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    廊下の菅波先生大学病院ではとにかくカンファレンスが多い。関係者の情報共有に不可欠なそれに参加すべく、今日も三々五々とカンファレンスルームに人が集まっていた。

    後10分ほどで開始という頃合。長机に座って配布文書をめくっていた呼吸器外科の川野医師に、隣に座った同期で呼吸器内科の田渕医師がぼそりと話かけた。
    「あれさぁ、菅波先生、彼女できたよね」
    「あれね…。あそこであの顔で電話しますか、っちゅう話ですよ」
    「まぁ、ギリギリまで電話できるからってことなんだろうけど」
    「菅波先生、もう4日病院から出てないからね。今電話しないとヤバいんでしょ」
    「明日は我が身…」

    またガラリと戸が開いたので、二人がそちらを振り返ると、窓に向いて猫背で電話を続けている菅波医師の背中が見えると共に、部屋に入ってきた放射線科の眞知田医師と目が合った。二人に眞知田医師が歩み寄る。

    「今、菅波先生が『すれちがってばっかで、ゴメン』ってめっちゃ優しい声で言ってたんだけど、カノジョ?」
    眞知田の言葉に、川野と田渕がおそらく、と頷く。
    「どうやら、去年の年末ぐらいに彼女できたっぽいですね」
    診療科が同じ川野が、少し前を思い返す顔で言う。
    「うらやましい。どこで出会ったんだ」
    「宮城と東京往復しててなぁ。正月もずっとこっちで勤務してたし」
    「むしろ宮城の人とか?」

    話していると、向かいの長机に座った鹿島看護師長が少し体を乗り出して、話題に参加してきた。
    「東京の方みたいですよ。昨日の電話で、先週は登米に行ってて会えなかったのに、ごめん、って謝ってらしたから」
    「師長さんも聞かれたんですね、というか、菅波先生、謝ってばかりですね」
    「いやぁ、なんていうか身に覚えはありすぎますが」
    「まぁ、最終的に私と仕事と…って言われるわけで」
    「菅波先生がそんなことにならないといいですが」

    「というか、東京の人ってことは、来月から遠距離ってことですか」
    「ああ、そういうことに。というか、向こうに行ったら、菅波先生、基本あっち離れられないでしょ。一人で診療所と訪問診療まわすんだから」

    しばし、その会話に参加していた全員に沈黙が降りる。せっかく来た菅波先生の春が短い予想が垂れ込め、同情の空気が流れる中、カンファレンスの開始時間が来る。なにやらひそやかにも甘い話声がまだドアの向こうから聞こえる中、菅波先生に声をかけねば、となりつつ、なんとなく出づらい。

    お互いが見合っていると、「どれ、どんな顔してるか見てきましょう」と呼吸器外科の岡野教授がひょいと立ち上がってドアを開け、「菅波先生、始めますよ」と声をかけた。

    「あっ、はい、分かりました」と菅波医師が頭をさげ、「ごめん、呼ばれた」「悪い。今度こそゆっくり」と口早に、それでも優しい口調で言葉を重ね、「また電話する」と甘い言葉で電話を締めくくったのが閉まり切っていないドアから伺える。

    「めっちゃ彼氏っぽい…」
    「いや、だから彼氏なんでしょ」
    川野と眞知田がひそひそと会話する。

    「すみません、お待たせしました」
    スマホを白衣のポケットに入れながら菅波が入ってきて、二人も口をつぐむ。菅波の顔を見れば、きわめていつも通りで、切り替えの早さに感心する。

    菅波が着座すれば、では、と教授が口火を切った。

    こないだ当直変わってもらったし、せめて明日は菅波先生が帰れるようにできればな…と川野は、カンファレンスの間、いつも通りに振舞う菅波を見て未来を少し慮るのだった。
    ねじねじ Link Message Mute
    2022/09/08 19:20:08

    廊下の菅波先生

    #sgmn

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