篝火
音もなく幅広の剣が炎を薙いでゆく。四隅に据えられた篝火に明々と照らされ、真っ暗に揺れる影は露台の柱に天井に伸びる。黒いそれはそのものが異形の存在であるかのようだ。
ゆらゆら
影のあるじは日中(ひなか)の陽光より苛烈と謳われる第一王子。苛烈の印を額に戴き、今はひやりと冴える夜気に舞う。
ゆらりゆらり
背に面に異形をまとわりつかせ、衣擦れの音のみで舞う。やいばとそれより鋭利な視線を向ける先に、声もなく座す三人。
愚かな父。
愚かな母。
愚かな弟。
ゆうらゆうら
その後ろに深く深く皺を刻んだ奴隷が独り立つ。かちかちと鳴るのは無粋で無骨な首輪か、それとも歯か。
両方かもしれないと、さらに奥に控える従臣が歓喜と感動に涙を流しながら考えた。
ゆらん
座す三人の膝にはそれぞれの首。奴隷が後ろから刺して、第一王子が首を刎ねた。清々しかった。奴隷の表情まで含めて今までで一番胸のすく瞬間であった。
静寂を割って響く哄笑は獅子の咆哮に似て王都を疾った。
情の介入を許さない程の厳格な法と秩序を重んじる、獅子王国マヒシュマティの、創まりであった。