そして、ある日のこと―――
「……あれ?」
いつものようにスケッチブックを広げていたとき、ふとした違和感を覚えたのだけれど、何に対して感じたものだったのかはよくわからなかったから、特に気にしなかったのだが……それはすぐにわかった
――ここじゃないんだよねー…………。
美術系の学校でも、美術予備校でもない普通の公立高校の三年生になった春休みのこと、ぼんやりとした頭のまま、ただ漫然と街中をあてどなく歩いていたとき、たまたま目に入った美術展の看板を見て、ふと思い立ったのが始まりだつたと思う
『高校生の部・最優秀賞』という文字に惹かれたのは確かだけど、それ以上に気になったのは、展示されていた一枚の絵だったからだろうと思うことにしたかったが、それは違うのかもしれないとも思うようになっていたからだとは思いたくはなかったからでもあるのだが……
(……まぁ、なんにせよ、だ)
会場の入り口に飾られていた看板の前で、一人の男が呟いた言葉の意味を知るものは誰もいないのだった――
「うぉおおおっ!なんという技術力だぁあああっ!」
「このCGは一体どうやって!?……いや待て、このプログラムは何だ?! そもそもこれは……」
「えっと、その、自分で作ったんですけど……」
「信じられん…………この私が負けるとは」
「うーん、でもわたしの絵はまだまだですから」
「いやいや、才能の問題ではないと思うぞ?私だって芸術方面の才能など皆無だし」
「……え?」
だからこそ、目の前の人物が言った言葉の意味がわからなくて、ぽかんとした顔を浮かべてしまうのは仕方ないことだろうと思った――のだが、相手の方も同じ顔をしていることに気付いて、思わず目を瞬かせたのだった……
「ん?どうかした?」
ふっと意識が引き戻されるのを感じると同時に、目の前にある顔に驚いてしまうのを抑えられない――ああそうだ、美術大学に通うために実家を出て一人暮らしをしているアパートの部屋だ、と数秒遅れて理解すると共に、その相手も思い出すことができた――そして同時に、この部屋に自分以外の人間がいることを思い出した時には、相手が既に立ち上がっていたところだったのだけど、それも無理はないと思うのは許してほしいものだと思ったところで、相手の動きが止まったのに気付いた……いや、違う、こちらを見下ろしたまま固まっている?
「……えーと?」
「うわっ!?」
とりあえず声をかけてみると、まるで幽霊でも見たような反応をされてしまったのはどうしてだろうと思いつつ、改めて見てみると、それは確かに驚きの反応だと思うしかなかった……なんというか、全体的に青白い印象を受ける人だったからだ、特に目つきが悪いとかそういうわけではないのだが、肌の色が病的に見えるせいなのか、あるいは髪色が黒ではないことが原因なのかもしれない、ともかくそんな感じの人のようだ……まぁ、初対面なので、あくまで外見上の感想だが
「あのー、大丈夫ですか?」
「うぇ!?」
「えっと……」
「あ、ごめんなさい!ちょっと考え事をしていて」
「いえ、こちらこそ驚かせてすいません」
「謝らなくてもいいですよ~」
「それなら良かったです」
「それで、何か用でしょうか?」
「はい、実はあなたに頼みたいことがありまして」
「ふむ、話を聞きましょう!」
「ありがとうございます」
どうやらこの人は困っているようで、助けになってあげたいという気持ちになったのも事実だけれど……それは、自分勝手な欲求を満たすために、ただそれだけのために選んだ行動ではないと言い切れる自信が無かったからだとも言えるだろうし、あるいは、本当は助けを求めているわけではなくて、単純に暇つぶしのために声をかけてきたのかもしれないと思ったからだと言えるし、そもそも、声をかけられた時点ですでに相手の言葉を信じていなかったせいなのかもしれないし、それに―――
「ねぇ君」
「え?」
「ひょっとして、迷子かい?」
「ち、違います!」
反射的に否定してしまってから、