ふりかえり「それでは失礼致します」
バルバトスはそう言ってディアボロの寝室の前で一礼をし、自身の部屋に戻った。
棚を眺め、端から何冊かの手帳を取り出す。そして再度棚を眺めると、少し離れた位置にあるもう一冊の手帳を取り出した。
机に向かい、角が擦り切れた手帳をぱらぱらとめくり始める。
***
手帳には式典やパーティーの予定などがぎっしりと書き込まれており、ディアボロとそれに随伴するバルバトスの多忙さを物語っていた。
数冊読み終えたところでドアがノックの音を立てた。
「どうぞ」
この時間に来る者など一人しかいない。
「お邪魔します……寝ないの?」
遠慮がちに入ってきたMCはバルバトスの横に立つと疑問を投げかける。だいぶ遅い時間なので無理もない。
「これだけ終えてしまいたいので、先にお休みになっていてください」
「調べもの? 手伝う?」
「いえ、来年の手帳の準備をするのに過去数年分のものを見返していました。どの程度の予定が入りそうか把握するのに便利ですから」
「そうなんだ。楽しい?」
「執務に対して楽しい楽しくないを考えたことはありません。ですが」
バルバトスはMCに向き直ると両の手でMCの手を包んだ。手はとても温かかった。
「あなたとの過去の予定や出来事を見ると、鮮明にその時のことや感情が思い出されます。以前、あなたが魔界に来てからの手帳を見返しているときに坊ちゃまがいらしたことがあるのですが『随分楽しそうな顔をしているね』と仰っておりました」
「そ、そうなんだ……えへへ……」
MCがふわりとバルバトスに抱き着く。ボディソープの香りがバルバトスの鼻先をくすぐった。
「……終わるまで見ててもいい?」
「どうぞ。そちらの椅子をお使いください」
「ありがと。ねえ、これって毎年やってるの?」
「ええ。私の手帳は一年用ですから毎年行っています」
「これからも見てていい?」
「かまいませんよ」
***
手帳を新調した日までページをめくったバルバトスは微笑みの奥に少しだけ寂しさを滲ませると、ぱたんと最後の手帳を閉じ、小さく息を吐いた。