第一回闇夜衆鍋パーティー 皋の眼前にどっしりと鎮座するのは、土鍋だった。土鍋。鼠色の本体に菊の花があしらわれている、土鍋という単語で画像検索したらいちばん上に出てくるやつだ。
自らの人生において、土鍋の存在に思考を乱される経験をすることになるとは想像もしていなかった。だって土鍋。実家の食器棚にあればただの背景になるけど、バーカウンターに土鍋。違和感でしかない。大きな土鍋の横にはカセットコンロが並んでいる。その隣には野菜、そのまた隣には肉、といったように、潤沢な食材が並んでいた。
今日も平和に名探偵は必要とされていない。ていうか、これは探偵の仕事じゃない。
「…………なあ、わざわざ訊きたくないことを敢えて訊くんだけど、これ何?」
「鍋パの準備ですよ? 所縁くんも存在くらいは見聞きしたことあるでしょう? もしかして初鍋パだったりします?」
「せめて棘を隠せ! そうです鍋パは初めてです!」
皋には、事件が起きそうなパーティー以外は縁がない。昏見の方をじろりと睨むと、若草色のエプロンをいそいそと着けている。なんかむかつく。
「所縁くんの初めて奪っちゃいましたね! 楽しいパーティーにしましょうねー!」
「もう俺はほんとうにお前のそういうところ適量無視していくからな。……そういや、ふたりでもパーティーになんの? 定義的にさ」
「私と所縁くんが居ればいつでもなんでもパーティータイムです。とはいえふたりきりでは鍋を囲むには心許ありませんからね。萬燈先生にもお声掛け済みです」
「えっ、萬燈さん来れるんだ?」
多忙でなかなか練習以外で顔を合わせることのない萬燈が来るなんて珍しい。ふと、先日の焼肉屋でのこと思い出す。
「さあさあ所縁くん、萬燈先生が来る前にちゃちゃっと鍋支度です! 野菜もお肉も海鮮もポン酢もごまだれもなんでもありますよ! 楽しみですね! 私、楽しいことの為の準備は怠らないタイプなんです。デザートまでバッチリ。所縁くんの初鍋パ、盛り上がっていきましょう!」
柔かに笑う昏見はその言葉通り、どこまでも楽しそうだ。この男が楽しそうでなかったところを皋は一度も見たことがない。怪盗ウェスペルよりも昏見有貴のほうが、皋の振り回され度が高い気がする。ことごとく、遺憾だった。
ところで、萬燈夜帳は鍋奉行としても才能に満ち溢れていた。