③妄想しましょ……眠い。なんて眠いんだ。
なんだかんだ昨日、双子と一緒に挑んだ変身アイテムとなる【髪飾り】は無事に完成した。
…おそらく。
完成してから、すぐに試そうと思ったが、授業の予習の事などの時間を確保しなければならなかったので、
現時点で実際のところまだ試せていないのだ。今日は祝日という事もあり、授業は午前中だけだ。
今日はとある人の元へ行く。
交渉するための例の物も準備していたせいで余計眠い。なんなら横に並んで歩く双子の片割れの視線がだいぶ刺さっている気がする。
「ジェイド~機嫌直してってば~!」
「おやおや?いつも通りのつもりなのですが」
いつもと同じような笑みを浮かべているが、僕とフロイドにはわかる。これはめんどくさいモードのジェイドだ。
「ごめんてぇ、ぎゅ~~って絞めすぎちゃった~、まあこの間のお返しってことで~」
「しくしく…僕はアズールの交渉の代わりに体を使われてしまったのですね」
「はあ~…そのウソ泣きはいい加減やめてくれませんか。ちゃんとその分対価を渡したでしょう?」
「えっ、なにアズール対価ってなんの…待てよまさか」
フロイドが左右の違う目を見開いて、僕の顔を覗き込んできた。
反対側にいるジェイドがいつもの表情でフロイドに告げる。
「来月のラウンジの期間限定メニューの決定権ですよ」
「はあーーーーー!?そんなん秋の味覚とかいってきのこ料理のオンパレードになるじゃんー!?」
「仕方ないでしょう、フロイドが断固拒否するからこうなったんですよ。苦肉の策です…くっ」
「おやおや、二人ともそんな眉間にしわなんて寄せないで、これから会うお方に小言を言われてしまいますよ」
「あーーーーーー、俺テンションめっちゃ下がったあ…このままバスケ部行ってくる~~」
「それでは僕も期間限定メニューの為の準備をしましょうかね、ふふふっ」
あ~…本当にこの二人は…
「まあ、いいでしょう。あなた方の貴重な休日を一日頂いたわけですし、ここからは僕一人で交渉してきますよ」
「頑張ってね~、ベタちゃん先輩によろしく~~~」
「それでは僕たちはこれにて…何かあれば連絡ください」
「ええ、わかりました。それでは」
二人と別れ、午前授業が終わって廊下で雑談などをしている生徒の合間を潜り抜け、僕は鏡の間へ向かった。
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イグニハイド寮の寮長室。ここは引きこもりの僕の楽園だ。
午前授業は必修科目があった為、タブレットで参加した。
先日、人の話を聞いてくれない猪突猛進タイプの恋人の「僕に任せてください!!」宣言から、早3日経った。
あれから直接会ってはいないが、スマホ宛に「第一段階の準備はできました。今日は第二段階に進みます。部活は申し訳ないですが欠席します。」というメッセが先程来た。
変身薬…性転換薬で女の子になればいいんですね!というぶっ飛び思考で、僕の「パートナーとして実家に来てほしい」という願いを叶えるために、現在も着々と準備を進めているであろう恋人の姿を想像して、僕はまた頭を抱えている。
「女の子のアズール氏………何この二次元展開…くっ!属性過多気味だとは思っていたでござるがこれ以上増やすのか…!!」
なんとも言えない気持ちになり、汚部屋のベットの上でバタバタしてしまう。
オルトは今スリープモードにしているので、「もう兄さんたら!」と可愛らしく怒られることは今のところない。
「……僕は、そのままのアズール氏に来てもらうつもりだったんだけどな……」
そう、あの時本当は「卒業したら君と過ごすことを親に伝えるつもりだから、そのパートナーとして来てくれないですか」と願いを伝えるつもりだったんだ。なんだったら、プ、プロポーズのつもりで伝えようとしていたので、正直緊張でめっちゃ心臓が痛かった。
だってまだ学生なのに重すぎじゃない??ドン引きされちまうんでないかとかいろいろ頭の中がごちゃごちゃしてたんだ。だから肝心の言葉を言う前に、あの子の「お相手は女性の方がいいという事ですね!」って言葉に面を食らってしまい、そのまま話がトントンと進んでしまった。
「アズール氏は…拙者の相手は自分の性別じゃ無理だって思ってる…のかな……」
ベットの上で深いため息をついた。でも今更本当の気持ちを伝える勇気がない。
だって、第一段階って性転換薬完成したって意味じゃないか。あれって種族によっては材料を変えなければいけないというなかなかめんどくさい物だ。
「きっとアズール氏のことだから休みの日潰して頑張って完成させたんだろうな…」そう思うと止められない。恋人がこんな自分のことを思って頑張ってくれてるという事実に、正直嬉しいっていう気持ちもある。
そしてなんといっても………女の子アズール氏…それはそれでめっちゃ見たい!!!!
オタクの推しのいろんな姿見たくなる性が!!!!正直人魚姿もまだ見れてないのでめっちゃ見たい!!!!いやどんなアズール氏もSSR級なんですけどね!?
オタクの妄想モードスイッチオン!!唸れ!拙者の妄想力!!
パーティー形式ってことはドレスなのかな、デザインとかどうするんだろう。ドレスコードとかは特にないって伝えたけど、嘆きの島はたださえ陰気臭い。おそらくシックな感じ…そうなると淡い色合いよりは、落ち着きのあるダーク系統って感じかな、なんなら海の魔女モチーフで黒を基調としたマーメイドタイプとか?アズール氏肌白いから、絶対映える~~~~~~!!!!髪型とかも変えるのかな…拙者アズール氏のうなじめっちゃ好きなんだよな。ロングも捨てがたいけどアップにしてくれないかなあ~……はっ!やっば今意識完全に飛んでたわ。
「…待って、拙者アズール氏の妄想ばっかりしてるけど、自分の準備もしなきゃじゃん」
そう、今までのパーティーは帰るたびに、家柄目当てで近づいてくる奴らの相手をしなきゃいけないという苦行でしかなかったけど、今回は違うんだ。恋人があんなに一生懸命準備してくれているんだ…。
それに拙者もう…りっ、リア充ですしおすし!
そうだ、オルトを起こして準備手伝ってもらおう!!オタクだけのセンスじゃ社会的に死ぬファッションを錬成してしまう可能しかないからね!
…自分で言ってて悲しくなってきたな
僕はまた違う意味で頭を抱えた。