の針鼠。エミー・ローズだった。
「しかたねえから来てやったぜ。いつもだったらこんなこと、やらねえんだけどよ」
「まーたそんな事言っちゃってー。なんだかんだ手伝ってくれるの知ってるんだからー。さ、入って入って!」
テイルスの工房や、各地の遺跡なんかにはよく足を踏み入れたりするが、女の子の一人暮らしの部屋に入るというのは、なかなか機会がないので、ナックルズはちょっと緊張した面持ちで、扉の敷居をまたいだ。
「で?どこからやりゃいいんだ?」
今日はエミーの家の模様替えとやらで、重い家具を動かしたいの、と、力の有り余ったナックルズに頼み込んできたのだ。ナックルズとて、エミーの事が嫌いなわけではない。仲間のよしみ、ということで、力仕事を請け負ってやったのだった。
「そこにあるテーブルと、あ、そこの本棚もちょっと場所変えたいんだー。本、入りっぱなしだけど……重くて持ち上がんないかなあー」
無理に持ち上げると底が抜けるぞと、警告ついでに、「オレは持ち上がるぞ」と、付け加えるのも忘れなかった。
はいはい、というような返事をしながら、エミーは本棚の本を取り出しにかかる。
その間に、少し部屋の中を見学してまわった。
可愛らしいぬいぐるみや、フリルのたくさんついた服。化粧品やら、香水瓶やらが並ぶドレッサー。ふわふわのラグに、ソニックを模したぬいぐるみも座っていた。
ふと壁を見れば、写真類が飾られているボードが目に入る。ソニックの写真もいくつも飾られ、その中に、テイルスナックルズと一緒にトリオで撮られた写真もあった。
あー…あれはあの時の写真か…。と、ナックルズにも思い当たる節がある。チームローズで撮った古い写真もあれば、ピンク色の車に乗ったエミーがソニックと2ショットを撮っている最近のレースの写真もあった。
「あー懐かしいのあるでしょー ナックルズ」
眺めていたナックルズにエミーが声をかける。ああ。と短い返事だけをナックルズは返した。
思えば長いこと、沢山の冒険をしてきたものだ。無鉄砲な針鼠の相手をしていたら、命がいくらあっても足りないと思っていたのは初めだけだった。海を渡り、山を超え、果ては宇宙まで行ってきた。自分の生きる意味とも言える、あの大きなエメラルドを守って、あの遺跡で生き、あの遺跡で死ぬんだと思っていた過去の自分に、今の自分を見せたら、笑われるのだろうか。
「ナックルズー!本全部出したわよ!持ち上げてー!」
部屋の向こうから、呼ぶ声が聞こえる。わーったよ。ちょいまて。とぶっきらぼうに返事をすると、ボードに飾られた昔の自分の写真に向かって、ナックルズは軽く拳を合わせたのだった。