カノジョとカレのつりあう重さ久しぶりにお互いの休みのタイミングが合って、モネの部屋でプチ女子会の日。お互いの恋バナをして(主に私がモネに尋問してる状態だけど)とっても楽しくって、軽くお酒も入った頃、モネの机の横のチェストの上に編みかけの何かが見えて思わずテンションがあがっちゃった。
「モネー!先生に何か編んであげちゃってんの?!いいじゃん、いいじゃ~ん!」
白と青の毛糸とか、明らかに菅波先生意識した色だし!
なんていうか、モネと菅波先生ってお付き合いしてるし、なんならハタから見ててラブラブすぎて、あのモダモダしてた時間は何だったんだって感じなんだけど、普通に彼氏彼女してないというか、モネの方にカノジョ感が薄いみたいなトコがあって、菅波先生も大変だよねぇって思うこともあるし、いや、もうすっかり男女の関係なのは尋問の結果で知ってはいて、そんなモネが先生のために編み物!いいじゃん!
って私のテンションがすっかり上がっちゃったところに、いつものモネのセリフが聞こえてきた。
「違うよ?」
「へっ?」
モネがチェストから編みかけの何かを持ってきて見せてくれたら、なんか腹巻き?みたいなので犬の服みたいに穴が3つ開いてる。ほぼ完成みたいだけど…これは?
「サメ太朗のカバー編んでたの」
「サメ太朗?あの先生のサメのぬいぐるみ?」
「そう。机でもたれる時にファンデとかつかないように。タオル巻いてたりしたんだけど、外れちゃうから…」
まさかのぬいぐるみに服を作っちゃうモネですよ。なんで、カレシに編み物☆じゃなくて、カレシからもらったぬいぐるみに編み物☆になっちゃうかなぁ。でもでも、毛糸の色がなんていうか菅波先生みあるよね?ひゅー!
「大切なんだね、サメ太朗」
しみじみ言ってみると、お酒入ったモネが真っ赤になって、そのサメ太朗くんをぎゅってだっこして、普段あまり見せない恋してる顔になった。やだ、こっちがドキっとするじゃん。
「だって、先生が預けてくれたサメだし。先生にはなかなか会えないけど、サメ太朗ぎゅってしてたらちょっとだけ先生を近くに感じられるんだもん」
だれかー!強いお酒を私にくださいー!
「えー、じゃあさ、じゃぁさ、サメ太朗とお揃いで先生にもなんか編んであげなよー」
「うーん、おじいちゃんほど編み物上手じゃないから、人にあげられるレベルのもの編めないよ~」
いやいや、人にってそんな他人行儀なこと言ってたら先生泣くから。
「いーんだって!モネが編んだってことが大事なんだから」
「そうかなぁ…」
ってこりゃ編まないな…。先生、ご愁傷様です…。
と思ってたら!
次に汐見湯のダイニングで数日ぶりにモネと会ったら、モネの手許にこないだの毛糸で編んでるマフラーが!
「すーちゃんおかえりー」
「ただいまー。モネ、それ何編んでるの?」
あえて聞いたら、また頬を染めながら、「マフラー。これならまだ編めるかなと思って」って。
「先生に?」
「う、うん」
「いいじゃん、喜ぶと思うよ!」
「かな」
「うんうん!」
気を取り直したようにまた編み棒を手に取る幼なじみをそっと見守りつつ、私は部屋に上がったのだった。
そしてさらに数日後、編みあがったマフラーをもって、モネが部屋にやってきた。
「すーちゃーん」
「どしたの?!」
なんかモネからどーしよ!って空気が漂っててびっくりする。どしたどした。
「ねぇ、すーちゃん、手編みのマフラーって重い?今日、気象班とADさんたちとお昼食べてたら、カノジョからの手編みのプレゼントって重いって話になって…。そうなのかなぁって」
先生に重いなって思わせたらどうしよう…ってマフラーを抱えるモネの首元に輝くのは、私から言わせれば激重なハイブラジュエリー。私たちのお給料からではとても簡単には手が出ないそれを、裏に独占欲を隠してさらっと贈ってくる先生の激重っぷりに、モネ本人は全然気づいてないんだよねぇ。それで言えば、マフラーが重いぐらいでバランスとれるんじゃん?
不安そうなモネの両肩をがしっと掴んで、目を見て言う。
「大丈夫!手編みが重いって言うのは人それぞれだけど、絶対、菅波先生は喜ぶよ」
「そうかなぁ…」
「登米に移住して最初の冬でしょ?その時にモネが編んでくれたマフラー使えたら絶対うれしいって。むしろモネは重いかな?ぐらいの愛情表現しないと!遠距離なんだし!」
こんこんと言うと、モネがほっとした顔になった。うん、分かった、ちゃんと渡す。って言ってくれて、私もほっとする。これでマフラーがお蔵入りでもしたら、次に菅波先生が汐見湯に来た時に顔合わせらんないとこだったよ。
翌日、また汐見湯のダイニングでモネが編み物してた。
「あれ?マフラーは完成したんじゃなかった?」
「うん。で、買い足した毛糸余ったから、自分用にニット帽でも編もうかなって」
「いいね」
って短い会話でその場は離れたんだけど。
お揃いの毛糸の手編みは重いと思わないんかーい!と部屋への階段を上がりながら、ツッコミがもう止まんない。なんなのそれ!でも、それを菅波先生は重いとか思わないでむしろ喜んじゃったりするんでしょう?あーもー!
ツッコミを入れながらも、私のニヤニヤも止まらない。
恋に関心のなかった幼なじみが、特定の人にああしてストレートに思いをぶつけるようになったことが本当にうれしくて。こうしてまた一緒に過ごして、ちょっとしたことではしゃげている今がうれしくて。
だから、菅波先生にはやっぱりありがとう、だし、なんだかんだ重い人だなとも思うけど、モネの重さを受け止められるのも菅波先生だけなんだなって思うよ、おめでとう。
それにしても。
いざ作ったニット帽かぶって登米にお出かけする日、モネの片手にサメ太朗の入った紙袋があったのには本当に笑うよね。え、サメ太朗持ってくの?って聞いたら、サメ太朗も腹巻きお揃いだし、たまには先生のとこに連れていくのもいいかな、って。あー、『連れていく』なのね。
ほんとにお似合いだよ、モネと菅波先生。
ずっとその調子でお幸せに!
あー、私もマモちゃんに電話しよ!
<おしまい>