AIノベリスト、1 吾輩は猫である。名前はまだない。
そう名乗るのは二度目だが、一度目の時と違って、今回は別に気取ってるわけじゃないし、大真面目な話でもあるのだけれど……まあ、聞いてくれれば分かるだろうさ、俺の言葉の意味がね── ***
「いやーっ、この店、ほんと雰囲気いいわよね!」
「そうだねえ……なんというか、隠れ家的な感じ?」
「えぇ~、でもここらへんって結構分かりやすい場所にあるんじゃなかったっけ?ほら、あの電柱に書いてある住所とか見れば、すぐ分かっちゃうと思うけど……」「んー、そうなんだけどねぇ……あんまり目立たないようにっていう方針なのかなぁ」
「そっかー!なるほどね、そういう考え方もあるのかあ」「そういえば、結菜ちゃんはどこに行ったんだろ?」
「あれ?さっきまでそこにいたと思ったんだけど、トイレかなぁ?」
すると、その時だった──ガッシャーンッ!! 突如、窓ガラスの割れる音が聞こえてきたかと思えば、何かが勢いよく店内へと飛び込んできたのだ!……そして、その衝撃によってテーブルの上に並べられていた料理や飲み物が宙を舞い、辺り一面に飛び散ってしまったのだが…… しかし、そんなことよりも、今目の前で起きた出来事の方がよっぽど重要であった……だって、それは……つい先程まで普通に会話をしていたはずの仲間達が、突然苦しみ出したかと思えば、まるで身体中の肉が内側から食い破られていくかのように皮膚を突き破りながらメキメキ音を立てて巨大化していき、そして瞬く間に化け物の姿へと変貌してしまったのだから……
「う、嘘でしょ!?」
「ちょっ、えぇっ、これどういう状況よ!!」
『グギャアァァ!!』『ウゴオォ!』
「ひっひぃいいいっ!!!」……一体全体、何が起きてるのよぉおおおっ!!! 私は咄嵯の判断で近くの椅子を掴み取り、それを盾代わりにしながら必死に逃げ惑っていた……だけど、その逃げている最中にも背後からは次々と化け物の叫び声のようなものが聞こえてくるし、それになんだか身体中を締め付けられるような感覚がずっと続いていて気持ち悪い……
「こ、このままじゃ、私も食べられちゃうかも……」
私は一か八か、手に持っていた椅子を力一杯投げ飛ばしてみたのだが、案の定その攻撃は全く通用しなかったらしく、化け物は一瞬怯みはしたもののすぐにまた追いかけてきてしまった……『ギィヤアァッ!!』「きゃあぁあっ!」
そして、とうとう追い詰められてしまいそうになった時、私はもう駄目だと諦めかけた……でも、その時だった──
『ドカアッ!!』
「な、なんの騒ぎだこれはっ!!」
「え?」
何者かの声が聞こえたと思ったら、次の瞬間には誰かに腕を引っ張られてその場から連れ出されてしまった……そして、そのまま店の裏口の方へと連れて行かれたかと思うと、そこにはあの不思議な格好をしたお兄さんがいたのである……
「ふぅ……間一髪間に合ったみたいですね」
「あ……」
そう言って息を吐くお兄さんの姿を見て私は思わず固まってしまった……何故ならばそのお兄さんの姿はまるでさっきまで見ていた夢の中に出てくる登場人物のような姿だったからだ……
(夢の中で見た時は確か黒いコートを着ていたけど、今は白いマントみたいなもの羽織っているし、それに仮面だってつけてる……)
そんな事を考えていた私に対して、その謎の人物(?)は私の方を見て何故か少しだけ驚いた表情を浮かべていたのであった……
「まさかこんな所で君に会うとはね……君はどうしてここにいるんだい?」
そう聞かれても、私はこの状況についていけずに混乱していてまともに答える事が出来なかった……
「えっと、その……」
「まぁ、いいや、とりあえず詳しい話は後回しにしてまずはこの場を離れよう」
「う、うん」
「よし、いい子だ」
そして、その人物は私の頭を撫でると、今度はその手を私の方に伸ばしてきたのである……
「え?な、何を……」
「大丈夫だよ、ちょっと眠くなるだけだから」
そして、その人物が何かを唱えながら指をパチンと鳴らした途端、急に意識が遠退いて私はその場で気を失ってしまった……
「ん……あれ……ここは?」
次に目を覚ました時、私は知らない部屋のベッドの上に寝かされていたのである……しかも、よく見ると私は自分の部屋着ではなくて普段あまり着ないようなドレスを着せられていたのだ……
「一体どうなってるの!?」
(私はさっきまでお店で買い物をしていたはずなのに……これじゃあまるであの夢の中みたいじゃない!!)
しかし、いくら考えてみてもこの状況を説明できる答えが出てこなかったので、ひとまずこの部屋に誰かいないか探しに行く事にしたのであった…… そして私はゆっくりとドアを開けるとその扉の向こうには見知らぬ男の人が立っていたのである……
「えっ!?ど、どちら様ですか!!」
(やっぱり夢でも見ているのかな?それにしても随分リアルな感じだし……本当にここ何処なんだろう?)
「あっ、目が覚めたんですね」
するとその男性は私に向かって優しく微笑みかけてくれたのだった……
「良かったです!このままずっと目覚めなかったらどうしようかと思っていましたので」
「え、えっと貴方は誰ですか?」
「ああ失礼しました、自己紹介がまだでしたよね、僕はアルフィーと言います、よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いいたします」
「それで早速ですが貴女の名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「わ、私はエメルダと言います!」
「そうですか、良い名前ですね」
「そ、そんな事無いですよ」
「いえいえとても素敵な名前です」
「ありがとうございます」
「ところでどうしてここにいるのか覚えていますか?」
「いやそれが全然分からないんですよ……」
「なるほど、では僕から説明させていただきますね」
「はい、是非とも教えてください」
そして私はアルフさんの話を聞く事になったのだが…… 要約すると私はどうやら馬車の事故に巻き込まれてしまったらしいのだ……その話を聞いてみるとその時の事を鮮明に思い出す事が出来たのである…… その日私は家族と一緒に王都へ行く為に町を出発して森を抜けて街道に出たところまではしっかりと記憶していた…… ただそのあとの記憶が全くないのである…… 恐らくその辺りで気を失ってしまったと言う事なのだろうか? しかし何故森の中にいたのかという疑問が残るし、そもそも今自分が居るこの場所がどこなのかという事もさっぱりわからないのであった