4番目の愛 萬燈夜帳のお家のベッドは凄い。霧みたいにさらさらで、雲の上みたいにふかふかなのである。比鷺の自宅のベッドもそれなりに上等なものだと思うが、萬燈のお家のそれとは比べ物にならない。綿菓子って乗れるんだぁ……と呟いた比鷺の頭を撫でる大きな手のひらまで甘いものだから、比鷺は蕩けきってしまった。なので、以下のような台詞が出てきても、しょうがないのである。比鷺じゃなくて、萬燈夜帳のお家のベッドが悪いのだから。
「俺もうここのお家の子になっちゃおっかな〜」
翌朝、目覚めた比鷺は、萬燈夜帳が萬燈夜帳であったことを思い出した。忘れていたわけでもないけれど、比鷺から見た萬燈はわりと人間っぽいのだ。
「えー……なんか……どういう反応したらいいのこれ? 萬燈さん、笑えばいいと思うよって言ったりしちゃう?」
「なんだ、要らないのか?」
「要らないわけじゃないよ。展開が急でついていけてないだけ。萬燈さんがこういうことするタイプだと思ってなかったから意外だし」
「俺は欲しいものを手に入れてるためなら、なんだってやるさ。それはお前が一番良く知ってるだろう?」
そう言って萬燈は、比鷺が起きてからずっと見つめ続けているものに手を伸ばした。触れた指先の体温が心地よく馴染む。
「回りくどいやり方をするのは、過程を愉しみたいときだけだ。いつだって短期決戦でやってきただろう?」
そうなのだ。こと比鷺のこととなると、萬燈はストレートに感情を伝えてくる。恋愛初心者の比鷺にもわかりやすいように。比鷺が悩んだりしなくていいように。
「ずるいなあ。俺ばっかり与えられてる気がする」
「メインディッシュは美味い方が好きなだけさ」
指先を絡めとられて、キスを落とされる。まるで砂糖菓子みたいだ。
ずっともう、萬燈のいいようにされてしまってるのが、ちょっぴり悔しい。それが嫌じゃないことも、ものすごく悔しい。このまま飴細工みたいにこねこねされて、比鷺は萬燈の好きなカタチにされてしまうんだろう。そして最後には、頭からぱくりと食べられてしまうのだ。
萬燈の胸にぽすりと頭を預けて、ぐりぐりと押し付ける。すっかり比鷺の指と馴染んでしまった温度の名前を、比鷺はこれからも与えられ続けるのだ。この男によって。
「もうとっくに、あんたの胃の中だよ」