警官と居候
無口な行き倒れを拾ってひと月経つ。帰る場所はあるし、場所も分かってるようだが帰宅を促すような話になると、黙って薄青の目でじっと見つめてくる。そこに勝手に意思を読み取ってしまった俺は「帰りたくなったらちゃんと言えよ」とまんまと絆されてしまったのだ。
同居人というか居候はことのほか料理が上手く、出会う前よりずいぶん健康的な食生活にしてもらっている。飯って腹が膨れるだけじゃなくて、美味いんだな。
「ヘーイ。お土産あるぜ」
帰り道でドーナツ屋に寄ったのだ。
「……」
「いいじゃないの。あんたのおかげでかーなーり、かなりよ!スリムになってんだ。これっくらい食ったって問題ないさ」
無口すぎるが瞳は雄弁な居候の言いたいことを正確に読み取り、反論する。はためには俺の独り言に聞こえるだろうが知ったこっちゃねえ。コミュニケーションってえのは言葉だけじゃねえんだ。
「甘い飲み物控えてるし、あ、なあ、紅茶淹れてくれよ。あんたが淹れる紅茶うまいんだ。ドーナツにも合うし!」
短く嘆息。承知したって時によく使う。
黙ってキッチンに向かうとお湯を沸かし始める。甘いもんも脂っこいもんも食うなとは言わない。量や順番があるのだとこんこんと説明された日を思い出す。あれで何日分話しちまったんだろうな。
部屋に漂い始める紅茶の香り。
ドーナツは箱のままでも、指先を拭く濡れタオルの用意を怠らない。ほんとにあんたは何もんなんでしょね。