洞窟で出会ったきみ:前「だ、だれかいるんですか?」
あたりを警戒しているかのような少年の声が洞窟の中に響き渡る。
(どうしようどうしよう、こんなところに人がいるなんて…!)
【洞窟で出会ったきみ】
ここは僕の生まれ故郷である嘆きの島。まあ、もう名前からして不気味そうな雰囲気が溢れ出ていると思う。僕はこの島でもちょっとした名物扱いされているシュラウド家の長男。
名物と言っても不気味だとか呪われているとかそんな感じで、島の住人からは恐れられているし、極まれに訪れる観光客でさえ遠目で見て行くぐらい。まあ、見た目からしてこの家の建物、不気味だしね…人が押し寄せてこないだけマシだけど。
そんな感じだから、こどもながら僕には友人と言える人はいない……まあ、僕にはゲームと研究室があるし、有意義な時間を過ごせているし…最近変わったことと言えば、僕には弟が生まれた。両親はその小さい弟につきっきりになっている。生まれたばかりの小さい命は一人ぼっちじゃなにもできないからさ、両親がつきっきりになってしまうのも理解しているし、特に寂しさとかも感じない。僕の家は使用人たちがいる。両親の代わりに、じいや、メイドたちが僕の世話をしてくれている。まあ研究室に籠ってロボットの解体したり、自室に籠ってゲームしてるっていうのがほとんどだから殆ど放置されて自由に過ごしてる。
そんなある日、僕の引きこもりっぷりに見かねたじいやが散歩に行こうと部屋にやってきた。
「坊ちゃんや、たまには気分転換でもしませんかな?」
「急になに…僕、今日はクエストクリアしなきゃいけないから…」
「箱のゲームの冒険ばかりじゃなくて、リアルでも楽しめるところがあるんじゃよ」
「この島にそんなところがあるなんて聞いた事ないよ」
「そりゃあ、この爺やしか知らないの秘密の場所ですからな!…坊ちゃんもそろそろいい年ごろじゃ、【船渡り】を経験してもいいと思うんじゃが」
「…えっ!それを早く行ってよ!?行くに決まっているじゃないか!」
『嘆きの島』は、地元民や観光客が主に過ごしている本島と、シュラウド家の敷地である離島が海を挟んで距離が隔てられている。この離島では幼い子どもの魂が安定する十二歳になるまで、島を出ることを禁じるという言い伝えが今でも守られている。
そして僕はこの間、十二歳になった。【船渡り】とはこの離島の子どもが初めて海に渡るという、ちょっとしたおめでたいイベントだ。じいやはこの島と本島での船渡りもしているらしい。
「坊ちゃんもめでたく十二歳になったことじゃ、旦那様、奥様からもお許しをいただいてますぞ!」
「ま、待って、いま準備するから…!」
「そんなに持っていくものもないですぞ、ほら、これを被ってくだされ」
そういいながら爺やはフード付きのコートを僕に渡してきた。
「……この髪の毛じゃ目立つもんね……不気味に燃えてるし…」
「…坊ちゃんや、海にはどんな生き物がいるか聞いた事ありますかな?」
「僕の嫌いな生魚」
「ははははっ!そうじゃの!ほかには?」
「うーん……あ、本でしか見たことないけど…人魚?」
「そう、坊ちゃんは人魚の伝説を聞いたことがあるかの?人魚たちはの…海にはない珍しいものが大好きなんじゃよ。もちろん海の中に火は無いのじゃ」
「……?そうだね」
「この辺のやつらはそこまで行動派はいないんじゃが、稀にその珍しいもの欲しさに海に引き摺り込もうとしてくる奴らもいるという噂もあるんじゃ」
「……なにそれ、海には危険がいっぱいなんだよ~ってこどもへの脅し?」
「…はあ~~~坊ちゃんは相変わらず偏屈じゃの~」
「自分でも自覚してますし~、まあこの髪じゃ、目立つのは分かってるよ、…ほらこれでいい?」
僕はフードを深めに被りマントを羽織った。
「坊ちゃんの理解が早いところ、爺やは好きですぞ」
そういいながら爺やはにっこりと笑い、皺だらけの手で僕の頭を撫でた。
……ちょっと照れくさいからやめてほしい。
じいやに連れられて、僕は離島の船乗り場から少し離れた海辺にきた。
そこには小舟が一艘浮いていた。
「これはワシの相棒のケルベロス号ですじゃ」
「…名前と見た目が釣り合ってなさすぎでは?」
「こういうものには名前を付けると愛着が湧いてくるんじゃ」
「へえ~、随分年季が入ってそうだけど大丈夫…?」
「ワシの相棒は丈夫ですぞ!これで100年はやってますからの~!」
「じいやのそれ冗談でも本気っぽく聞こえるから…」
「おや、ひどいですの~じいやはいつでも本当の事しかいってないですぞ~?さあさあ、足元に気を付けて乗って下され」
「うん…おお…なんか浮いてる感がすごい…ちなみにじいやの言ってた秘密の場所ってどこなの?」
「坊ちゃん、このしまの立地や地形は地図で見たことあると思うが、シュラウド家が建っている崖の上の下…あそこは激しく波が打たれているじゃろ?」
「うん、普通に人間が行く場所じゃないよね」
「あそこが常に波の力が強いのはの…実は魔力でほかの者が近づかないようにしているんじゃよ」
「……え?マ?いったい誰がそんなのかけてるの」
「ワシじゃ」
「え?なぜに?」
「ワシが船渡りの仕事が暇すぎたときに見つけた洞窟があるのじゃよ」
「それってじいやの…さぼりスポットってこと?」
「憩いの場所じゃ!」
「同じ意味でしょ」
「坊ちゃんの言葉の切れ味がだんだん澄まされていくの~」
「あ~~~もうわかったからさあ、早く行こうよ」
「それじゃあ、結界を張りますから、そのままじっとしていてくだされ」
船の先頭部分に立った状態でじいやは僕の周辺と船全体に防衛魔法をかけた。いやいや、じいや結界の外だけど!?
「ワシは海とは長い知り合いですからの悪さはしてこないんじゃよ」
なにそれチートでは?このじいや長年シュラウド家に仕えているらしいけど…そういえばいくつなんだろう……あんまり深く考えない方がいい気もする。
そうして僕たちが乗ったケルベロス号は沖を出発した。