アウトワールドで遭いましょう囚われて、憧れて、求めすぎて、全てを裏切って━━墜ちた。
岩と風の世界でもかろうじて住居のような場所はある。それは点在しており、気楽に訪ねるのは容易ではない。
「なーのーにーぃ、この俺が来た理由、お分かり?」
入り口を塞ぐように肩を預けて腕を組んだカバルが顎を上げる。
「用はない」
にべもない簡潔で完全な拒絶にめげていては"お遣い"は務まらない。
「我らが妖術師サマがお呼びだぜ、ってえのは建前で。あんなに手を焼いてるツンちゃま初めて見たからお前にも見せたいってのが俺の本音だけど」
なあ、サブ・ゼロ。
興味あるだろ?
凛々しい眉がわずかに上がるのを諾と解釈したカバルはしかし、見れば分かるからの一点張りで、道中に状況の説明はしなかった。
「エラいヒトって高いとこ好きだよなー」
遥か視界の上空、断崖の上に張り出した巨大な一枚岩の玉座を呑気に眺めながら同行者が言う。返事は期待していない、ただの独り言にサブゼロも反応する気はない。
「ナントカとバカは高いところが…って逆だわ、伏せるの」
ウケる、とひとりで楽しそうなカバルと完全無言のサブゼロの道中は続く。
今向かっているのはその断崖の中腹にある別の広間だ。妖術師の居城でもあるそこに、何があると言うのか。
反響するカバルの足音と声に気づいたのか、奥からミレーナが不機嫌そうにやってくる。彼女の足音もまた高い天井に響くが、サブゼロのそれだけは少しもない。
「主人を待たせるな」
言外に急げと告げ、踵を返す。
その背を追うようにして二人は歩を進める。
奥からは獣の咆哮のような、それよりは高いような、正体不明の音が聞こえ続けており、カバルはその正体を知っているがサブゼロには分からない。
「やっと来たか!」
広間の入り口に辿り着くと憔悴しきったシャンツンが二人を、主にサブゼロを認めて両手を広げた。確かにあまり見たことはない様子だとカバルをちらりとみやれば「言った通りだろ?」とウィンクが返ってきた。
「待ったぞサブゼ……」
「マスター!マスター!マスター!」
よく見れば片隅に金属の大きな檻が置かれており、シャンツンの言葉を遮った叫び声はそこから発せられていた。
中には、人。
あるいは、人の形をした生き物。
ここにいる大概が後者であることに思い至り、サブゼロは温度のない視線を一応中に向けた。
「マスター! サブゼロ様!」
瞬間、サブゼロの眉が強くひそめられる。再びカバルを見ればコミカルに檻を指差して肩をすくめた。
「なんとかしろ!」
「そんなものは知らん」
妖術師の悲痛とさえ言える命令も無慈悲にたたき落とし、サブゼロはもう一度檻の中を見た。
男。
白髪、あるいは銀髪だろうか。
上背があり、かなり鍛えられ整った身体をしている。
「オレです! コールです! ええと、元・コールです!」
コール。
聞いたことがあるような、ないような名だ。四百年で擦り切れた記憶から拾い上げることはできそうにない。
「ハサシの末裔が魔界墜ちとは、いいざまだ!」
存在を忘れかけていたシャンツンが声を張り、やっとサブゼロの記憶が繋がる。
「ハンゾウの、血脈」