お義父さんといっしょ - レイランディーのリトライ -菅波が単身で亀島の永浦家を訪問したのは、暦がそろそろ師走に入ろうかという頃だった。
百音は仕事で陸前高田市に行っていて、終わったら合流する予定である。
こんにちは~、と声をかけながら作業場の横を通り抜けて中庭に行くと、ちょうどそこには耕治の姿があった。
「おう、光太朗くん、いらっしゃい」
今、亜哉子もオヤジも出てんだよ、と続く言葉に、そうでしたか、と菅波がうなずき、そして耕治の傍らにあるものに目を止めた。純和風建築の永浦家の軒先に、モミの木のシルエットは少々不似合いな感じもありつつ、カレンダーに思考を巡らせれば、ああそうか、という納得感もある。
「クリスマスツリーですか」
菅波が、百音から預かったおすそ分けの品の紙袋などを縁側に置きながら耕治に問うと、耕治はなんだか自慢げな顔で、おう、と応じるのだった。
「百音も未知も中学生になったころぐらいからは、もうクリスマスツリー出したりしてなかったんだけどよ。亜哉子の教室でちびっこが出入りするようになったから、やっぱ、あったほうがいいがなって、買ってきたんだ」
去年までは小さい人工のにしてたんだけど、ほら、サヤカさんの方が、ツリー用のモミの木販売始めたってんで、取り寄せてみたんだよ、と、自分と同じぐらいの背丈の傍らの木の葉をもふもふと触る。
「とりあえず、土台に立てて、さて、飾りつけどうしようかって思ってたとごでよ」
前に使っていたものをこの木に使うと貧相な感じもしてなぁ、という耕治に、縁側に置かれた段ボール箱の中を覗いた菅波も同意する。いくばくかの飾りはあるが、これだけでは心もとないし、逆に飾りが少ないことが悪目立ちする感じもあるのは、何かをデコレーションするというセンスが皆無の菅波にも見当はつくというものである。
「これだけでは、この木には寂しい感じがしますね」
「そうさなぁ。お、そうだ。光太朗くん、今から時間あるか?」
「え、ええ。百音さんが陸前高田からこちらに来るまで、特に何も。それまでに何か手伝えることがあれば、と少し早めに伺ったぐらいのことで」
「んじゃ、ちょっとホームセンター付き合ってくれるか?子供たちが何喜ぶか、俺も一人じゃ不安だしよ」
耕治の誘いに、分かりました、と菅波がうなずく。ありがとよ、じゃあ、俺が車出すわ、と、結局、亀島に着いてすぐ、耕治の運転で菅波は本土に戻り、百音と菅波の本土のマンションにほど近いホームセンターに向かうことになったのだった。
ホームセンターに着くと、港町ならではの資材も並ぶ一方で、季節商品の各エリアも充実していてクリスマス飾りの調達にも困らなさそうである。菅波が、ホームセンターならではのサイズ感のカートを引っ張ってきて、耕治がありがとよ、と礼を言って、二人は店内へと歩を進めた。
「どんな飾りがいいだろうなぁ」
「そうですねぇ。百音さんが森林組合で仕事をしていた時、登米夢想では中庭にレイランディーという木がありまして、それにいつもクリスマスの飾りをしていました。土地のものも飾る、と言って、木のオーナメントなんかも飾ってましたね」
菅波が懐かしそうな顔で話すと、耕治がナルホド、土地のものをな、と頷く。
「登米だったら木のオーナメントなら、気仙沼だったら、カキかホヤかメカか」
耕治の冗談めいた言葉に、しかし菅波が真顔で食いつく。
「素晴らしい考えです、お義父さん」
菅波に真正面から褒められて、まんざらでもない顔で耕治が、そうか?と笑う。
「気仙沼であれば、カキかホヤかメカか、そこにもちろんフカ、サメを忘れないようにしたいところですが、よい考えだと思います」
菅波の言葉に、おう、と耕治もうれし気である。
「僕が登米に専従していたころ、シラスのぬいぐるみをツリーに飾った水族館の写真を見たことがありました。その年のレイランディーの飾りに、シラスの代わりにサメを提案したところ、却下されまして」
「そりゃぁひでえ」
ノリと勢いで耕治が相槌を返すと、菅波は、返す返すもあれは残念なことでした、と頷く。
「んじゃ、今年のこっちのツリーは、カキとホヤとメカとフカで行くが」
「さすがお義父さんです」
カキは、ウチの牡蠣のネイカーを飾るのと、あれか、光太朗くん、牡蠣の粘土細工、作れるか。よし、じゃあ、粘土買うか。んで、ホヤってったら、まぁ、ホヤ本体よりはホヤぼーや、だとしたら、帰り道に小野寺の嫁さんがやってるホヤぼーやショップがあるから、そこに寄ろう。メカは、あれだな、トローリングルアーがキラキラしてて飾りって感じだし、それ買うべ。
耕治があれとこれと、と指折り段取りするのに、ふむふむと菅波はそれを脳内にメモをとり。
フカってかサメは、光太朗くんの専売特許だろ、どうしたい?と聞かれて、シャークタウンにサメのビニールフィギュア詰め合わせがありますから、それにしましょう、と即答である。
結局、ホームセンターではいくばくかのモールとカジキ漁で使うルアー、エポキシ粘土などを購入し、さらにシャークタウンまで足をのばして菅波が購入するのは人生で3セット目という各種サメのビニールフィギュア詰め合わせも手に入れて、二人は亀島に戻った。
耕治が牡蠣の作業場から貝殻を見繕って持ってくる間に、菅波は居間で、牡蠣の粘土細工の作成に取り掛かる。冷蔵庫から牡蠣のむき身を取り出して観察しながらの作業で、百音に器用貧乏と評される手先の細かさを発揮した菅波は、無駄にそれっぽい牡蠣のむき身を手際よく10個ほど作り上げたのだった。
その後、耕治と菅波で手分けして、牡蠣の粘土細工やサメのビニールフィギュアにテグスを引っ掛けるため、わっかのついた木ネジをせっせとつける。
まずはツリーに銀色のモールを全体的にぐるぐると巻いて、その隙間に、ホヤぼーやのフィギュアや、レインボーカラーのルアー、サメのビニールフィギュア、牡蠣の貝殻、牡蠣のむき身の粘土細工をぶら下げていく。
短くなった冬の日が陰る頃合いには、耕治と菅波の手によるクリスマスツリーが完成した。
一仕事やり終えた充実感を持って、ツリーから数歩離れた場所から、義父と義息が隣り合ってツリーを眺めていると、背後から、こんばんは~と声が聞こえた。
「おう、モネ」
「百音さん、仕事お疲れ様」
中庭に父と夫が並んで立っていると思っていなかった百音が、何してたの?と首をかしげると、耕治が、じゃーんという効果音が着いているようなしぐさでツリーを百音に見せ、菅波が、お義父さんと二人で飾りました、と満足気に百音に伝えた。
夕闇が迫る中、神の子の誕生を祝う雰囲気ゼロのモミの木を見せられた百音は、しかし、この飾りつけに至ったであろう夫と父の思考回路もすぐに理解して、あー、ウチっぽいね、と、肯定・否定いずれのニュアンスも含まないコメントをしつつ、ツリーに歩み寄る。
え、この牡蠣のむき身、先生が作ったんですか、変にリアル…という百音のコメントに、菅波は、いえ、それほどでも、とコメントを返し、百音は内心で、ホメてない…とつぶやき。
そうこうしていると、亜哉子も帰宅してきて、百音と全く同じくだりを繰り返し。
娘と母は、ツリーのそばでそっと目くばせをかわし、義父と義息は、二人だけでクリエイションをやり遂げて、妙な仲間意識を一つ強固なものにしたのだった。