龍尊を猫耳にする方法「「丹恒~!」」
資料室のドアの前で、星となのかは仲良くつま先を揃えた。二人の頭の上で、カンパニー製の猫耳カチューシャがぶつかり合い、くすぐったそうにピコピコ揺れた。星の猫耳は黒。普段着の色とよく調和し、金の瞳をより際立たせる。なのかの猫耳はピンク。髪と瞳の色に合わせ、少女の美貌そのものを引き立たせる。
微かな物音の後、部屋の主がドアを開けた。
短い髪、片目の紅、白いコートに黒いインナー、青緑の槍……。星となのかは、二人にとって見慣れた姿を思い浮かべて、彼に似合う猫耳を用意した。きりっと前方に耳をそばだてた形のやつだ。カラーバリエーションは灰色しか無かったが、重要なのは色より姿勢の方だと、親友が判断したのである。
しかし、資料室から現れたのは、”見慣れない方”の丹恒だった。飲月、と名乗るときの姿だ。
「今日は琥珀期の二月二二日だよ。猫の日にゃー!」
「一緒に記念撮影しよ! にゃー」
丹恒は、訪問者の簡易コスプレを見て、すぐさま察したようだった。無言のまま、差し出された猫耳を受け取り、無造作に髪に差す。
長い黒髪に、突き出した自前の三角耳。後付けの猫耳の手前に、透き通った角が生えている。権威ある肩書に相応しい華やかな衣装には、灰色の猫耳は、ちょっと弱かったかもしれない。
「「ふむ」」
丹恒が、今日はこっちの姿の気分、と言うならば――口に出して言わないとしても――その気分を活かして撮影するのが、スナップ写真家の腕の見せ所である。
星は、手を伸ばして、灰色の猫耳を取り外した。代わりに、自分の黒い猫耳を差してみる。代わり映えしない。今度はなのかが、ピンクの猫耳を差してやる。こっちは目立ちすぎる。これでは、猫耳を付けた丹恒ではなく、猫耳の台座になっている丹恒、だ。
「これは……耳の専門家に聞かないと」
顎に指を当て、星は呟く。
「耳の専門家って?」
なのかは、自分の猫耳を取り戻しながら、相槌を打った。丹恒はずっと、されるがままだ。
「パム~! 助けて~!」
星は、答えるより先に、専門家を呼んだ。列車の中で困りごとが起こったとき、車掌はいつでも現れてくれるのだ。
「なんの騒ぎじゃあ?!」
「にゃーにゃーにゃーの猫の日なのに、丹恒の猫耳がイマイチ決まらないんだ。助けて、パム」
「ええ~っ、車掌さん、専門家だったの?」
自身の腕よりも大きな耳に、赤い制帽と腕章風の耳飾りを着こなした、耳の専門家、パム車掌は、三白眼で星・なのか・丹恒を見上げた。
「角の後ろに猫耳があるから、落ち着かないんじゃないか? カチューシャを着け直して、猫耳が角の前に来るようにしてみろ!」
丹恒は自ら着け直した。なるほど確かに、猫耳がよく目立つ。尖った耳とは少しズレた所に角の先端が見え隠れしているのも、面白い。
専門家は、「車掌は忙しいんだぞ」と、掃除に戻っていく。星はその背中に喝采を贈った。
なのかは、客室車両のデッキのテーブルにカメラを預けた。指示された位置に星が駆け寄り、丹恒は淡々と歩み寄り、セッティングを終えたなのかが合流する。列車の内装を背景に、三人は肩を寄せ合う。
「いくよ、三、二、一、はいっチーズ!」