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    【WD2】愚問愚答「……と、いうわけで、俺はそのガキに警察を押し付けて華麗に帰ってきたというわけだ」
     オークランドの沿岸に位置するジャック・ロンドン・スクエアは、観光客だけでなく地元民からも人気の観光地である。施設内には有名店や流行の服飾店が立ち並び、広場では特産品を売る屋台が店を構えている。更に海がすぐそばにあるというのもあって、新鮮な魚料理を供するレストランも多く、腹を満たすのにも丁度いい観光スポットだ。この時点でほとんどの人間はこの場所を訪問したことに対して満足するだろう。だが、一番の見どころはやはり海岸から一望できるサンフランシスコの夜景である。遠くに見えるサンフランシスコのビル群が放つ無数の光はなかなかに美しい。昼は買い物や食事に来た客で賑わう場所だが、夜はデートに最適というわけだ。
     だが、もちろん全員が夜にその場所をデートで訪れるわけではない。ジョルディがここで待ち合わせた相手は決して恋人と呼べる関係の人間ではなかった。少なくとも、世間一般の意味では。広場の方はまだ人がたくさんいるが、シートの被せられたボートが並ぶ桟橋には、ひと気は全くない。そしてその桟橋のボート小屋のそばで、夕暮れの薄闇に溶けこむように佇んでいたのは、シカゴの街を散々に騒がせたフォックスこと、エイデン・ピアースだった。
     エイデンとジョルディが出会い頭の挨拶をしたときには、まだかろうじて太陽が赤く波を照らしていた。しかしジョルディが微に入り細にわたって報告を膨らませ、話を締めくくる頃にはとっぷりと日が暮れていたのだった。それでも辛抱強く黙って聞いていたエイデンは、ようやく終わったと言わんばかりの疲れた表情でぽつりと口を開く。
    「ジョルディ、お前はそうやって雑談を入れないと報告の一つもできないのか」
     よくもまあそんなに口を動かし続けていられるものだ、とエイデンは呆れ顔でボート小屋の壁に寄りかかった。
     エイデンは現在、人身売買を行っているアンティ・スー・ボーイズとブラトワを潰すためにサンフランシスコでひそかに活動を続けている。だが、たったひとりで組織全体を壊滅させるというのは、さすがのエイデンにとっても手に余る仕事だった。そして困ったときにエイデンが真っ先に連絡する相手は、いつだってジョルディなのだった。
    「まあそう言うなよ。俺はアンタのためにわざわざ夜中に飛行機に乗ってサンフランシスコくんだりまで飛んできてやったんだぜ。感謝されるいわれはあっても文句を言われる筋合いはないと思うがね」
    「これは契約だ、俺は金を払いお前は契約を実行した。ただそれだけの話であって、そこに感謝が介在する余地なんてない」
    「あ~はいはい、アンタはちっとも変わらねえなピアース。おかしな話だぜ、サンフランシスコの太陽はあんなにギラギラと輝いて地上の人間を日干しにさせようとしてるってのに、アンタのその暑苦しいコートを剥ぎ取ることすらできないってんだから」
    「夜は北風がよく吹くものでな」
    「おやおや、アンタでも冗談を言うとは知らなかった。ま、とにかくアントンとイワン雷帝は死に、ブラトワは少なからぬ損害を被った。アンタのリクエスト通りの結果だろう、ピアース? 満足してもらえたか?」
    「そうだな、文句の付け所がない。仕事に関してはお前は一流だよ、ジョルディ」
     エイデンはポケットに手を突っ込みながら表情を変えずに言う。無関心無感情の局地といった態度に見えはするが、長い付き合いのジョルディには、それがエイデンの最大級の賛辞であるとよくわかっている。ジョルディはにこりと満足げな笑みを浮かべ、また軽口を叩きながらエイデンの隣に並ぶ。
    「何言ってんだ、プライベートでも俺は一流だろ。それにしてもあのガキ、ミントチョコが嫌いだなんて信じられないよな。あんなうまい食い物のどこに不満があるんだ? まったく、最近の若いもんは贅沢でいけねえ」
    「いや、俺もその子供と同じ意見だ。俺もミントチョコだけは何がいいのかわからない」
    「はぁ!? おいおいマジかよ、アンタまでそういうこと言うのか!」
     ジョルディは大げさなくらいに驚いてみせて、それからやれやれと両手を大仰に広げた。
    「どうせアンタもミントのスーッとする風味が嫌だとか言うんだろ? わかってないなぁ、それがいいってのに」
    「いや……実を言うと、食べたこともない」
    「なんだって? 食わず嫌い? ……その年で?」
    「……喧嘩を売っているのかジョルディ」
     エイデンは、今にも懐から警棒かはたまたショットガンを取り出してきそうな目でジョルディを睨む。しかしその凶悪な視線にも動じずに、ジョルディは高級スーツのポケットからその服装に似つかわしくない小さな菓子箱を取り出した。それは、ジャック・ロンドン・スクエアの小さな売店で買ったばかりのミントチョコの箱だ。普段ならこんな安物など手を出さないのだが、以前無性に口寂しかった時、物は試しと買ってみたことがある。どうせまずいに決まってると期待しないで口に放り込んだのだが、意外や意外、案外癖になる味だった。それ以来最近のジョルディのお気に入りになっている。
     ジョルディはその緑と茶のストライプ模様のカラフルな箱をエイデンに差し出した。
    「だったら食べてみろ、特別にこの俺がアンタに恵んでやろう。食わず嫌いなんて損だぞぉ、ピアース。絶対気に入るはずだ」
    「いやだ、42年間食べずに生きてきたんだ、こうなったら死ぬまで食べたくない」
     エイデンはあくまで両手をポケットに突っ込んだままで、決して受け取ろうとはしない。まるで天敵に遭った野生動物のような殺気を放っているエイデンにジョルディは正直呆れを感じる。たかだかミントチョコひとつでここまで敵意を剥き出しにするとは、まるで子供ではないか。
    「わかったわかった、本当に強情だな。そんなに嫌なら俺がこいつを食べるとしよう」
     ジョルディがすぐに引いてそう言うと、エイデンはすました顔のまま「当然だろう」というように軽く肩をすくめる。ジョルディは菓子箱をカラカラと振ると、小さな四角いチョコレートの粒を取り出して口の中に放り込む。安っぽいミントの風味が口いっぱいに広がった。そしてジョルディは何の断りも入れずに突然エイデンの胸ぐらをつかむと、そのままぐっと引き寄せて唇を合わせた。
    「んっ……!?」
     面食らって目を見開いているビジランテの表情に吹き出しそうになりながら、ジョルディはエイデンの口内に舌を使ってチョコレートの粒を押しこむ。そしてものはついでと、彼の後頭部にそっと手を添えて引き寄せ、くちづけを深くしていく。舌を絡めて、歯列をなぞりながら、溶けかかっているチョコレートをエイデンの口内でころころと動かし遊ばせる。
    「ふっ……ん、う」
     エイデンの表情もすぐにとろけてきて、ジョルディの背中に手を回してキスを返してくる。この男、シカゴで出会った時から今に至るまで快楽の誘惑には滅法弱い。そんなだからいまだにデジタル・トリップのような怪しさ満点のシロモノをやめられずにいるのだろう。舌を軽く吸い上げて、顎の裏を舐めてやると、そこが性感帯のエイデンは気持ちよさそうに声を上げる。口の中のチョコレートがすっかり溶けてなくなる頃には、エイデンは腰が砕けて立てなくなってしまった。
     そろそろ頃合いかな、とジョルディは考えてゆっくりと唇をはなす。キスの途中から壁にもたれかかるようにして座り込んでいるビジランテの緑色の瞳は、涙で潤んでいた。上気した頰とその涙目の組み合わせはシカゴの頃と変わらず扇情的だ。ジョルディは笑う。
    「どうだ? ミントチョコ、美味かっただろ?」
    「……思っていたよりは」
     エイデンは唇を手の甲でぐっと拭いながら、不機嫌そうな低い声で呟く。全く素直とは程遠い感想だが、プライドの高いこの男にしては上出来だ。
    「ほらな、だから言ったじゃねえか。食わず嫌いしないで食べてみろって」
    「お前が無理矢理食わせたんだろう……」
    「無理やりだろうが自発的だろうが口に入れば一緒さ、細かいことは気にするものじゃない」
     それからジョルディは、へたり込んでいるビジランテに片手を差し出してにっこり笑った。
    「さて、俺はそろそろホテルに戻ってひと休みするつもりだが。アンタも来るか? 俺のスイートルームに」
     エイデンは、ジョルディの言葉にふっと笑って、彼の差し出した手を握った。ジョルディの助けを借りて立ち上がったビジランテは、微笑みを口の端に乗せたままジョルディの耳元に唇を寄せると、そっとこう囁くのだった。
    「聞かなくても答えがわかっている質問のことを、人は愚問と呼ぶんだ、ジョルディ」
    小雨 Link Message Mute
    2018/06/13 22:56:37

    【WD2】愚問愚答

    2設定のジョルデンです。
    #watchdogs #ウォッチドッグス  #ジョルデン  #腐向け

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