すーちゃんとネックレススガナミが登米にお引越ししちゃってしばし。モネちゃんが、きらきらした笑顔でお出かけの準備をしてた。スガナミが東京に来るらしくって、お洋服どうしようかなぁって悩んでる。ほんとスガナミが果報者すぎる。前世でどんな徳を積んだんだろうなぁ。まぁ、モネちゃんと出会ったことで使い切っちゃってる感じもあるけど。
僕のはなっつらをちょんちょんってして、いってきまーすって出発したモネちゃんを見送って、一晩ぼくはお留守番。なかなか会えない二人だから、ゆっくりできてたらいーな。他の日は僕がモネちゃん独り占めだし。
モネちゃんが明日はお仕事って日は、遅くても夜7時には帰ってくる。スガナミが登米に帰る電車もそれぐらいなんだって、前すーちゃんに言ってたよなぁ。今日もそれぐらいかな、って思ってたら、なんだか廊下からにぎやかな声が聞こえる。すーちゃんとモネちゃんがお話してるみたい。部屋の戸を開けたモネちゃんが、すーちゃんにいいよぅ、って言いながら入ってくる。おかえりー!どしたのー!
「いやいや、よくないよ、モネ~!それ、先生からのプレゼントでしょ?」
すーちゃんが指さすモネちゃんの首元に、昨日までなかったなんだか素敵なネックレス!
え?スガナミが?モネちゃんに?なんの天変地異?
そりゃすーちゃんもそんだけ食いつくよ。てかすーちゃんがんばれ!がんばって聞きだして!
思わず心の胸ビレを振っておうえんしちゃう。
荷物を置いて、僕をだっこしたモネちゃんがぺたん、って床に座るから、すーちゃんも差し向かいで座る。
「うん、先生が昨日くれたの」
「ね、ね。これ、どこのお店のか…知ってる?」
すーちゃんがモネちゃんを覗き込むようにして聞く。
え?なんかそんなすごいとこなの?おうさまのなの?
「うん、あの、箱に書いてあったから」
「そりゃそーだったわ。でもさ、でもさ、えっ、ここの?ってびっくりしなかった」
「そりゃ、したよ?最初気づいてなくて」
「えっ?箱の色で気づかなかったの?」
「色?」
「マジか…。よく名前だけでも知ってたよね」
「…映画のタイトルにもなってるよね?それにスタイリストさんの話でも出たことあるし」
「まぁ、そうか…」
なんかすーちゃんのテンションとモネちゃんのテンションの噛み合わなさがすごい!
すーちゃん的にすごい大ごとなのに、モネちゃんが泰然としすぎちゃってるんだな。
「ね、こんなこと言うのあれだけど、それのお値段…知ってる?」
「ちゃんとは知らないけど、高級…なことは薄々」
「帰り道とかで調べなかったんだ」
「しないよ、そんなこと~」
ごめん、ちょっとお手洗い、といって、モネちゃんが僕を床に置いてお部屋を出ていく。
残されたすーちゃんが、あきれ顔でモネちゃんを見送って、僕の方を見た。
「ねぇ、サメくん。あれ、ここのお家賃4か月分よりお高いよ、少なくとも」
おぉお。張りこんだなぁ!スガナミ!
「しかも、もっとギラっとしたブランドで攻めるんじゃないところが、また、菅波先生って感じだよねぇ~」
そうなんだ!それは僕ぜんっぜんわかんない!
あのねー、タイヘイヨー地域だと、サメの歯をアクセサリーにしたりするんだよ!
それにしなかっただけ、スガナミも成長してると思う!
戻ってきたモネちゃんが、すーちゃんと僕を見て目をぱちくりさせてる。
すーちゃんがなんでもないよ、って風に首をふってみせて、またモネちゃんが僕をだっこしてさっきの場所に座る。
「ね、ね。それくれたとき、先生どんなだったの?」
うわー、コイバナだ!これ、コイバナってやつ!
「えーっとね…」
と話そうとするモネちゃんのほっぺがちょっと赤くなってる。やだ、かわいい!スガナミめ!
「お部屋でケーキ食べてコーヒー飲んでお話してる時に、こうした贈り物をするのも初めてなんだけど…ってリュックから箱だしてきて、くれたの。私がびっくりして固まっちゃってたら、びっくりさせるつもりは…ってひっこめようとしちゃって」
「ひっこめるんかい」
ひっこめるんかい。
「うれしいので、見せてください、って開けたらネックレスで。で、着けてみていいですか?って」
「それで、それで?」
「着けてみたら、似合ってる、って言ってくれたんだけど、その後で箱のロゴに気づいて」
「あー、色で分かんなかったって言ってたもんね」
「色で分かるものなの?」
「あれはね」
すーちゃんが重々しくうなずく。すーちゃんすごいぜ。
「その、すーちゃんのいうお値段、は分かんないんだけど、その辺で買うような金額じゃないのは私でも分かるし、さすがに…って言いかけてたら、先生が、僕がしたくてしてるんだ、って優しく言ってくれて」
「その辺、あの人も譲らないとこゆずらないよね」
そーだよ!あいつは意外と頑固!特にモネちゃんに関しては一歩も譲らないからね。
それはまぁ、僕もだけど!
「寂しい気持ちに少しでも寄り添いたいから、って言ってくれて。お店の人にもめちゃくちゃ相談してくれたんだって」
「相談するんだ。できるんだ」
「餅は餅屋で、その道のプロに聞けるなら分からないことは聞け、っていつも言ってるよ」
「って、先生とモネは普段どんな会話してんのよ」
それねー、ふたりの通常運転!すーちゃん、気にしたら負け!
「で、モネもちゃんと受け取ることにしたんだ」
すーちゃんがうれしそうに笑う。
「うん。先生が一生懸命選んでくれたものだし、その気持ちを身に着けてられるなら、それはちゃんと受け取らなきゃ、と思って」
きっぱりと言うモネちゃんが美しい。ほんとそうやって気持ちを受け取ってもらえるスガナミはカホーモノ!
「そうだね。それはさ、スキンジュエリーっていってどんなコーデにも合うから、ずっと着けてられるし、いいと思うよ。お手入れの仕方は後で教えるね」
「すーちゃん、ありがとー!」
もー、ほんとすーちゃん素敵!
会話がひと段落したところで、すーちゃんがひときわ大きいリアクションで言う。
「いやー、菅波先生も、こーゆーところで年上感だしてくるって、油断してたわー。ただの青チェックじゃないのねー」
「え、先生の青チェックは素敵…だと思うけど」
モネちゃん、それはね、ただのひいき目。
「あの青チェックであのブティック行ったってこと?まぁ、スタイリングの問題なだけで、実はいいモノ着てたりするもんな、あの先生」
「すーちゃん、何をぶつぶつ?」
「あぁ、気にしないで!まぁ、とにかく!それ見て、色んな人がお値段とか、カレシがお医者さんでいいですね、とかいろーんなこと言ってくると思うけど、全部無視でいいからね」
「そんなに、見て分かるものなの?それで何か言われるものなの?」
ちょっと不思議そうなモネちゃんに、すーちゃんはまた重々しくうなずく。
「分かる人には分かる。またその匙加減が超いいところ突いてるのがマジかって感じなんだけど、そうなの。だけど、モネは、それに気持ち込めて贈ってくれた菅波先生のこと信じてたらいいからね」
「うん、そうする。ありがとう、すーちゃん」
ありがとう!すーちゃん!
ほんと、モネちゃんもスガナミもあんなだから、すーちゃんがいてくれてほんっとによかった!
もう、心の胸ビレでスタンディングオベーションだよ!立てないけど!
「そっか、そっかー。モネもこうやってカレシさんからもらったアクセつけちゃうようになりましたかー」
すーちゃんがにこにこしながら腕組みして、うんうんって感慨深げに頷いてみせて、モネちゃんが、もーって言いながら笑ってすーちゃんのお膝を叩いてる。幼馴染っていいねぇ。
スガナミ!今度すーちゃんに会ったら、ちゃんとお礼言えよー!