夏のSSR「絶っっっっ対に!!無理!!」
いつも小声早口オタクの珍しい大声が部室中に響き渡った。
ここはNRCのボードゲーム部が活動する教室。といっても活動部員は相変わらず僕と、目の前の後輩だけで、今日はサマーホリデー前の試験が終わってからの久しぶりの部活だ。試験で頭も散々使った事なので、気楽に挑める運ゲーでの勝負をする事になった。いつもなら運ゲーは嫌ですと、すぐに反論しそうな後輩が笑顔でこう言った。
「今回、僕試験でついに一位を取ったんです!ふふふ、あのリドルさんに!勝ちました!そこでイデアさん!」
「え?」
「僕にご褒美をくれませんか?」
「拙者が?な、何ゆえ」
「イデアさん、僕たちの関係をお忘れで?」
「………部活の先輩と後輩…」
「そして?」
「先日、バディレベルアップし、こ、ここ恋人になりました……え、夢じゃないよね?拙者の強い幻覚ですよ?なにほざいてるんですか?とか言われたら拙者泣いちゃう」
「…そんなこと僕が言うわけないでしょう!僕がどれだけアタックしたと…!思っているんですか?」
「そ、その説は鈍感ドヘタレオタクが大変ご迷惑をおかけいたしました…」
「そんなどヘタレオタクなあなたを好きになったのは僕なのですから、今更気にしないでくださいよ」
少しむすっとした顔を目の前で浮かべる後輩…いや、拙者の恋人。
ぷんすこ顔までかわいいって、拙者の恋人の顔面偏差値やばすぎ…いやはや3次元でこんな夢のような状況になるとは…はあ~惚れ惚れしちゃう…一生懸命おしゃべりするツヤツヤの唇、その横に添えられているセクシーホクロ、目線をしっかりと合わせてくるスカイブルーの瞳…造形良すぎでは?まあ、見た目とのギャップが一番たまらないんですけどね~
「イデアさん?僕の話聞いてます?」
「えっ、ももちろん!」
「!それじゃあ、このゲーム勝ったら僕と海デートしてくれるのですね!」
「…え?う、海!?」
「ふふふ、以前男に二言は無いですぞ!っておっしゃていましたね!さあ、一勝負しましょう!」
「えっ!?ちょちょ、ちょっと待って!?」
「……男に二言は?」
あ、これ目が笑っていない。拙者に拒否権はない。
「…いざ、尋常に勝負……」
そんなときに限って選んでいたのは、アズール氏が得意とする戦略ゲーム。普段ならギリギリの瀬戸際まで勝負が拮抗するが、脳内で海デート?つまり水着スチル?と煩悩と童貞乙妄想に思考が支配されていった僕は見事にボロ負けした。
「うっふふ!これで海デート決まりですね!場所は僕の知り合いの方のプライベートビーチですので、あなたの苦手な人混みなどは気にされなくて大丈夫ですよ♪」
「準備速すぎでは?」
「………やはりご迷惑ですか?」
さっきまで自信に満ちた表情を浮かべていたのに、急にさびしそうな表情を浮かべたアズール氏…待ってこれまた拙者やらかしたのでは!?
「えっ、あっ、いやそんな事は…!プ、プライベートビーチ!すごいですな~!いや~~海とかご縁が無さ過ぎで水着なんて持ってないしなあと思っただけで!」
「!…そうでしたか!それじゃあ今度お買い物にいきましょう!通販でも色々あるかとは思いますが、僕お買い物デートっていうものをしてみたいんです!イデアさんに似合いそうな水着ぜひ見繕いたいです!」
「お、お買い物デート!?そんなリア充イベントを!?」
「イデアさん!僕たちの関係は!?」
「こ、ここ恋人…」
「つまり!?」
「り、リア充…しても許される…?」
「そうです!僕今度の週末が空いているのですが、イデアさんご予定は?」
「と、特にないです…」
「よろしい!そうしたら今度の休日、お買い物デートしましょう♪待ち合わせ時間はまた後程連絡しますね。それでは僕はラウンジの準備があるので、失礼しますね」
「は、はひ……」
あっけにとられた僕はアズール氏が席を立ちあがった音だけを聞きながら放心状態になった。
「イデアさん」
アズール氏に呼ばれて顔をあげようとしたのと同時に、右頬にあたたかい感触と小さいリップ音。
………ん?リップ音?
普段は不気味な青色で燃えている髪の毛が、一瞬で真っ赤に色づいた。
「はあ!?い、いいいま……なっ!?え!?」
してやったりといった笑みを浮かべてるアズール氏。
「…それではまた♪」
部室のドアが閉まった後、しばらく赤い炎を引っ込めることができず、気づけば部活終了の鐘が鳴り終えるまで席から動けなかった。
「………拙者の恋人、やばすぎ…………しゅき……」
買い物デートでまた頭を抱えることになるのは別のお話。