サメ太朗 おうちとサメ三朗をさがすモネちゃんがスガナミに「ショタイ」を持つ話をした次のつぎの週、予定通りにスガナミが永浦のおうちにやってきた。スガナミが永浦のおうちに来るのは二人がケッコンしてからまだ二回目なもんだから、なんだかまだ借りてきたサメみたいな雰囲気もだしつつ、コージやアヤコさんやオジーチャンに構われてる。そんで、コージはコージでスガナミに「お義父さん」って呼ばれるのにまだ慣れなくて、呼ばれるたびになんかちょっと、「お、おぅ」ってなってんのが笑える。そんで、そんなコージとスガナミをアヤコさんとモネちゃんがニコニコ見てる。平和ってこんなことを言うんだろねー。
「だからさ、俺はそうした方がいいと思うよ」
ってスガナミにビールを注ぎながら、ちょい酔っ払いのコージがなんかうんうん、って頷いてる。
「光太朗君が心配する気持ちも分かるけど、モネだって所帯持ちの自覚が出てきたってことだしよ」
スガナミはビールを注がれながらシンミョーな顔してる。
「お義父さんがそうやって応援してくださるなら、はい」
なんか覚悟決めた顔して頷いてる。
まぁ、って言いながら、モネちゃんが連れて降りてくれた僕を持ち上げてコージがお膝の上にのせる。
「サメ太朗と晩酌できなくなるのは、なんかさびしいけどな」
にやりと笑うコージに、スガナミが目を白黒させて、モネちゃんが笑ってる。
「もー。お父さん、すっかりサメ太朗を晩酌相手にしちゃってるんだから。でも、家を出るならサメ太朗は連れてくよ。先生のサメなんだから」
「だよなぁ」
あ、じゃあ、ってスガナミが口を開くから、コージとモネちゃんがおんなじ顔してスガナミを見る。
「シャークタウンで別のサメを買ってきましょうか。そいつの代わりに」
そう! さすがスガナミ分かってる!
「じゃあ、その子は…サメ三朗?ドチザメがサメ次朗だし」
そう!さすがモネちゃん分かってる!
「お、そういうことになるな。そうだなぁ、サメ三朗、いいな」
コージがくしゃりと笑って、スガナミとモネちゃんが顔を見合わせてほほ笑み合う。ばくはつしろ!あ、でもばくはつしたらサメ三朗連れてこれない。今のばくはつしろ、はナシ!
「じゃあ、明日、あちこち内見した後、シャークタウン行きますか」
モネちゃんがポンって両手で膝を叩いて、スガナミがそうですね、って頷いてる。いや、スガナミ、それフツーにシャークタウン行きたいだけ…。おう、んじゃよろしくな、ってコージが僕の背中をポンポンってたたいた。
次の日、モネちゃんとスガナミは連れ立って、新しいおうちをあちこち見に行く。モネちゃんが僕をお出かけの紙袋にいれてくれるもんだから、スガナミは連れて行くんですか?って言うけど、そりゃー、普段その家で生活するの、モネちゃんと僕だよ?ってなもん。モネちゃんも、スガナミのことをグモン!みたいな顔してみてる。
「だって、サメ太朗は新居に連れてくから、収まり具合とか気になるじゃないですか」
「そんなもんですか」
「です」
モネちゃんがドキッパリ頷くもんだから、スガナミもそれ以上は何も言わない。
ばーか、スガナミのばーか。
モネちゃんの決意を聞いてから、スガナミがながーい条件のリストを送ってきて、モネちゃんがそれに苦笑しながら、二人で何回も電話してた。あーだこーだ言いながら、探したいくつかの候補のおうちがあって、それを今日一緒にみて、そんでどこにするか決めるらしい。いいところだといーね!
モネちゃんが車を運転して、スガナミが僕のはいった紙袋を膝にのせてしゅっぱつ!島から橋を渡ってお山のホンドに。ひとつめのおうちのところについたら、前にフドーサンやさんの人がいた。なんかめっちゃクツがとがってる。ミツクリザメの化身なのかな。モネちゃんもスガナミもとっても丁寧に頭下げて、今日よろしくお願いしますって言ってる。おぉー、2人ともオトナー!いや、うん、オトナだからケッコンしてんだけどさ。ヨソの人と会ってる二人を見ることがあんまりないからフシギな感じー。
みんなでテコテコ階段のぼって、二階のおうちに入る。わー、なんもないー!ふしぎー!つい紙袋の中から興味津々で見ちゃう。モネちゃんはお台所に興味津々で、スガナミは窓の外とかあれこれ見たりしてる。フドーサンやさんが、ここはリフォームしたてでキレイで~とか、オフロがオイダキできて~とかなんか色々説明して、モネちゃんもスガナミもフムフムってそれを聞いてる。なんか、確かに永浦のおうちとも、汐見湯のおへやとも違う匂いがするねー。
次に見たおうちは、三階だった。モネちゃんがカラリってお部屋の奥の窓をあけたら、キラキラの海が目の前いっぱいに広がってた。丘の上の三階でとってもいいミハラシ!わー、ってモネちゃんが気持ちよさそうで、それを見るスガナミのうれしそーなこと!やっぱり、2人でお部屋のあちこちを見て回って、あーだこーだ、フドーサンやさんにいろいろ聞いてる。スガナミがいっしょけんめーになんか聞いてるのを、モネちゃんが頼もしそーに見てる。そだよね、スガナミは一人暮らしのプロだもんなー。てか、そもそもそろそろ一緒に住めフカー!
もう一つみたおうちも三階で、最後のおうちがまた二階。そっか、スガナミの譲れない条件のひとつが一階じゃないこと、なんだろなー。他にもいくつかご紹介できそうな物件はあるんですが、あとも全部二階で、このエリアで今ある三階建ての空き物件はさっきの2か所だけですね、なんてフドーサンやさんも言ってる。三階ってそんなにレアなんだー。
一つひとつのおうちにたっぷり時間をかけて、なんならモネちゃんは毎回僕を紙袋から取り出してお部屋のどこにいるとよさそうかって考えたりしてくれて、フドーサンやさんが「こだわりのインテリアですね」なんてトンチンカンなことを言ったりして、モネちゃんとスガナミがおうち見学ツアーを終わらせたのはすっかりお昼を過ぎたころだった。ふいー!疲れたネー!
「一両日中にご連絡します」ってムズカシー言葉でなんかスガナミが締めくくって、フドーサンやさんと分かれた2人はそのままシャークタウンに向かった。サメ三朗さがしだ!
って思ったら、ご飯食べるっぽい。まあそうだよね、おなかすくよね。
何食べたいです?なんて小首をかしげてるモネちゃんがかわいいし、そんでスガナミも何がいいかなぁなんて言いながら、それよりもモネちゃんがかわいいって思ってるのがバレバレでもうスガナミはばくはつするしかない。結局、モネちゃんのお仕事の知り合いのお店でそこのご自慢のカイセンドンってのを食べることにしたらしい。テーブルについて注文した二人は、さっそく見てきたおうちのことをあれこれしゃべってる。
「調べて納得したけど、ほんとに三階以上の物件ってないんですね」
「ね、ないって言ったじゃないですか」
「こちらで10階建て以上の物件も見かけた気がしていたけど、そもそも災害公営住宅だと言うことを知らなかった。自分の無知を恥じます」
「それは仕方ないですよ。東京とも登米とも住宅事情は違うから」
「そうだねぇ。オートロック物件ももちろんないし…」
「ですねぇ」
なんだか、2人してしみじみしてて、おうちさがしってむずかしーんだなー。
「で、百音さんはどこがいいと思った?」
スガナミの質問に、モネちゃんがうーん、って悩みながら口を開く。
「そうですねぇ。二つ目かなぁ。島へのアクセスもいいですし、間取りも使い勝手悪くないんじゃないかと。2DKなら仕事の部屋と寝室も分けられるし。それに、光太朗さんこだわりの三階だから、やっぱり安心、でしょ?」
「まぁ、三階だからというのを妄信はできないけど、やっぱり少しでも。周囲から上がれるような構造物もなかったし」
「先生はどう思った?」
そうだねぇ、ってスガナミが口を開いたところで、注文したお料理が届いた。なんだかツヤツヤのお魚がたくさんごはんの上に載ってておいしそ!2人も嬉しそうにお料理をみて、いただきます、って声をそろえてる。んで、ご飯食べながら、スガナミも自分の考えを話して、モネちゃんがふんふん、って聞いて、そんで質問して。あー、ほんとどこでなんの話をしても2人っぽい!ブレなさすぎてマジスガナミだしマジモネちゃん。
結局、ご飯を食べながらのキョーギのケッカ、モネちゃんがいいなって言った二つ目のおうちにすることにしたいみたい。家に帰って最後いろいろ確認して、明日には電話しましょう、ってスガナミが話を畳んだ。住むところ決める、ってホントたいへんなんだなー。
そんで、せっかく来たから、って2人でシャークタウンのサメの展示を見る。前にも一回連れてきてもらったことあるけどさ、内容前と一緒じゃない?ってサメの僕でも思うのに、スガナミはやっぱり熱心に展示見てるし、そんでモネちゃんはそんなスガナミにやっぱりあれこれ質問してる。サメについてほんとよくそんなに話すことある…って、いや、サメの僕が言うのもなんなんですけどね。え?ホホジロザメの胎仔に成魚と異なる形態の歯を持ってる時期があって、子宮の分泌液に脂質が含まれていることも分かって、ネズミザメ類には栄養吸収が多段階であることを予言した30年以上前の論文の予言が証明されたとか、マニアックすぎない?そんでそれをふんふんって聞いちゃうモネちゃんもどーかしてる。
なんだかんだスガナミがしばし語り終わって、じゃあサメ三朗探しに行きましょっか、ってモネちゃんがわくわく言うもんで、僕もわくわくしてきちゃう。サメ三朗、いるといーね!
シャークタウンのお店エリアに行ったら、モネちゃんがスガナミの手を引っ張ってサメぬいエリアに行く。あ、ぼくのキョーダイたち!わー!いっぱいいる!紙袋からほえーって眺めてたら、お店の人がきた。
「そちら、以前お求めになられたんですか?同じものを?」
って僕のことを指さして。
モネちゃんがにっこり笑って、そうなんです、ってお店の人と話してて、なんだかんだそーゆーお店の人とカジュアルに雑談するスキルを持たないスガナミがすげぇって思ってるのがわかる。それな。
モネちゃんはそーゆーとこ、アヤコさんゆずり。すごい。
お店の人が、ごゆっくり~って言って去っていって、スガナミが「サメ太朗連れてきたらややこしいの忘れてた」って笑って、モネちゃんが「そんなの、ウチのです、ってちゃんと説明したらダイジョブですよ」って心強いことを言う。こんなピッタリの腹巻きもしてるんですから、って言うけど、なー、スガナミにそれができりゃ世話ないよ、モネちゃん。
「どの子がサメ三朗でしょう。先生は、サメ太朗を連れて帰る時、どうやって選んだんです?」
ふーむって棚を見回すモネちゃんの質問に、スガナミが首をかしげてる。
「うーん、どうだったかなぁ」
えーっとあんときはねぇ。なんかもうスガナミと目が合ったよね。僕、こいつに連れてってもらう!って思ったもん。だからサメ三朗もきっとこっち見てるよ。ってまた紙袋から棚見てたら、なんかみぎっかわから声がした気がする。モネちゃん、スガナミ、あっちあっち!
ふーむって二人が棚をみて、右側の端にいたサメをふとスガナミが指さした。
「なんかこいつ、お義父さんに似てませんか」
「そうですか?あ、でもそうかも。なんか似てる。サメ太朗よりちょっとお鼻は丸いかな?」
「ちょっとずつ顔違うもんですね。うん、でもやっぱりなんかお義父さんに似てる気が」
「確かに。じゃぁ、この子にします?」
「そうしよう」
そういってスガナミが持ち上げたサメが、わーい!って喜んでるのが分かる。わーい!サメ三朗だ!
そんで、シャークタウンを出てモネちゃんの車に向かう時には、モネちゃんの手に僕の紙袋、スガナミの手にサメ三朗の紙袋がさがってる。僕の紙袋に年季が入ってるのがむしろベテランって感じがするよねー。サメ三朗は、昔スガナミが僕にしてくれたみたいに、ビニールをとって、お顔を外みれるようにしてもらってて、久しぶりの外になんかワクワクしてるみたい。
またモネちゃんが運転席に座って、スガナミのお膝の上で僕とサメ三朗が初対面。こんちは!僕ね、サメ太朗!そんで、キミはサメ三朗って名前になるんだよ!って、そしたらサメ三朗が、マジすか!って言う。ね!それがマジなんだよー!そうっすか…。んじゃ、サメ太朗さん、よろしくっす!ってサメ三朗とは仲良くできそう!
永浦のおうちに帰ったモネちゃんとスガナミは、見てきたおうちのことをコージやアヤコさんにもお話して、次の日にはフドーサンやさんに電話してた。再来週にはモネちゃんはお引越しするってことで、そっからの準備はアヤコさんとモネちゃんが動くことになって。僕はといえば、夜な夜な、サメ三朗にコージやアヤコさん、オジーチャンに関するこのおうちのことをいろいろ引継ぎしなくっちゃいけなくて、これまたタイヘン!
んでも、スガナミからサメ三朗を受け取ったコージはとっても嬉しそうだったし、そうやってサメがモネちゃんとモネちゃんの家族をささえられるのはとっても光栄なことだし、このタイヘンはうれしいタイヘンだよね!