AIノベリスト17完成された芸術とは何か。
モナリザ、ゲルニカ、ミロのヴィーナス、ダビデ像、太陽の塔、ひまわり。世界に数多ある名作たる芸術はしかし、果たして完成されていると言えるだろうか。
精緻であること、巨大であること、写実的であること、感動を引き起こすこと。芸術の完成を人は太古より模索し続けてきた。その果てに生まれた作品が名作と謳われようと、しかし完成には程遠い。
何故なら時に芸術は前提となる知識を必要とするからだ。
たとえばモナリザは、その絵に秘められた緻密な技法やモデルの謎を知らなければ、何故世界中から絶賛されているのか理解できないだろう。
たとえばゲルニカは、その怖ろしく巨大な絵が描かれた背景を知らなければ、子供の落書きか何かだと口さがない者は嗤うだろう。
何も知らない子供が興味を抱かないものが、あるいは偏見に満ちた目でしか芸術を鑑賞出来ない人間が見るものが、完成された芸術と言い張れるだろうか。
ならば完成された芸術とは────
☆★☆「……んぁ?」
見慣れない天井と聞きなれない音に意識を引き戻されるように目を覚ましたとき、最初に見えたのは見知らぬ白い部屋の風景だった……なんてこともなく、ただ単に見覚えのないベッドの上で寝ていただけだったりするのだが、とりあえず状況を確認しておくとしようかと思うわけでして……。
まず俺の名前は平義光(ひらよしみつ)年齢は二十歳で大学生だ、今日は講義もなかったので家でゴロゴロしていたはずなのだが、なぜか俺は知らない部屋の中、しかも服を着ていない状態でベッドの上に居たんだよね、うん意味がわからねぇな?さて次は体を動かそうとする前に自分の体を確認でもするかと思ったその時、突然視界が歪み始めたと同時に強烈な頭痛に襲われ思わず頭を押さえながらその場でうずくまることになってしまった
「ぐっ……な、なんだこれ」
そのまま痛みに耐えていると次第に頭痛は収まっていったので、何とか立ち上がり周りを見渡すとそこには見たこともない部屋が広がっていた、そこでもう一度自分の体の状態を確認することにしたのだが、何故か胸元に違和感を感じたので視線を落とすと、どう見ても女性のものと思われる胸部が見えた
「……え?」
一瞬何が起こったかわからなかったが、すぐにこれが夢であると結論付けて頬をつねってみたが、ただ痛かっただけだった
(うぅーん?これは一体どういう状況?)
とりあえず自分の姿を確認できるものはないか辺りを探したところ机の上に手鏡を見つけたのでそれを手に取って自分の顔を確認したところ、
「……誰これ」
思わず声に出してしまった、それほどまでに今の自分は見慣れた自分とはかけ離れた姿になっていたからだ、まるで別人のような自分の顔をじっと見つめながら、自分の名前を思い出そうとすると、
「あれ?」
名前が出てこない、というよりも、そもそも自分に名前があったかどうかすら怪しくなってきた、何か大事なことを忘れている気がするのだがそれがなんなのか思い出せない、とてつもない喪失感に襲われて、
「……」
そして唐突に思いだした、自分が誰であるかを、何故ここに居るかを、ここはどこで、今はいつで、何時何分何十秒なのか、それを思い出したら、今度はどうしようもなく悲しくなって、
「うっ……ぐ……」
嗚咽を抑えられなかった、喉の奥から熱い塊がこみ上げてくる、それを堪えきれず吐き出すと、真っ赤な花びらが溢れ出した、自分の口から、赤い花弁が零れ落ちて床に散らばる、まるで血の海みたいに、その真ん中で両手と膝を突いて項垂れた少女は、ただ泣き続けるしかなかった
「大丈夫!?」
肩に触れる感触に顔を上げると、心配そうに覗き込む女の子の顔があった
「えっと、その」
「立てる?」
差し出された手を取ると、優しく引っ張られるままに立ち上がって、目の前に立つその子を見上げる形になった
「ありがとうございます」
「ううん、気にしないで」
黒髪のショートカットがよく似合う、ちょっと小柄な女の子だと思った
「それで、どうしてここに……美術大学ですよね?ここ」
「んー、なんていうかな」
困ったように笑う女の子は、まるで自分と同じに思えた
「私、絵が描けないんだよね」
「えっ」
「でも、どうしても描きたいものがあるんだよ」
「……」
「それで、とりあえず描こうと思って」
「へぇ……」
「そしたら、美術の授業中に眠くなってさ」
「寝ちゃったんですか?」
「うん」
「先生、怒ってました?」
「たぶん」
「なんでそこで自信なさげなんです」
「うーん、だって私、ずっと描いてきたけど、まだ満足できるものができてないもん」
「…………はぁ」
呆れたようなため息が聞こえるのも当然だと思ったのだけど、意外な言葉が続いたので思わず顔を上げると、そこにはいつものような困った笑顔があっただけだったから、どう反応して良いかわからなくなったのは仕方がないことだと思うんだよね……?
「あのですね、別に私は絵がうまいとかそういう話をしてるんじゃなくて」
「えっと、でも私、下手だし」
「確かに、あなたの腕前はお世辞にも上手とは言えないかもしれません」
「うん」
自分で言ってて悲しくなってきたので、ちょっと泣きそうだったりなんかして……うぅ、我ながらめんどくさい性格をしていると思うんだけどなぁ……「ですが、私はあなたの描く絵が好きです」
「へ?」
「いえ、別にあなたに好かれたくて言っているわけではありませんので誤解なきように」
「…………」
何この子、なんなの、どういうことなの!?