イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    結婚でも何でもしてやるよ# 暴力性が強すぎやしないだろうか。売り言葉になんとやらだとしても、気軽にそんな言葉を使うもんじゃない。なぜなら、皋所縁はもう探偵ではないのだから。
     昏見には結婚というシステムはさほど響かなかったので、皋所縁の言う『なんでも』という単語のほうが刺さりに刺さった。果たして皋所縁は、昏見が願えば『なんでも』してくれるのか? 自称失格探偵の皋所縁が? 
     じゃあ探偵再開してくださいよー! なんて台詞がオート反射で出なかったのは、はたして良かったのか悪かったのか。昏見が見つけることのできないその正答を、愛すべき元探偵だって紐解くことはできないだろう。

     そもそも皋所縁は、人間として脇が甘すぎるのもどうかと思う。『なんでも』だなんて宣言してしまったら、ほんとうに『なんでも』になっちゃうのに。人生とか命とか、感情とか。言葉には魂が宿ることを知らないわけじゃないだろうに。その結果、訪れるであろう致命的な結末を、想定出来ないわけじゃないくせに。昏見の推しは、こういったうっかりが多いので、心底困ってしまう。
     これは言い訳になるかもしれないけれど、昏見はいつも通りに推しの概念の残骸を、もにもにと愛でていただけだったのだ。辛辣な世界で心のよすがになるのは、やわらかくてふわふわのものしかない。一方的にカウンターを決めてきたのは皋の方だ。昏見に罪はない。意図してその台詞を引き出したわけじゃない。そんなものを引き出したかったわけもない。推しの色んな表情を見たいという、ささやかな願いに満ちた余生の日常の先にあった、予想外の落とし穴のひとつにすぎない。

    「お前、今回はやけにしつこくない? 倍速すぎて捌ききれないんだけど」
     とにかくうなだれて、うんざりとため息と重ねられた。その言葉の諦めの温度に背骨に電流が走る。胡乱気味だけれどもまっすぐと昏見を見つめる眼差しは、午前4時を煮詰めたジャムのようだった。これは初めてだ。忘れてしまわないように、瞬きでシャッターを切る。
     昏見は、皋が願うかたちの探偵でいてくれないなら、せめて色んな表情を見せてほしかった。めちゃくちゃ俗っぽく言うと、だいすきな映画が完結しちゃってて続編もないっぽいので主役のオフショをひたすら流し込みたい。推しの新規映像をくれ。焼き鏝で網膜に焼き付ける。
    「だーって、所縁くんの熱烈なラブコールですよ? 興奮しないわけないじゃないですか! 『結婚でもなんでもしてやるよ』って君が言ったから今日は婚なん記念日! 私財を投じて記念碑建てたいなー、後世に語り継がれて神話になって、いつの日か世俗まみれの観光スポットにならないかなー」
    「へいへい。もうそれ系の軽口は聞き飽きたわ」
    「それともこの世の婚姻制度の革命に本願変えちゃおうかな」
    「………………」
     どうやら皋は、件の発言に関しては前言撤回をしないつもりらしかった。そのせいで昏見になにも言い返せなくなってるのは、相変わらずだなあと思う。ほんとうに結婚でもなんでもしてくれたらどうしよう。なんでも。舌の上で転がした言葉は、眩暈がしそうなくらいの甘さだ。劇薬が甘いことを、昏見は知っている。
     昏見が愛している探偵は、とびきり軟くて脆くて、愛さずにはいられない愚かさを持っていた。それはもう、食べてしまいたいくらいには。

     ところで、昏見が皋の失言に構い倒しているうちに、萬燈は離席していたので、ブレーキをかけるべき人間がこの場には居なかった。探偵じゃなくなっても、皋所縁はタイミングに恵まれていない。残酷なその事実を、つくづく哀れだと思う。
     たとえ崖下に落ちようとも、昏見はこのドライブを辞めるつもりはない。片道通行の願いの聞こえ方の優しい痛みを、文字通り焼き付けて炎に焼かれても構わないからだ。

    「……俺はどこまでお前を信じていいのか、わりと頻繁に見失うよ」
    「どこまでも、どこまでも。地獄の果てまで信じてくれていいんですよ、所縁くん」
     『どこまでも』という部分に、わかりやすい熱を込めて返す。皋に願うことも応えたいことも、昏見が持ち合わせているのは正真正銘の『どこまでも』なのだ。
     闇夜衆を組む前も後も変わらず、皋の隣はいつだって最高で唯一無二だ。推しの供給が推し自身によって断たれる苦痛もなんのその! だって昏見は縛りプレイが得意だった!

     探偵として完璧だったあの子はもう、ただの、ひとりの人間だ。
     本業のステージがなければ、舞台裏のサービスシーンも虚しいだけだなんて、できるなら昏見は知りたくはなかった。けれども、それでも好きなんだから、もうしょうがない。そして時折、一方的に祝福は鳴り響く。それを理不尽と感じるか僥倖と捉えるかは、昏見の自由だ。手放せない宝物になってしまえば、どんな場所でも愛おしい。墓場で死体と一緒にダンスだってできる!
     未来に観測されなくても、昏見有貴は揺るぎなく皋所縁を愛している。その事実だけは、確かにここに存在しているのだ。
    櫻井タネリ Link Message Mute
    2022/09/10 15:35:37

    結婚でも何でもしてやるよ#

    ・フォロワーの素敵なおはなしの三次創作です
    ・執筆許可をくださってありがとうございます!
     2020.1115
    #神神化身 #かみしん二次創作 #カプしん #くらゆか

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品