AIノベリスト18「ん……」
いつの間にか眠っていたらしい少女は、椅子に座ったまま目を覚ました自分に気付いて小さく声を上げた後、ゆっくりと周りを見渡したそこは教室だ、それも美術室ではなく、彼女の通う学校にある普通科の一年生用校舎の、三階端っこに位置する廊下の端にある、誰もいない空き部屋の一つだったはずだとぼんやりとした頭で思い返すと、彼女は自分の手元を見て、それから顔を上げて壁にかけられた時計を見た後、「……ああ」と小さな溜息のような吐息を漏らして立ち上がった、時刻は既に午後六時を過ぎていた、随分と長い時間寝ていたものだなと苦笑いを浮かべながら、ドアのノブに手をかけて、扉を開いたところでふと立ち止まる、室内を振り返るとそこには何もない空間があるだけだ、その何もない空間を見ながら、彼女は再び呟くように言った
「……今日は、楽しかったな」
それは独り言だったのかもしれない、それともまだ夢の中なのか、それともその両方なのか、どちらにせよ、彼女にとってはどうでもよかった、ただそう思うことが出来たという満足感さえあればそれで良かった、しかし、だからこそ、その言葉の意味を深く考えなかったのだろう、彼女はいつものように、明日もまた描くのだという決意を持って、美術室へと向かうために階段を下り始めた、しかし、足を踏み外しそうになる、危ういバランスでなんとか体勢を立て直すものの、一度崩れてしまった心のバランスは元に戻らない、手すりを掴む手に力が入らない、視界が揺れているような錯覚を覚えながらも、必死になって壁に寄り掛かり体を支える、まるで何かに酔っているかのような、平衡感覚が失われていくような感覚に戸惑いながら、少女は踊り場まで辿り着く、そこでようやく呼吸を整えて、何が起こったのかを考える余裕が生まれた
「なんなんだろ……」呟いてみても答えなんて出るわけがないとわかっているのに、つい口に出してしまう自分に腹立たしさを覚える日々が続いていたある日のこと―――
「……?」
いつものように美術準備室に入り、スケッチブックを広げて鉛筆を握った瞬間、不思議な気配を感じた気がしたのだが、
「気のせいかな」
鉛筆を握りなおして再び白紙を見つめると、不思議と心が落ち着くような感じがする、その感覚に身をゆだねるようにして、ゆっくりと鉛筆を動かし始めた、その時だった
『……』
声が聞こえたわけではない、ただの幻聴のようなものだったのかもしれない、しかし確かに何かの声を聞いた気がした「え?」
それは、懐かしくもあり、聞き覚えのない響きでもあったように思う、思わず顔を上げて周囲を確認する、もちろん美術準備室に自分以外の人間は居ない
「今の……」
もう一度耳を澄ます、今度はさっきよりもはっきりと聞こえる気がした、その音の正体を探るために、意識を集中させる、すると
『助けて』
そんな言葉が、鼓膜ではなく頭の中で響いた気がした「え?」
まるで助けを求めるような、悲鳴のような、それでいて切実な祈りにも似た感情の奔流を感じて、思わず椅子から立ち上がる、そして周囲を見渡すと
「……っ!?」
そこにあったのは、いつの間にか教室の中を満たしていた闇色の空間と、その中にぽつんと浮かぶ光点だった『たすけ……て』
弱々しい声と共に、その光が徐々に大きくなっていく、いや、近づいてくる?
「待って!」
咄嵯に手を伸ばす、その手が届く前に光点は消えてしまった、でも確かに感じたのは
「助けてって言った」
あの瞬間、確かにきさらは祈っていた、救いを求めていた、なのに何もできずに終わってしまった後悔に押し潰されそうになる中で
『たすけて』
再び声が聞こえた気がした
「……どこ?」
きょろきょろと見渡してみても、目に映るのは闇色の空間だけだ
「何?誰の声なの?」
「たすけて」
「どこに居るの!?」
「たすけて」
「たすけて」
「たすけて」
「たすけて」
「……っ!」
四方八方から聞こえる無数の声に、きさらは思わず耳を押さえた
「だれ……なの?」
「たすけて」
「たすけて」
「助けて」
「助けて」
「たすけて」
「助ケテ」「タスケテ」「タスケロ」「タスケラレ」「タスケテ」