サメ太朗 東京に行くモネちゃんがスガナミのいる東京に行くのは3年ぶりという前日、モネちゃんはとってもそわそわして荷造りしてた。おかーさん、ご挨拶の時の服、やっぱりこれでいいと思う~って、モネちゃんそれ5回目~!おちついて!
初めてスガナミの両親に会うらしく、きちんとしなきゃ、って張り切ってるみたい。モネちゃんはどんなカッコでも素敵だと思うけど、やっぱりティーピーオーってのもだいじだもんね!万年チェックシャツのスガナミも知っとくべき。そういやモネちゃんちに挨拶来た時もチェックだった。スガナミは。まぁ、それはスガナミだからしゃあないか。
5回目に呼ばれたアヤコさんも、さすがにちょっとあきれ顔で、服で取り繕うつもりじゃないでしょってたしなめられちゃった。しょん、ってなってるモネちゃんもかわいいけど、うん、もう落ち着こう。ね?多分、モネちゃんちに挨拶来る前のスガナミもこんな感じだったんだろな。いつかスガナミんちのサメたちに話聞く機会があったら聞いてみよっと。
と思ってたら、荷造りを終えたモネちゃんが僕の方を見た。わ!もしかしてもしかする?もう心の胸ビレがぱったぱたしちゃう。押し入れをごそごそしたと思ったら、サメの絵の白い紙袋!間違いない!
「サメ太朗ぅ。一緒に東京行こう!一人で新幹線乗ってくの無理ー」
行く行く!一緒に行くよ!もっちろん、任せて!
しかし、ご挨拶ってのはモネちゃんをしてこんなにテンパらせるもんなんだなぁ。
「あー、先生がウチに来てくれたの、サメ太朗なしで来たんだよね?予定より2時間早く着いてたけど、よく一人で来れたよねぇ。先生、すごいねぇ。かっこいいねぇ」
妙なところでスガナミの評価があがる…。まぁ、さすがのスガナミも、モネちゃんちに泊めてもらわざるを得ない時に、なんかサメ連れてこないとは思うけど…?モネちゃんはスガナミんちに泊まるだろうから、僕はそこでお留守番できるだろうけどさ。でもまぁ、スガナミもがんばれたんだし、モネちゃんも大丈夫だよ。なんたってモネちゃんだし。
僕を紙袋に入れて、赤いボストンバッグと手土産の紙袋の隣に置いて、準備完了!
ありがと、モネちゃん!いざ東京!
それにしても、この紙袋もくたびれてきたよねー。モネちゃんと僕のれきし、って感じ!あとオマケでスガナミ。
次の日、モネちゃんは僕を車の助手席に乗せて、出発した。出発する時、アヤコさんが「落ち着いて、しっかりね」ってモネちゃんを励ましてて、モネちゃんはお口をへの字になるぐらい力入れまくって、うん、って頷いてた。がんばろ、モネちゃん!僕がついてる!!
前に言ってた通り、まずは登米に寄って、サヤカさんに証人のショメーをもらうらしい。んで、新幹線の駅に車置いていくんだって。そんなことができるんだなぁ。便利な世の中だねぇ。登米から一時間ぐらい運転して、大きなお家の前に着いた。車が止まった音を聞いたみたいで、お家の中からサヤカさんが出てきた。モネちゃんが、運転席を転げるようにおりて、サヤカさんに抱き着いてる。ほんとに大好きなんだな、サヤカさんのこと。サヤカさんもとっても嬉しそう。
モネちゃんがバッグを持ってサヤカさんちに入っていって。しばらく待ってる間、僕は窓からサヤカさんのお庭を眺めてた。島の永浦のお家の中庭とはまた全然違って、山からの見晴らしがとってもいい。お日様もぽかぽかしてる。あ、あのアズマヤはモネちゃんが時々話してくれたとこのことかも。ここでモネちゃんはしばらく住んでたのかぁ。モネちゃんは海と山を繋ぐ人でもあるんだなぁ。
もっとゆっくりしてくのかな?と思ってたけど、意外に早くモネちゃんがお家から出てきた。車に乗り込んで、見送りに来たサヤカさんとお話してる。
「サヤカさん、ホントにありがとうございました。バタバタですみません。また先生と二人で落ち着いてお礼に来ます」
「いいの、いいの。気にしないで。はやく先生とこ行っといで。気を付けてね」
「はい!じゃあ、行ってきます!」
「いってらっしゃい」
きらきらの笑顔のモネちゃんを、サヤカさんがとってもやさしい目で見てる。こうやって見守ってくれる人がたくさんいるのが、モネちゃんとスガナミのカホーモノなところだよねぇ。サヤカさん、ホントありがと!!
新幹線の駅前に着いたら、車を停めて駅の方に。あー、ここ来たことある!むかーしに、モネちゃんがスガナミに会いに登米に連れて来てくれた時の駅!帰りにさー、僕にシットしたスガナミが僕のこと持ってかえろうとして、モネちゃんに叱られたとこ!あれ、もう何年前?なつかしーね!
新幹線の中では、モネちゃんはやっぱりソワソワしてて、お膝の上の僕をぎゅってしたり、スマホをなにやら操作したり、窓の外をわくわく眺めたりしてた。スガナミに会えるのはうれしいし、久しぶりの東京だし、でも何よりスガナミの両親に挨拶ってんでキンチョーするし、で、モネちゃんの中でいろんな気持ちがごちゃ混ぜになってるのがよく分かる。だいじょーぶ!僕がついてるよ!
東京駅に着いて、そのままスガナミの仕事場の病院に行くモネちゃん。ナカムラセンセーのショメーも今日もらっちゃうらしい。忙しいねぇ。しかも、スガナミは都合つかないから、ナカムラセンセーにだけ会うんだって。
病院の食堂の端っこに座って電話して、ちょこんと待ってるモネちゃんが、ナカムラセンセー会えるのにわくわくしてるお顔がとっても素敵。もともと約束してたからか、ナカムラセンセーはすぐやってきた。なんか見たことない青い服と白衣着てる。うわー!ほんとナカムラセンセー久しぶり!あのスガナミがコケかけた日ぶり!あれ、もう何年前?なつかしーね!
「中村先生、お忙しいところ押しかけてしまってすみません。ありがとうございます」
さっそくモネちゃんが立ち上がって挨拶してる。ナカムラセンセーは昔見たとおりのおっきな笑顔で、いやいや、と顔の前で手を振ってモネちゃんを椅子に座らせて、自分も向かいに座った。
「こんなお願いをしてもらえるなんて、名誉なことですから。ましてや永浦さんと菅波先生のお二人がついに、ですからね」
そのナカムラセンセーの言葉に笑いながら、モネちゃんが書類をとりだして、こちらにお願いします、とかしこまってお願いする。はい、かしこまりました、とナカムラセンセーも笑って、自分の重そうなペンでさらさらってなんか字を書いて、ペタンってハンコも押してくれた。
「はい、できました」
「本当にありがとうございます」
丁寧に頭を下げるモネちゃんに、ナカムラセンセーがやさしく声をかける。
「永浦さん」
「はい」
「本当に、ずっと菅波先生のことを待っててくれてありがとう。そして、こんなに長い間、一度も会えないようなことになってしまったこと、申し訳ないと思っています」
ナカムラセンセーが感無量って感じでモネちゃんに頭を下げるのを、モネちゃんがいっしょけんめい手をふって、それを止めてる。
「そんな、謝らないでください。中村先生や菅波先生、みなさんが最前線に立ち続けてくだっさったからこそ、私たちの生活が守られたんです」
「それでも、先が見えない中、あまりにも長い時間でした。永浦さんには感謝しかない」
その言葉に、モネちゃんもきゅっと唇を結んで、ナカムラセンセーに頷いてみせる。うん、ホントにモネちゃんにとってもスガナミにとっても、長いながい時間だったよね。
「菅波先生はどんなに状況が厳しくても、逃げ出さず立ち向かい続けいました。それでも、もう菅波先生もダメかもしれない、という日の翌日もちゃんと出勤して。彼も多くは語りませんでしたが、そういった日々の中で、永浦さんが支えになっていたことは間違いないんです」
「そうでしたか…」
「今回のことで、彼も医師であることの意味を多く自問自答したと思いますし、その上で、これからも医師であり続けようとするでしょう。永浦さんのキャリアと菅波先生のキャリアを、どうやって両立した良いものにしていくか、まだ葛藤も多いと思いますが、ぜひお二人には諦めないで進んでいってほしい、そう思っています。相談事があれば、いつでも声をかけてください」
ナカムラセンセー、いい人!そーなの!モネちゃんのお仕事の、スガナミのお仕事も、どっちもおんなじだけだいじなのよくわかってくれてる!!モネちゃんも、「ありがとうございます」って感無量に言って頭を下げてる。ね。こーやって頼れる人がたくさんいるって、ほんとにすごいことだね!
菅波先生がどうしても抜けられない仕事でごめんね、二人に揃ってお祝いを言うのはまた今度にぜひ、とナカムラセンセーは手を振って去ってった。ナカムラセンセーもいそがしーんだろーなー。そんな中、モネちゃんにこうやって時間を作ってくれるんだから、やっぱりいい人!サメの嗅覚で認定!
はわー。気仙沼から登米行って、東京来て、いちにちで大冒険だったねぇ。
んじゃ、東京のお家に向かおう!
他のサメたち元気かなー。なんだかんだ、久しぶりだもんなー。
僕が知らないスガナミの話、いっぱい聞かせてもらおうっと。
え、他のサメたちが知らないモネちゃんの話?それはなー、どーしよっかなー。