サメ太朗 古着を着こなす永浦のおうちにご用事で出かけてたモネちゃんが帰ってきたら、いろいろ荷物が増えてた。アヤコさんが牡蠣持たせてくれたりするんだよねー。って荷ほどきをするモネちゃんをサメ棚から見てたら、紙袋を取り出したモネちゃんがニコニコしてこっちに来た。
「サメ太朗、新しいお洋服もらってきたよ!また作ったんだって」
って言いながら、僕をサメ棚から降ろして床に座ったお膝にのせてくれる。え!新しいおようふく?!うれしい!アヤコさんもダイスキ!
心の胸ビレをわくわくパタパタさせてたら、モネちゃんが袋からほらっ、っておようふくを取り出した。わー!またコージのシャツのリメイクだ!いつも、柄がうるさいんだけど、サメのシンプルなサメ肌にはその柄ガラしてる感じも逆にいいよねってなるやつ。
モネちゃんが鼻歌を歌いながら、おようふくを着せ替えて、また棚に載せてくれる。うん、サメ太朗は何着ても似合うねぇ、ってモネちゃんがにこにこしてくれるもんだから、僕もうれしくなっちゃうよね。もー、何着ても似合っちゃってスミマセン。
他のサメたちがいーなーって言ってくるけど、これは、永浦のおうちで三年間、ずっとモネちゃんを支えてたクンショーみたいなもんだから、みんなごめんねー。
って言ってたら、モネちゃんが紙袋をからさらに何か取り出した。わ!それ!かっこいいやつ!えと、えーっと、サングラス!永浦のおうちに行った時に、サメ三朗がもらってていーなー!って思ってたんだ!え、もしかして、それも?!それも?!
心の胸ビレをもっとパタパタさせてたら、モネちゃんがちょん、と僕のお顔にサングラスをのせてくれた。わーい!サングラス!かっこいい!さいきょう!
モネちゃんも僕の仕上がりに満足げに頷いて、そんでご飯の支度をしに台所に戻ってった。うーむ。ついに僕もサングラス持ちのサメになっちゃったー。
モネちゃんがあれこれ支度してたら、スガナミも帰ってきた。帰宅のいつものルーティンのあと、おかえりのぎゅっをしてる。一緒に住んでしばらく経つけど、ずっとそうやって仲良しなのはほんとに二人のいいとこだよねぇ。
スガナミも仲良く手伝って、二人で晩ご飯。段々と毎日の風景になってきたけど、やっぱりこうやって二人が一緒にご飯食べてるのは、涙が出そうにうれしい。涙腺ないけど。
今日の晩ご飯のメインは、モネちゃんが永浦のおうちからもって帰ってきた生牡蠣みたい。なー、スガナミも牡蠣食べれなかったのに、永浦のおうちのは食べられるようになったんだもんなー。
二人で手を合わせて、いただきます、って言って、早速に二人の手が牡蠣に伸びたところで、ふとスガナミの手が止まった。モネちゃんが怪訝な顔をしていると、スガナミが妙に戸惑った顔でサメ棚の方を見てくる。ん?どした?僕のさいきょうコーディネートに気づいちゃった?いーでしょー。心の胸ビレでくいっとサングラスをあげた気分。
「なんか、プレッシャーを感じるのですが…」
部屋着に羽織ったいつもの青チェックシャツをの裾を両手でハムスターみたいにいじってる。
「…なんでしょう…。特に変わったことはないと思うんだけど…」
言いながらモネちゃんもサメ棚の方を見てくる。やっほー!
「あ、そうそう。母がまた父の古着でサメ太朗のお洋服作ったよって何枚かくれたんです。最近、それ見た悠人君とこのお母さんとかといっしょに、サメぬい用の服って作って島のターミナルでサメぬいの横に置いてるんですって。結構売れてるとか」
すっかりサメ太朗がトレンドセッターですよ、とモネちゃんが笑う。トレンドセッターがなにかは分からないけど、なんか鼻高々なきぶん!
「父の古着…」
モネちゃんの話の大事な後半を聞いてたのかどうか、スガナミは眉間に皺を寄せて何かを思い出そうとしている雰囲気。ん?とモネちゃんがスガナミを覗き込んだところで、スガナミが、あっ!と声をあげた。
「あの時の…」
「あの時?」
「ほら、コインランドリーであなたを蕎麦屋に誘った日。汐見湯に戻って話をしていたら、お義父さんと龍己さんがやってきて…」
「あぁ!先生が牡蠣食べた日。…ん?あの日が?」
「あの時にお義父さんが着てたシャツですよ、今サメ太朗が着てるの」
何とも言えない顔で僕のおようふくを見てくるスガナミに、モネちゃんは感心した顔してる。
「先生、よく覚えてますねぇ」
「あの日のことは色々とインパクトが大きかったから…。うん、間違いない」
「え、それがなぜプレッシャー?」
モネちゃんの疑問に、分からないか…って顔で笑ったスガナミが、テーブルに両肘をついて乗り出す。
「あの日、一か月ぶりぐらいにあなたにコインランドリーで会えて。会えたら昼めしにでも誘えたらな、と勇気を出してお誘いしたら一緒に蕎麦屋に行けて。僕は内心とても舞いあがっていたわけです」
「そうだったんですね」
ふむふむ、と真剣に話を聞くモネちゃんに、スガナミが苦笑してる。
「と、今の時点でそうだったんですね、という程にその時はあなたは全然、だったということに改めて驚きつつ、話を進めると、そうしてあなたへの気持ちを自覚していた僕は、汐見湯で話をしていた時に、うつむいたあなたの髪に手を伸ばしていた。自分の決断に悩むあなたを支えたくて。そうしたら、あの柄のシャツにサングラスでお義父さんが現れたわけです」
ありましたねぇ、とモネちゃんが笑う。
「なんでか、おじいちゃんもサングラスかけてて。東京で表彰式だってんで、浮かれてたんですかね」
「それで、カウンターでお義父さんと隣に座って。ビールは仕事前で飲めないし、目の前に牡蠣はあるし、そりゃもう、国試以上のプレッシャーと緊張感でしたよ」
その節は…ってモネちゃんが頭下げてる。
あー!わかった!なんか、スガナミが、みょーにヘロッヘロになって洗濯物抱えて帰ってきた日あった!そんで牡蠣食べたけど大丈夫かなとかぶつぶつ言ってた!なんで牡蠣食べたんだろね、てんぺんちいかな、ってサメたちでお話してたんだ。
そっかー。コージの前で、いーところ見せようとしたんだ!
向こう見ずな気もするし、オトコギ!って感じもするね!そっか、そっかー。
「でも、うれしかったな。ああして、あなたが僕のことを気遣ってくれて、輪にもいれてくれて。4回目に食べた牡蠣はほんとうにうまかったし」
くしゃりと笑うスガナミに、モネちゃんも嬉しそう。
「もうあれ、何年前ですっけね」
「だいぶと昔に感じるね。すっかり、僕にとって牡蠣と言えば永浦水産の牡蠣になってしまったよ。贅沢な話だけど」
「さ、そしたら食べましょ!」
モネちゃんのお誘いにうんってスガナミも頷いて、二人して牡蠣に手を伸ばす。殻から指でちょいちょいってして食べれば、二人してニコニコいいねぇ。
「今シーズン初、ですかね。やっぱりうまいなぁ」
「今年もいい出来だぞ、って父も祖父も自慢げでした」
「うん。次に島に行ったらお礼言います」
「先生、殻剥きとかすぐ手伝ってくれて」
「できるお手伝いなんてそれぐらいですから」
二人で楽しそうに晩ご飯食べてて、いいねぇってサングラス越しに見てたら、ふとスガナミがこっちをみて、なんかイヤそーな顔する。
「それはそれなんだけど…。やっぱりあの服にサングラスは昔のトラウマがよみがえるようで…。サメ太朗のコーディネート変えられませんかね…?」
えー!やだー!サングラスはあげないよ!!まぁ、シャツはいろいろあるから、他のに着替えてもいいけどさー。えー。ガマンしろよ、スガナミー。
心底イヤそうなスガナミの顔に、モネちゃんがけらけらと笑う。
「しょーがないですねぇ。じゃあ、後でシャツを着替えさせます」
「お願いします。できれば、あのシャツはサメ三朗にでもあげてください」
「サメ三朗んちからもらってきたのに。じゃあ、今度交換してきます」
まだクスクス笑うモネちゃんが、その日のことも思い出すのか、とってもキュート。そんで、そうなってるモネちゃんをスガナミもかわいいなぁって見てる。んでこっちを見てはチベスナ顔。いそがしいやっちゃなー。
まぁ、僕がこうしてコージの古着を着こなしてこそ、思い出話もできるってもんだよね!サングラスももらった僕のサメのトレンドセッター(何かはしらんけど)ぶりがあってこそ!スガナミはやっぱり感謝しろ?な?