フカい共感のある日今日は亀島のおうちにスガナミと僕でお邪魔してる。みーちゃんが大学院から帰省してくるっていうので、モネちゃんも一緒に来る予定だったんだけど、急なお仕事が入っちゃって、後からゴーリューってことになった。モネちゃんは、私が帰ってから一緒に行くのでもいいですよ、って言ったんだけど、スガナミが、お義父さんが僕に牡蠣棚見せたいって言ってくれてたし、先に行ってますよ、って。
初めて亀島のおうちに行く時には、もー、ドキンチョーしてた(らしい)ってのに、スガナミも永浦家に慣れたもんだよねー!ってか、主にコージ?ねぇ。てかさー、コージもめっちゃスガナミのこと気に入ってるしね。スガナミもなんだかんだコージと気が合う。なんかおもむろに計画書とか作っちゃうとことか。
んで、亀島のおうちに着いたんだけど、あいにく雨が降ってきちゃった。コージやオジーチャンの仕事は変わんないけど、船や牡蠣棚の作業に慣れてないスガナミには危ない、ってんで、スガナミはお留守番になっちゃった。まぁねー、スガナミはガタイはいいけど、普段は建物の中に引きこもりで根が都会っ子だからなー、仕方ないよねー。
アヤコさんもご用事があるってんでお出かけしてて、亀島のおうちには、スガナミと、僕とサメ三朗とサメ四朗とサメ五朗のサメブラザーズだけ。僕たちは居間のちゃぶ台に並んでて、スガナミはその横で、中ぐらいの集中力で読みかけの論文を頬杖ついてぱらぱらめくってる。雨はやみそうな雰囲気になってきたけど、まだもうちょっとカナー、なんて思ってたら、縁側からカッパを着たリョーくんがひょっこり姿をみせた。
「あれ、先生。こんちは」
「ああ、亮君、こんにちは」
「耕治さんは、牡蠣棚っすか」
「ええ。今日は僕も連れてもらう予定だったんですが、あいにく雨になったので、安全を鑑みて」
「まぁ、確かに雨の牡蠣棚と先生は食い合わせ悪そうっす」
リョーくんがニマッって笑うのがイケメン!
そんでスガナミがすっかり言い返せないでやんの。
「今、先生だけ?」
「お義母さんも本土に用事で、僕が留守番になっちゃいました」
「そっか。これ、今日の夜用にメカ持って来たんで、冷蔵庫入れといてもらえますか」
「分かりました」
リョーくんが縁側に発砲スチロールの箱を置いて、スガナミが立ち上がる。軒先でカッパの水をはたいてるリョーくんに、スガナミが箱を持ちあげながら、コージを待ってくか、って声かけた。
「何か、お義父さんに話があるんじゃないですか?もう少ししたら一度戻ってくると思いますが」
「そっすねぇ。耕治さんがいたら先に話してもいいかなって思ってたんですけど、みーちゃんを駅まで迎えに行くにもまだ時間あるし、そうしてもいいですか?」
「いいと思います」
「なんか読んでたんじゃ。邪魔になりませんか」
「なりませんよ。暇つぶしに読んでただけですし」
じゃあ、って、リョーくんが靴脱いで縁側からあがってきた。カッパをばさって振って、外にひょいって置いとく仕草も、スガナミにない海の男感があってカッコイイ。いやー、やっぱ、僕もサメなもんで、海のかおりのする人ってのは一目も二目も置いちゃうわけですよ。
ふらって居間に来たリョーくんが、机の上のスガナミの読んでた論文を見て、うへぇって顔してる。どしたの?
「暇つぶしにエーゴのなんか読む、とかやっぱ医者ってすげぇ」
その言葉に、メカのおっきな切り身を冷蔵庫に仕舞ってたスガナミが、小さく首を振る。
「文学作品や難しい思想についての文ではないので、単語さえ分かっていれば文型はシンプルですから」
「いや、そーゆーことをさらっと言う時点ですげえって」
って、屈託なくすげー、って笑ってみせるリョーくんがまた男前!そんで、スガナミは照れて首元をかいてる。いや、そこでもうちょっとスガナミも気が利いた事言え?って思うけど、まぁ、スガナミだしなー。
アヤコさんが好きに飲んでね、って言ってたお茶のポットからリョーくんの分と自分の分のお茶をコップに入れたスガナミが居間に戻ってくる。リョーくんにお茶出せるだけ、スガナミも進歩したなーって思えるよね。
あざす、ってリョーくんが受け取って、ぐびって飲んだ後、ふいに僕らの方を見た。やほー!
「なんか、サメ増えたっすね」
「もともとは僕が百音さんに託したサメ太朗だけだったんだけど、気が付いたら、こんなに」
いーじゃーん!サメぬいなんて、何匹増えたっていいじゃーん。かわいーし。
ねー!ってサメ三朗とサメ四朗とサメ五朗も心の吻でうんうん、って頷いてる。
「そういや、こないだ、みーちゃんに会いに東京に行った時に、何か気仙沼っぽい土産持って行こうと思ったんですよ」
「気仙沼っぽい土産、ですか」
「そう。でも、思いつかなくて」
リョーくんの言葉に、スガナミがなるほど…って頷いてる。
「得てして、地元の人の方が、その土地らしい土産物って知らなかったりしますしね。ましてや、未知さんにとっても地元なわけですし」
「そーなんですよ。でも、みーちゃんも東京に出てかなり経つから、なんかこう、こことの?つながりが感じられるようなものをやっぱり贈りたいな~って」
「それは素敵ですね」
スガナミがとっても率直に話を聞いてくれるもんだから、リョーくんも嬉しそうにおしゃべりしてる。てか、まだリョーくんとミーちゃんはケッコンしてないけど、もーすぐかも、ってことはモネちゃんとミーちゃんが電話でお話してたから(なんせ、そういう電話を、スガナミはほとんど聞く機会ないけど、サメ棚にいる僕は聞く機会が多い)そしたら、リョーくんはスガナミのオトートになるんだよなー。わー、兄ちゃん面するスガナミとか見たくないわー。え、あ、でも今、ほぼそんな感じか。
「で、結局何にしたんです?」
スガナミが聞いたら、リョーくんがひょいって僕の吻をつまんで持ちあげた。あががー!って思ってたら、リョーくんのお膝にのせられてた。もにゃもにゃって吻の形を整えてくれたから、僕の吻をつまんだことは不問に付すことにする。
「先生が、モネにこいつを預けた話、先生がこっちに来れなかった間に、何べんもモネから聞いてたんすよ」
あー!スガナミが照れてるー!
「でね、ふと『海の市』に知り合いの手伝いに行った時に、シャークタウンのショップの前通りかかったら、メカジキのぬいぐるみがあって、ふと目が合った気がしたんすよね」
似た者同士!
「で、その時は、いやいや…って思って、一回家帰ったんすけど、やっぱりなんか気になって、結局、次の日、もっかい行って、メカジキのぬいぐるみ買っちゃいましたよ」
「というか、メカジキのぬいぐるみなんてあるんですね」
「あるんですよ」
いや、僕がシャークタウンのショップにいたころから、メカジキのぬいいたよ?めっちゃ棚に陳列されてたよ?スガナミ、マジでサメしか見てなかったんだな…。いや、まあ、サメだからしょうがないけど、やっぱり魚全般気にしろ、な?後、牡蠣と。
「そんで、みーちゃんに渡したら、最初は、え、メカジキのぬいぐるみ…?って反応だったんです」
「まぁ、メカジキですしね」
「だけど、次の日には、そのぬいぐるみに『メカ助』って名前つけて、なんか手近なハンカチでバンダナ風に巻いてあげてたりして」
「なんか、百音さんの妹、って感じがしますね」
「俺もそう思った」
なんか、永浦姉妹に翻弄されている男二人の頷きがフカいぜ…。
「そんで、それからは、みーちゃんから、ちょくちょくメカ助の写真が送られてくるようになって」
「百音さん譲りですかね」
「俺もそう思う」
なんか、最近、メカ助に嫉妬してる俺がいます…、ってリョーくんがしょぼくれてるー。しょぼくれてちゃぶ台にしんなりしてるー。でもしんなりしててもイケメンー!
「まぁ、僕も、サメ太朗がうらやましかったことは多々ありますよ」
なんだよぅ!僕は僕でスガナミに会えなくて寂しかったけど、頑張ってモネちゃんのナイトシャークをやってたんだぞー!
そっすよね、先生の方が会えなかった時間、長かったんすもんね、ってリョーちんがスンマセンって言うけど、スガナミは、時間の長短は関係ないですよ、って笑ってみせてる。ヤダ、なんかスガナミがオトナ!いや、まぁ、もう既にいい年したオジサンなんだけどさ、事実として。
俺ら、切ないっすね、ってリョーちんが笑って、そうですね、ってスガナミが笑って、なぜか居間には謎の連帯感が漂ってる。恐るべし、永浦姉妹。ミーちゃん、メカ助連れてきてくれるかなー。僕、メカのおともだちはいないから、会えたらうれしいなー。