コージの晩酌いってら~!ってモネちゃんとスガナミを仙台に送り出した日、僕は日がな一日、居間でひなたぼっこしてた。朝ごはんの時、モネちゃんが連れて降りてくれて、そのまま居間の座椅子に乗せてくれたんだよね。多分、自分たちがいない間よろしく、って無意識なんだろな。ほんと、光栄なことです。
居間から見えるのは、アヤコさんがお洗濯物干してる様子とか、オジーチャンとコージがなんかの修理やってる様子とか。モネちゃんもスガナミもいないと、このおうちもなんだか感じが違う。アヤコさんのお教室の子供たちが来たら、また雰囲気は変わるけど。モネちゃんがスガナミと住むようになったら、こんな風になるのかー。それはそれで、ちょっとアヤコさんたち寂しいだろうな。まぁ、でも、モネちゃんは一回おうちでてるし、そうでもないのかな。
アヤコさんが、お洗濯物畳みながら「先生とモネ、水族館楽しんでるかしらねぇ」なんて僕に話しかける。ねぇ、楽しんでるといいねー。ここにいる間、サメ次朗はめっちゃお構いしてたけど、大きい水槽見るのはまた違うよね、なんて昨日の夜、楽しそうに二人はお話してたんだよ。
なんかもー、その二人でうきうきしてる仲良しっぷりがさー、爆発しろ!って感じで目も当てられなかったですよ、アヤコさん。どんなサメいますかね、ってなんでそれをモネちゃんが楽しそうにしてんのさ。すっかりスガナミのサメ好きぶりに感化されちゃって。ってサメの僕が言うのもなんだけど。んで、楽しみですねって言ってるスガナミが楽しみにしてるのって、もうサメじゃなくて水族館デートを楽しむモネちゃんを見ることだってバレバレな顔しててもう。
明日仙台で「またね」って言ったら、またしばらく会えない二人だし、もう気が済むまでデートしてくればいいと思う。んで、また僕がモネちゃん独り占めする。ふふーん。
その夜、オジーチャンが寝た後、ふらりとコージが晩酌に来た。いつもみたいにひょいって僕のことをお膝にのせて、呑みはじめる。今日は焼酎か~。呑む気まんまんだよー。まぁ、しばらくスガナミに気ぃつかってあんまり呑んでなかったもんね。コージ、お気遣いありがと。
ちびちび呑みながら、じわじわとコージが笑いだした。
「ほんとにモネと光太朗君はなぁ」
って、スガナミの呼び方が先生から光太朗君に変わってるー。すごい、スガナミ、めっちゃ気に入られてる。よかったなぁ。牡蠣棚も近くまで見学に行かせてもらったり、なんか、キンユーのお仕事の話も教えてもらってたもんなぁ。自分の今の仕事も前の仕事も興味持たれたら、そりゃコージもスガナミのこと気に入るよねぇ。スガナミは気に入られようとしてんじゃなくて、ほんとに興味あること聞いてるだけってとこがいいんだろうな。
「今更何遠慮されてもなぁ。ニコイチでやってくって、とうの昔に決めてて、そんでずっと堪えてきたんじゃねぇか。あの二人はほんともうちいとわがままになってもいいぐらいだぜ。なぁ、サメ坊主」
そだよねー!僕もそう思う!ちなみにサメ太朗ですが。スガナミのことも光太朗君になったことですし、そろそろ僕もサメ太朗だという事実を受け入れてもらえないでしょか。
ホヤとウニをのせたお皿や缶ビールとグラスをのせたお盆を持ってきたアヤコさんがコージの向かいに座った。ねー、言ってやってくださいよ!
「ほんとにねぇ。それぞれのやりたいことをやり抜くってとこは、ある意味、二人ともとってもわがままなんだろうけど」
コージが缶ビールをぷしゅって開けてアヤコさんのグラスに注ぎながら、ほんとになぁって苦笑してる。
「光太朗君もまだしばらく東京から動けなくて、モネも気仙沼事業立ち上げ中でここから動けなくて、だろ。どうするのかねぇ。俺たちがやきもきしても、もうしょうがねえけどさ」
「その辺も、また二人で話はじめるんじゃないですか。ね、仙台ででもゆっくり話しできてるといいけど。ここにいるといろんな人やサメが先生構っちゃうから」
「まぁなあ。やっとまた来れたんだしな。てか、モネのやつ、ドチザメに嫉妬してなかったか」
「先生がとってもお構いしてたから。おじいちゃんがもうちょっと生簀で飼うんですって?」
「まぁせっかく作った生簀だし、しばらく泳がしとくってよ」
モネが写真送ってあげられるわね、とアヤコさんがふわりと笑う。そーなんだよね!サメ次朗もうちょっといるっぽい。生簀まで僕は連れてかれないから会えないけど。生簀にいられる間にまたスガナミが来れたらいいなー。
「サメ次朗っていうんですってよ、あのサメ」
「こいつがサメ太朗だから?」
ってコージが僕のことを見てくる。ほらー!知ってんじゃん、ぼくがサメ太朗だって。
「そうみたい」
アヤコさんがくすくす笑う。
「はぁ~。ほんとにお仲のよろしいことで」
へへっと笑いながらくいって焼酎飲むコージが、うれしそうでちょっと寂しそう。
「言ってる間に、またモネもこの家出てくなぁ」
「そうねぇ」
アヤコさんがしみじみ頷きながら、僕のことを指さす。
「サメ太朗と飲めるのも、あとちょっとかもですよ」
アヤコさんのその言葉にコージが僕のことを見下ろしてくる。
「そうかぁ、そうなるよな」
「もうすっかり飲み友達だから」
「ちょいと話せる相手がいるってのもいいもんよ。サメ太朗置いてってくんねぇかな」
「そういうわけにはいかないでしょう、先生のサメでモネのサメなんだから」
「だよなぁ」
「ま、私がお付き合いしますから」
ってアヤコさんがコージに焼酎を注いで、炭酸水入れてあげてる。
ほんと、アヤコさんいい人!そんでそのアヤコさんに大事にされてるコージもいいやつ!ちょいちょい酔っ払いだけど。ごめんねー、僕はスガナミからモネちゃんを託されてるからさー、そのお役目ばっかりは放棄できないんだわー。
あ、シャークタウン一緒に行く?
サメ三朗探すの付き合うよ!
ちゃんとコージマニュアルは引継ぎするし!
モネちゃん帰ってきたら相談してみるといいよー。