多重人格生成吾輩は猫である。名前はまだない。
そんな吾輩は今、非常に困っている。
何故かと言うと、先程からずっと同じ場所をぐるぐる回っているからだ。
右を見ても左を見ても同じ景色が続く。
こんな所が本当にあるのか? いや、実際にあるのだけれども……。
ここまで来るのにどれだけ苦労した事か……! あの時の記憶が蘇る……。
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「お前さん、どこに行くつもりだ?」
そう声をかけられたのは森に入ってすぐの事だった。
目の前には腰の曲がった小さなお婆ちゃんがいる。
何だこの人。
どう見ても人間じゃないんだけど……。
まぁいいか。
『迷子になったので道案内を頼みたい』
「あー、なるほどねぇ。ならうちの孫が向かった方向と同じじゃよ」
『本当ですか!?ありがとうございます!』
良かった。これで帰れるぞ! そう思った時だった。
「だが、タダってわけにはいかないね……」
えっ、何か要求してくんの? 金とか持ってないしな……。
「ほれ、これを持っていきなさい」
そう言って差し出されたのは一輪の花だった。……ん? いやいや、ちょっと待て。
『何故これを?』
「それは薬草の一種でねぇ。それを煎じて飲めば痛み止めになるんじゃよ」……ふむ。確かに良い香りがするし、薬にもなるようだ。
でもなんだろう。すごく嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
『ちなみにこれはいくらですか?』
「お金はいらないさね。ただその花を取ってくるだけだからねぇ」……なんだと? つまり無償労働という訳か? しかし、これが薬草とは知らなかったとは言え、タダで貰うというのは流石に気が引ける。
それにこれを持って帰ったらきっと喜ばれるに違いない。
よし、ここはありがたく頂戴しようじゃないか!
『分かりました。では有り難くいただきます』
「はいよ。帰り道も分かるかい?」
『大丈夫です。では行ってきます!』
「気をつけるんだよぉ〜」……そして現在に戻る。
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正直かなりキツい。