【閑話】 依存 本当に頭を使うのなら、大量生産品で統一性の無い手口で人を殺した方が何かと便利だ。
靴も服も凶器も何もかも。
なるべく犯行間隔もバラバラであることが望ましい。
1人目の被害者は17歳未満の少年、公園でハンマーによる撲殺、死体は遊具の中に。
2人目は13歳以上の少年、ショッピングモールの従業員用のトイレで絞殺、死体はフードコートの冷凍庫へ。
3人目は20代前半の女性、キャンプ場で刺殺、死体は貸し寝袋の中へ入れられてから火がつけられていた。
4人目は18歳以上の女性、教会で圧殺、養豚場の餌箱へ。
しかし、どんなに自分のことを隠そうとしても、この4つの事件には重大な共通点がある。
それは『閉所に対する異常なほどの執着』と『家族へのトラウマ』だ。
殺害場所からあまり離れていない場所で死体は必ず狭く暗いところへと押し込まれている。
しかも、殺害現場は幼少期に家族で訪れるような場所だ。
おそらく犯人は少年期以降、虐待を受け始めたものと思われる。
そして虐待内容には『閉所への監禁』があったのでは無いかと推測される。
ただ、物的証拠は全て『誰でも入手可能』なものしか残っておらず、足跡にも不自然な点はない。
自身の足のサイズよりもあえて大きなサイズの靴を履いて捜査を撹乱させいる様子は無い。
遺体の顔は全て潰されており、指紋も焼かれているため身元確認にはかなりの時間がかかる。
どうやら指紋を炙るために使ったのは普通のマッチ。
硫酸などを使ってないあたり、薬品から犯人をたどることは不可能。
魔法は一切使われていない。
魔力残渣から犯人を追うことも不可能。
被害者はいずれも健康な平民の人間の男女で体内に製造番号などを有する器具は無いとのこと。
刺殺と圧殺にはどうやら犯人にとって不都合な証拠が残っていたと思われる。
なぜなら死体を焼却することによって軟部組織に残っていたと思われる何らかの特徴を隠滅しようとしているし、圧殺の方は豚に食わせて完全に死体そのものを消そうとしている。
以上のことから、犯人は身長に対して体重が過多である可能性がある。
しかし、ただ太っているのならそれだけで目立ってしまう可能性がある。
おそらく、通常サイズの服でごまかせるレベルで筋肉質なのか、何か身体的な特徴があるのだろう。
過去50年にまで
遡ってそれぞれのメーカーの購入履歴と全ての店舗の防犯カメラ映像をクロス検索しても、購入者があまりにも多くて特定の人物を見つけるには至らなかった。
ある一人の青年が事件を題材とした授業を行なっているときに犯人のあまりの自己顕示欲の無さを不思議に思い、こう言った。
「は、犯人は、か、か、解離性同一性障害なのでは?
ぎゃ、虐待されていた自分と、そそ、それを俯瞰的に見ていた、も、もう一人の自分が、別々の役割を持って、犯行に、おお、及んでいるような、き、気がします
…あ、も、もしかすると、た、単純に、二人組…?
ぎゃ、虐待される側と、虐待している側が、きょ、共依存関係に、なっているのかも、し、しれません、よね?
家族…、兄弟…、ふ、双子…?」
青年の考察は見事としか言いようがなかった。
一瞬、捜査に明るい光がさしたような気さえあった。
ただ、それでも事件の捜査は難航した。
なぜなら解離性同一障害を持つ人々が全員カウンセリングを受けているとは限らないからだ。
それに加えて『二人組かもしれない』というのは犯人像の再考が必要だ。
残念ながらその後も犯行は続いた。
その頃、王族の中では不穏な噂が流れるようになった。
「ある王族の家の使用人が不自然に減っている」というのだ。
しかし、その噂の的となっているある王族は沈黙を貫き通した。
ただ使用人が減っているというだけでは状況証拠にもならないし、何より物的証拠は何も無い。
更に、その王族は王国への貢献度が高く、王立軍警察ですらその権力に立ち向かうことは難しいのだ。
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「兄さん、兄さんより頭のいい人なんていないと思ってたけど、どうやら同じくらい頭のいい人があの家にはいるみたいだね」
「あはははは
王位継承権の高さに対する周りからの期待に応えるために、さぞお勉強を頑張っているんだろうね
王族の秀才君に生まれていたら息をするのも疲れてしまいそうだ、かわいそうにな」
「ふふふ、兄さんは天才だからやっぱり違うね」
「当たり前だろ?
僕がすごいのは天才なのに努力をしているところだ
ただの秀才に追いつかれるほど安く無いぞ、この頭脳はな」
「はぁ、うっとりしちゃうよ
兄さんは何もかも完璧で、まるで宝物みたいだ」
「…お前の語彙力のなさにはほとほとうんざりだが、僕の可愛い実験体だからそれでいい
今日は昨日作ったウィルスを注射した後、お前の肺を生検してみようなぁ」
「うん!」
「お前は本当に良い子だ…」
「兄さん、兄さんは僕のものだよね?」
「もちろん、僕はお前のものだ
お前だけが僕を理解することができる
お前だけが僕の身体を悦ばせる事ができる
僕にはずっとずっとお前だけだよ」
「兄さん…、兄さんっ」