⑪チェックしましょ「あなたって人は、急にそんな大声で主張されなくても…ふふふっ…」
「推しのSSRなスチルに理性が飛びかけてしまっただけですし…そ、そんな笑わないで…ううっ」
「イデアさん、今は推しというのは辞めてください。今日は、あなたの【パートナー】としてここに来たんですよ」アズール氏はそういうと僕に向かって手の甲を伸ばしてきた。
女体化したことでいつもより少し小さく感じる手。そっとその手を自分の手で包み、自分の方に引き寄せた。
「……こんなに準備を頑張っていただいた事ですし、あとは拙者が頑張るターンですな」
正直、君のこんな姿をこれから他人に見せないといけないのは憂鬱さを感じるけど…と思いつつ、その手の甲に口づけてから、しっかりと自分の利き手でアズール氏の右手を握りなおし、再び家に続く一本道へ歩みを進めた。
嘆きの島は、かの死者の国の王と関係の深い場所とも云われている。そしてこの島の領主とも言われるのがシュラウド家。「独特の慣わしなどが残っている古臭い家なだけだよ」とイデアさんは言うが、その実態は死後の魂を冥界へ送り届ける役目を担う、世界的にも重要な存在と位置づけされている、由緒ある一族だ。
そんな一族が主催となって開催される今回の【式典】とは一体どのような……ん?待てよ?そういえば詳細を聞いていないな?僕としたことが!?すっかり準備の事ばかりで肝心の式典の内容をイデアさんから聞いていなかったじゃないか!僕の手を握って道中をエスコートしてくれるイデアさんの方を振り向いて僕は問い詰めた。
「イデアさん!僕、とても肝心な事を確認し忘れていました!」
「ひょ!?ど、どうしたの?」
「そもそも今回のこの式典とはどういった集まりなのですか!?なにか特殊な決まりやマナーなどありますか!?」
「あ!伝えてなかったっけ!?し、式典と言ってもそんな改まったものじゃないから…うちの両親が島の住民を招いて、交流を深めるってだけ、ほら、よくある身内の年に数回の顔合わせみたいなもんですわ」
「そうでしたか…僕は陸での一般的なパーティーマナーは身に着けているつもりですが、特有のマナーなどはありますか?」
「…それも特にはないですな。……ア、アズール氏、もしかして緊張しちゃってる?」
「……そ、それは…あなたのご実家に初めてのご挨拶になりますし…モストロラウンジ関係で外部の方々との社交は沢山こなしてきましたが、今回はただの社交ではないじゃないですか…少しは不安にもなりますよ…くっ、僕としたことが…!」
今更過ぎる緊張感と自分の抜け目具合に情けなくなり思わず下を向いてしまいたくなる。
「……尊い…」
「……え?」
「拙者の恋人、まじ尊い…え、アズール氏のこんな姿、そうそうお目にかかれない…」
「ば、馬鹿にしてるんですか」
「はあ~~たださえSSRヴィジュアルに加え、またSSRスチル回収?どんだけオタクの…拙者の心を鷲掴みするつもりなの?馬鹿になんてこれっぽちもしてないからね?…君こそ僕の気持ち馬鹿にしてるの?」
「そのセリフ、部活動中の己の言動を思い出しながら胸に手を当てて言えますか?」
「……いや、そ、それは…あれは馬鹿にしているのではなく、君の反応が最高すぎて…えっと」
目線がめちゃくちゃ泳いでるじゃないか!!どうせ僕が狼狽えているところが面白いのでしょうこの人は…まったく…!
「もういいです!」
「…!ア、アズール氏…拙者、本当に馬鹿にしてるんじゃなくて」
「今ここで全力で叩き込みます!イデアさん!今回の式典に参加される方々の情報を教えてください!開場までまだ時間があります!ガジェットを出してください!」
「えっ……か、かしこまりました……えっと……だいたい参加するメンツは決まっておりましてな…まず、うちがよくお世話になってる果実屋の…(以下略)」
「なるほど…はい、次お願いします」
「これはうちの母親が贔屓にしている仕立て屋の…(以下略)」
そんなこんなで参加者の情報チェック(推定数百人)を開場時間の三十分前に終わらせた僕たちは改めて会場に向かうのだった。