④変身しましょ二人と別れた僕は、鏡の間へ足を運んだ。代価となる例の物もしっかり持っていることを確認し、ポムフィオーレ寮に繋がる鏡へ足を踏み込んだ。
「いつ見ても絢爛豪華な建物ですね…、さて…先程、連絡は入れておいたのですが…」
辺りを見渡していると聞きなじみのある声が聞こえた。
「あら、相変わらず時間ぴったりね」
そう、僕が連絡したのはポムフィオーレ寮の寮長であり、現役トップモデルのヴィルさんだ。
「貴重なお時間をいただくのですから、時間を守るのは当たり前ですよ」
「ええ、このアタシの時間を使ってあげるんだからね」
「はい、よろしくお願いします。その前にこちらを先にお渡ししたいのですが」
「あら、前より瓶が大きいわね、出血サービスかしら?」
「ええ、急な依頼ですし、成分も以前お渡しした物から、さらに!保湿成分をパワーアップしてますよ」
「そう、また使用感については後で伝えるわね。さあ、移動するわよ」
ヴィルさんの後ろをついていくと、特別な施しがされてる扉にたどり着いた。
「…前来た時には気づきませんでしたね。」
「ここはアタシの特別室(ドレスルーム)よ、談話室じゃ、いろんな目がつくでしょう。さあ、お入りなさい」
ヴィルさんがマジカルペンをかざすと扉が開いた。
「!…これはこれは、…」
「ふふふっ、ちょっとした空間魔法を応用しているのよ、広さはピカイチよ」
外側から見た部屋の広さとは比例しない、おそらく彼の私物であろう様々な種類のヒールやブーツ、洋服に至ってはもしかしたらそこらの店より、様々な系統のものが並べられている空間だ…これは圧巻ですね。
二人で扉の奥に入ると、自動的に扉は閉じられた。
「さて、それじゃあまずは変身してもらわないとね。変身薬は持ってきたのかしら?」
「それならこちらです。薬を直接摂取するのは、人間変身薬を服用している僕には副作用が出る恐れがあるので、変身アイテムを身に着ける形になります。」
そういって僕は、先日双子と錬成した髪飾りを差し出した。
「ふん…なるほどね、変身過程に興味があるのだけれど見てもいいかしら」
「ええ、別に減るものでもないですしね」
「それじゃあ、さっそくつけてみせなさい」
僕は髪飾りを自分の頭に付けた。
ーーーー数秒後、体が光に包まれ、思わず目をつぶった。
(ああ、この感覚は変身薬とはまた違いますね。)
そんなことを思いながら、体の節々が縮んでいっているのか、熱さを感じた。
ーーーーーーーーーーーー
「アズール、ちょっと!目を開けなさい!」
ヴィルさんの声で僕はハッと目を開いた。
「ずいぶん面白い変身アイテムね、ほら、鏡を見てご覧なさい」
さっきまでぴったりサイズだった制服の丈に長さを感じながら、すぐ近くの全身鏡に近寄ってみる。
そこには身長が少し縮んだだけでなく、女性ならではの凹凸ができている自分が写っていた。…顔の輪郭まで丸みを帯びていないか…?………女性特有の丸さだと信じたい…。
「アンタ女性になるとそんな感じなのね、元々の顔立ちからはそこまで変わっていないわ。…まつ毛の量が増したぐらいかしら。」
「僕も実はこの姿になるのは今初めてなんですが、まあ、ヴィルさんがそうおっしゃるなら、変身は成功といったところでしょうか」
「まあまあね」
近づいてきたヴィルさんが、僕の顎に手を添えて顔を上げさせた。
…これ、イデアさんが前に読んでた漫画で見たな……【顎クイ】というやつだ。
身長差がある為、体勢が少しきつい…それを察したのか、微笑んだ表情でヴィルさんの顔が近づいてきた。
「これからアタシの手で最高の仕上がりにしてあげるわよ」
あっ、この笑顔は先日の妖精ファッションショーの鬼コーチの顔と一緒ですね。
頼む相手を間違えたかもしれないと少しだけ後悔した。