子供部屋の狙撃手 小柄昌生は小さな小さな小窓を深く覗き込み、ダイヤルを回して、眼前に結ばれた像を調節する。右に二つ。いいや、左に一つ戻す、いや待て。小柄は上半身を保持したまま、左足を強く引き付けてから、突っ張った。湿った布団の上に乗った尻が、10cm後ろに下がる。成長期のこの身体は、日ごとに視座が変り、機械的なもの以外の工夫が必要になる。この僅かな位置調整によって、ガラス上に結ばれる景色が、望みのピントに落ち着いた。
機材に切り取られた視界の先で、実際のところは遥か先で、中空に暗い穴が開いている。稲妻のようなものを走らせて、じわじわと広がる。やがてその穴から、白っぽく無機質な巨体がにじり出る。ぶ厚い外殻に覆われた、機械とも節足動物とも脊椎動物ともつかない、異形。近界民のお出ましだ。
それの詳細を、昌生は知らない。ボーダーとかいう組織が対応を独占して、以降まるで公表される気配が無い。ただ昌生は、近界民の姿かたちをよく知っており、自宅マンションの子供部屋からは、奴らの縄張りがよく見えた。『警戒区域』に指定された三門市の上空に、『門』と呼称された暗い穴が開いて、『近界民』という名の化け物が現れる。昌生はただそれだけ知っている。
ボーダーには、昌生と同じ年頃の子供が多く在籍している。入隊試験にさえ受かれば、奴らの持つ情報のいくつかは手に入るだろう。だが、それには、ボーダー本部に出向いて試験を受けなければならない。部屋から出なければならない。その時点で、昌生の選択肢から、ボーダーの存在は消えた。
昌生は、警戒区域の周りを取り巻く『放棄区域』という空き家群にいる。その詳細についても、昌生は知らない。興味が無い。裏のアパートにはよく吠える犬が住んでいて、3件向こうには集団登校の班員が居たはずだが、いま彼らがどうしているか、知ったことではない。
放棄区域にほつりと灯る窓の縁から、警戒区域の様子を伺いながら、昌生はじっと待った。近界民の全身が穴を出て、廃墟となった市街に着地するまで。3階建ての建物に相当する体高、太い足が4本、全長の割には短い尻尾。顔が見えた時点で、木の葉型の耳が見えたため、種別「A(アルファ)」もしくは「C(チャーリー)」と推測。両者の体格は似通っており、出現頻度の多い「A」の歩幅は熟知している。着地予想地点に狙いを定めて待つのは容易だ。暗い穴が開いて、4つの足が着地するまでの時間は、近界民最大の隙でもある。昌生は暫し、小窓を覗き込むのを止め、拡大倍率0の素の視野で周囲の状況を把握する。天気、晴天、良し。装備、良し。風速、問題無し。ボーダー隊員、確認できず、良し。彼我の距離、およそ700m。
再び小窓に眼を当て、ターゲットの全身をつぶさに確認する。胴の太さを周囲の建物と比較して近界民の首の太さを測り、これまでのデータと相違ないことを照らし合わせ、種別を「A」と断定。「A」は出現回数が多く、行動パターンが読みやすい。近界民の前足は予想した着地地点ドンピシャに着いた。この先もパターン通りならば、穴から出て着地した後は、軽く頭をもたげて、周囲の状況を確認し、襲撃対象を定めた後に移動する。
実際その通りに行動した。白っぽくのっぺりした頭がぱかりと裂けて、その奥から単眼が覗いた。多くの生命にとってそうであるように、眼は近界民にとって最大の急所となる。それを守るためもあるのだろうか、瞼の縁にずらりと突起が並んでいる。この突起は哺乳類の門歯に似ていて、実際この奥行きのある眼孔は、口腔に近い用途を持つ。捕食行動を取るとき、この眼孔から獲物を取り込むのだ。そう、近界民は皆、致命的な欠陥を抱えていて、ものを食べるたびに視界が塞がる。穴から出て来る瞬間の次に、大きな隙となる。
近界民の視線は右から左に流される。首の可動域いっぱいに周囲を把握しようとする、パターン通りの動き。この角度ならば、ある一瞬で、昌生の狙い通りにこちらを振り向くだろう。昌生はその瞬間に備えて、ゆっくりと息を吸った。三脚に預けた”相棒”は、泰然とターゲットを捉え続けている。誤シャを防ぐために伸ばしていた右手の人差し指を曲げ、突起に掛けて、「A」が振り向くまでじっと堪える。近界民に特有の眼が、昌生を見る。昌生は息を吐きながら人差し指に力を込める。胸と腹の筋肉を引き締める。肺の中の空気が底を尽くのと、”その瞬間”が同時になるように。手先がブレてしまわないよう静かに、だがしっかりと、確実に。
昌生の”相棒”が、ピ、と甲高く微かな音を立てる。一昔前ならば重々しく鳴っただろうが、最新技術ならばこんなものだ。
青空の下、警戒区域外に立ち並ぶビルを背景に、尻尾から耳の先までしっかりと姿を現した近界民、ターゲットとこちらの間に立ち塞がる遮蔽物は一切無く、ボーダー隊員の姿も無く。近界民の胴体は、およそ60°の角度で左を向いており、背甲の節を全て視認でき、瞳は真っ直ぐにこちらを向いている。さながら、近距離で相対するかのような、一瞬。首の一部が日光を鋭く反射して白飛びしているが、それがかえって鮮やかに見える。
己の腕に奢らず、秒間7回のレンシャで保険をかける。
獲った、と思った。最高の仕事が出来た。だがその興奮も一瞬にして冷めた。ボーダー隊員は居なかったが――スズメが一羽、警戒区域の瓦礫の上で、視野の先にほんの少し映り込むところで、跳ねていた。
「くそが!!!」
昌生は束の間、”相棒”から手を放して、床を殴った。カーペットに受け止められた拳が、鈍い音を立てたが、それだけだった。
日が暮れていく。警戒区域の向こう側に立ち並ぶビルは、茜色に照り返し、瓦礫の街を焼いている。小柄昌生が根城とするこの部屋は東向きのため、西日に目が刺されることもなく、良好な視界を保っている。それでも、乱反射する茜色が、空気を歪めて、レンズの精度を狂わせる。嫌な時間だ。
窓からいくぶん下の道路を、郵便屋の原付が住宅街を走る音がする。人間としての本能は、手前勝手に長閑さを嗅ぎ取って、鈍っている。空には暗い穴など一つも無く、ほつれた綿雲がいくつか浮かぶのみ。ボーダーが発表し国営放送が受け入れた呼称、「門」とかいうあの暗い穴は、三門市の空に不定期に現れる。数日間ひっきりなしに現れることもあれば、ふつりと静寂をもたらすこともある。昌生は窓際に据えた”相棒”から両手を離し、溜息を吐いた。2部屋隣で換気扇の動く気配がする。切れ味の悪い包丁が、安いまな板を打ち付けて、うち全体にまでゴンゴンという音を響かせる。自然、気が緩むというものだ。頭の芯にキリキリと冷えた金属の硬さを感じながら、心の中で敵影を待ち焦がれながら、それでも流石に、喉が緩むのだ。
昌生は窓の外の景色から目を離さないまま、手元をまさぐる。先ほどまで飲料水が入っていたペットボトルの蓋を開け、これまたまさぐり出した一物にあてがい、放尿する。警戒区域に狙いを定めたまま、1歩も動かずに用を足すようになって、4年半が経っている。
夜は紫色に更けていく。警戒区域の向こうではビルの窓が煌々と街を照らし、警戒区域内を囲む住宅街にもささやかな街路灯が灯り始める。背後でドアの開く音がした。一人分の足音がして、すぐ傍まで歩み寄ってきた。昌生は構わずに、”相棒”を夕方用に設定し直す。レンズに取り込む光量を最大に。日が沈み切るまでの露光量が刻々と変わる間は、絞り優先オートモードで凌ぐ。精密さを犠牲にする作戦だ。致し方ない。近界民の出現時間を予知できるなら、日没時間から光量を計算しておくことができるのだが、昌生にそんな超能力は備わっていない。
音を立てないように、そっと置かれたものがある。見なくても分かる、いつも通りクソ不味い補給食だ。
ルーの薄すぎるカレー、味噌も醤油もぶちこんだ鍋、そういう類の煮物と白米。4年半の間、一向に進歩の見られない料理。8時間ぶりの食事にも関わらず有難味を味わえない。昌生は一切手元を見ないまま、スプーンで深皿の輪郭をなぞるように食べ進む。もううんざりだと思うまで食べたところで、腰を上げる。
昌生は、警戒区域の空を目視警戒したまま、補給の盆を股の下まで引き摺ってきた。ズボンを下ろして、脱糞のち、腕の届くいっぱいまで遠くに押しやる。
生活に必要なノルマはこなした。ほんの僅かに”生命”に戻った部分を押し隠し、再び、敵を狙う殺意の塊に化ける。小柄昌生は”相棒”の一部になり、狙いを定める目とタイミングを決める人差し指だけを残して、何も無くなる。何も無くなる……。
背後に人の気配がする。食器を下げに来たのだ。そのとき、警戒区域に黒い稲妻が走るのが見えた。バチバチという異音。
背後の人間が息を詰めるのを、昌生は聞いた。気が散る、邪魔だ。どこかに行け。いいやそれも煩わしい、そこから動くな。どこにも行かずに、そこに居ろ。どこにも行かないで!!!!
3階建ての建物に相当する体高、太い足が4本、全長の割には短い尻尾。顔が見えた時点で、木の葉型の耳が見えたため、種別「A(アルファ)」もしくは「C(チャーリー)」と推測。設定を変えている暇は無い。食事をこなしている間に、随分日が沈んでしまったが、このまま絞り優先オートモードでいく。
昌生の右人差し指が相棒の上辺を探る。”相棒”の右上についた僅かな突起、そこに指の腹を当てて、じわり、と押し込む。ピ、と甲高く微かな音が鳴る。一瞬が永遠になる。永遠×秒間7回分。
急速に青く沈んでいく夕景の中に、出し抜けな蛍光色の閃光が翻った。ボーダーの武器が炸裂したのだ。蛍の儚げなイメージとは程遠い、強烈なエネルギーが発せられ、近界民の巨体が、どう、と瓦礫の街に倒れる。嫌な予感がする。
淡く発光する武器が、正確には、それを所持している暗い人影が、獲物を自慢するかのように、近界民の亡骸の上に立つ。昌生は懸命に気持ちを静めて、ログを確認した。ああ、やっぱり、ボーダー隊員が画面に映り込んでいる。腰高に棒状の武器を構えた姿から、右手上に振りぬく様までが、7コマの連画となって、くっきりと焼き込まれている。台無しだ。昌生の脳が、制御できない怒り、嫉妬、羨望に焼かれる。
ボーダー! 第一次侵攻以後、門をコントロールし三門市を防衛する組織。それがなんだというのか。あの日あの時、あの侵攻で、小柄昌生は大切な人を失った。その時点で、ボーダーという組織は、昌生にとって無価値である。この部屋の外にあるものは押しなべて無価値であるが、昌生の研鑽を邪魔するノイズである分、ボーダーは、より性質が悪い。
背後で溜息が吐かれるのを聞いた。補給係が、喉の奥から「よっこらしょ」の一言を漏らし、盆を持ち上げ、去っていく。この4年半で、彼は老いているのだ。昌生は、いつもこの一瞬だけ、自らの排泄した汚物の臭いを感じる。
それは、ノイズ、だ。警戒区域に全身全霊をもって向かい続ける昌生を、無力でくだらない少年に戻してしまう、厄介な敵。警戒区域外で昌生を蝕む、もうひとつの、敵!
お前のせいだ!
昌生は、食事を世話するその者に、自分を支える唯一の人間に、小便の詰まったペットボトルを投げつけようとした。手探りで掴もうとしたために、小指が意図しない角度でペットボトルに当たり、それを倒してしまう。拾い上げて標的に投げつけるには、窓の外から目を離さなければならない。
昌生は手をひっこめた。”相棒”の輪郭をそっと撫でて、静かに、夜用の設定に変更する。頼れるものはこいつだけだ。
冴え冴えとした夜が来る。露が下りて空気中の埃を洗い流し、土も、アスファルトも、草木も、均質な温度に冷えていく。絶対に陽炎の発生しない時間。
昌生は”相棒”に手を掛けたまま、まどろむだけの睡眠をとる。近界民がいつ出現しても、すぐに目覚められるように、立てた片膝にもたれて眠る。開きっぱなしの窓が、容赦なく冷気を取り込むので、どんなに疲れていても眠りが深くなることはない。
そして夢を見る。
――小柄昌生は、4年半前のその日その時、9歳の小学生だった。母と二人で出掛けるところだった。父は朝早くから釣りに行っていた。昌生はずっと鉄道写真に憧れていて、山手線の駅にはいくつかの撮影スポットがあるのを知っていた。子供の日にカメラを買って貰ってからは、もう、たまらなくて、何度も何度も頼み込んで、テストで満点を取って、ようやく、撮影に連れて行ってもらうことが出来たのだった。E235系を撮るつもりだった。まずは形式写真にするつもりだったけれど、列車写真にも挑戦したい。11両編成の最後尾までがずらっと画角に収まって、先頭車両のワイパーが垂直に立って、窓は全部閉まっていて、行先表示にピントを合わせた、そういう鉄道写真が撮りたかった。昌生と母は、駅に向かう前に寄り道をした。いつもの弁当屋でお昼を買っていこう、と、母が言ったのだ。そして災厄が降りかかる。パチパチという異音、上空に開いた暗黒の穴、痛いほどに昌生の手を引いた母、突き飛ばされて、カメラが吹っ飛んで、化け物を切り裂くように叫んだ母の声、昌生はその声で振り返ったはずなのに、母のむごい姿を見ていない。母は消えた。口のような、瞼のような、異形の顔だけがそこにあった。『第一次大規模侵攻』と呼称される、あの日。昌生にとっては、ただ、母をなくした日――
母の叫び声をうつつに聞いた気がする。昌生はガクリと船を漕いで、目を覚ました。
ひきつけのように息を吸う。喉の奥に、小石の詰まったような感覚がある。
幼い頃、飴玉を誤って飲み込んでしまうことが多かった。まだほとんど溶けずに大きいままの飴玉を、なんの拍子か、不本意に飲み込んでしまうのだ。そうすると昌生は泣いてしまう。飴玉が無理矢理に喉を落ちていくのが、痛いのだ。ニコニコとおやつを食べていた息子が、急に泣き出すので、母はいつも困惑した。昌生は、喉のつかえが取れてから、飴を飲んでしまったのだと伝えるけれど、母は、その言葉を「おやつが惜しい」という意味にしか捉えなかった。昌生はそれがいつも不満だった。
パチパチと異音が響く。夜のしじまに、ボーダーのサイレンが響く。近界民のお出ましだ。
昌生は、母との思い出を、意識の外に追い出した。暗い視界の中で、近界民の門を探す。星空の中に、見えるはずの星座が見えないとしたら、黒い穴に隠されているのだということだ。ああ、はやぶさ座が隠れている。ここだ。
夕方のゲートよりも、更に奥まったところに発生したようだ。”相棒”のズームメモリーからショートカットを呼び出したのち、微調整。
昌生はじっと待った。近界民の全身が穴を出て、廃墟となった市街に着地するまで。3階建ての建物に相当する体高、太い足が4本、全長の割には短い尻尾。顔が見えた時点で、木の葉型の耳が見えたため、種別「A(アルファ)」もしくは「C(チャーリー)」と推測。胴の太さを周囲の建物と比較して近界民の首の太さを測り、種別を「A」と断定。天気、晴天、良し。装備、良し。風速、問題無し。ボーダー隊員、確認できず、良し。彼我の距離、およそ850m。
近界民は長々と横っ腹を晒しているが、わずかに後ろを向いている。こちらを向け、と昌生は念じる。種別「A」は右から左に、辺りを見回して、果せるかな、身をよじって後ろを振り返った。大きな単眼がこちらを見る。背甲の節が見えるまま、その単眼を射抜ける、僅かな瞬間を待つ。
昌生は息を吐きながら、胸と腹の筋肉を引き締める。肺の中の空気が底を尽くのと、”その瞬間”が同時になるように。手先がブレてしまわないよう静かに、だがしっかりと、確実に。
”相棒”の右上にあるボタンに、人差し指をかける。ディスプレイに頬を当て、ファインダーを覗き込み、5コマ/秒の連写。ISO感度を高くした、夜用の露光設定。
ピ、と甲高い電子シャッター音。たっぷり一拍後に、ボーダーの武器が蛍光を閃かせる。
撮った、と思った。
右人差し指をシャッターボタンから外した瞬間、身体が震え始める。落ち着いて、ディスプレイの横の再生ボタンを押して、出来栄えを確認しなければ。
12枚連写したうちの、後から7枚目が、その瞬間を捉えていた。
露光量を優先したために、シャッタースピードは遅くなっているが、ブレは最小限に留められている。ピントは完璧に合っている。ISO感度が高いので、のっぺりした印象だが、明確に近界民の形を判別できる。種別「A」はほとんど横を向いたままで、写真から背甲の節を数えられる。その頭は、急所を真っ直ぐにこちらに向けていて、画角の中心にあり、はっきりと、「射抜かれて」いる。
もし昌生の手に在るものがボーダーの狙撃銃だったなら、この近界民は頭を撃ち抜かれて絶命していただろう。
震える手で、努めて慎重に、”相棒”を三脚から取り外して、這うように部屋を横断する。
近界民の倒れた街は、しんと静寂に包まっている。新聞配達員が仕事を始める直前、一日のうちで一番静かな時間。鳥も虫も風も車もボーダー隊員も、一声も上げてくれるなと願う。己の啜り泣く声すらも邪魔だ。脳裏に木霊する母の最期の声を、悲鳴のように昌生の名を呼ぶ声を、本物のように聞こえていたいのだ。あの日あの時に還りたいのだ。昌生はあの瞬間に”相棒”を構えて、その世界では”相棒”はボーダーの狙撃銃であって、狙い違わず近界民の急所を捉えるのだ。
6畳の子供部屋がやけに広く感じた。ドアノブを縋りつくように回して、廊下に出る。補給係は、斜向かいの部屋で寝ているはずだ。
その人間は、昌生のと同じくらい湿った布団にくるまって、別人かと思う程に薄くなった後頭部を、こちらに向けていた。昌生は容赦なく揺すり起こした。膝が笑ってしまって踏ん張れないので、どっちみち手加減のしようが無いのだ。補給係は朝の身支度の直前であり、一日分の無精髭が枕を擦っていた。
寝汚く呻く相手に、昌生はカメラのディスプレイを突きつける。昌生に”相棒”を与えたのは彼である。見る権利がある。見せる必要がある。昌生が誰よりも共有したいと願う相手。第一次侵攻後、自宅に戻ってすぐに引き籠りになった息子に、ニコンのP1000を買い与え、黙々と食事を世話し続けたその人は、昌生の、父、なのだから。
「と、れた、よ」
昌生は、4年半ぶりに、発声した。