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    【TF:WFC】Still Following メガトロナスに名前をもらってから、サウンドウェーブはグラディエーターピットに戻ることはせずにショックウェーブのリサイクルセンターに身を寄せることになった。正直、もうこれ以上ランブル達を危険な目に合わせたくはなかったので、その状況に不満はなかった。
    「やっと俺達死ぬ心配しなくて済むんだな、フレンジー!」
     そのことが決まったとき、ランブルは感極まったようにいきなりフレンジーに抱きついた。フレンジーはいきなりのことに少しふらついていたが、笑ってランブルを受け止めている。
    「だな。でもそれってちょっと退屈かも」
    「退屈なら私の実験を手伝ってくれてもいいぞ?」
     そんな二人に向かって、施設の主であるショックウェーブが言う。
    「誰から見ても私の実験は過激らしいからな」
    「ふーん? どんなの?」
    「ショックウェーブ。こんな小さいミニコンにえげつないことを勧めるのはやめろ」
     だがその前にメガトロナスが割って入った。そして呆れたようにショックウェーブを睨むが、ショックウェーブの実験がどんなものだかまだ知らないミニコンの二人組は、子供扱いされたことに不服そうだ。
    「なんだよ! 俺達確かに機体サイズは小さいけどな、だからってあんた達より子どもってわけじゃねえんだぜ! ばかにするなよ!」
    「そうだぞメガトロナス。やってみなければわからないだろう」
    「わかった、確かにそこは俺が悪かったが、何であれショックウェーブの実験に関わるのだけはやめておけ。忠告はしたからな」
     するとランブルとフレンジーは顔を見合わせてから、助言を求めるような表情でサウンドウェーブを見上げた。瓜二つな彼らがそうすると、まるで色違いの鏡像のようだった。サウンドウェーブは二人に一言、シンプルな答えを返す。
    「やめておけ」
    「……サウンドウェーブがそう言うなら、そうするよ」
    「そうか、残念だな」
     ショックウェーブは、そういうもののそれほどがっかりした様子ではない。試しに言ってみただけなのだろう。
    「まあ、他にもやることはあるさ。色々とな」
    「さて、俺はそろそろピットに戻る。ショックウェーブ、サウンドウェーブを頼んだぞ」
    「わかっている」
     サウンドウェーブは離れていくメガトロナスの背中を視線で追う。何か声をかけようかと思ったが、やめた。激励など、彼にとって最も必要のないものだろう。
     そんなサウンドウェーブを見上げていたランブルが遠慮がちに口を開く。
    「ボス……本当に、あの人の傍じゃなくていいのか?」
    「ああ」
     サウンドウェーブはしゃがんで、ミニコン達の肩にそっと手をかけた。
    「俺には俺の守るものがある」
     フレンジーは、それに対して何か言いたそうだった。しかし結局口を少し開いて閉じたただけで、サウンドウェーブの腕に小さな手をそっと伸ばす。
    「……」
     長い付き合いだ。何を言っても、サウンドウェーブの意志は変わらないことは、彼らにだってわかっている。レーザービークはサウンドウェーブの肩に止まり、額をサウンドウェーブの頭にこすりつけた。



     それからもメガトロナスは相変わらず負け知らずのグラディエーターとして闘技場で闘っている。そして時々現れてはショックウェーブやサウンドウェーブと話をして帰っていくのだった。対してサウンドウェーブは、ショックウェーブに生活できるだけの環境を提供してもらう代わりに彼の手伝いをしていた。さすがにショックウェーブの実験には手を貸す気にはならなかったが、負傷したグラディエーターのリペアを施したり、ファイルの整理をしたり、そういうほそぼそとした雑用をこなしている。どれを取っても、アイアコンの、ただ日々を暖かい陽の光のもとで過ごすことが出来る者達にとってはあくびの出るような退屈な仕事だと思う。それでもサウンドウェーブは、グラディエーターだった時よりもずっと大きな充足感を得ていた。あの頃はただ終わらない悪夢の中を生きているような感覚だったが、今は違う。今のサウンドウェーブにはメガトロナスという大きな存在がある。ケイオンのすべての下層階級の希望のような彼さえいれば、どんなつまらないことでも、サウンドウェーブは喜んで行うことができたのだ。
     だがそう時間の経たない内にサウンドウェーブは情報を扱う能力に長けていることがわかった。それを見出したのはショックウェーブだった。
    「君の書くソースコードはとても綺麗だな」
     メガトロナスのためにショックウェーブが作っている兵器の手伝いを頼まれた時だった。ショックウェーブはサウンドウェーブの書いたプログラムを見てそう言った。
    「クリスタルシティですら、ここまで整った無駄のないコードを書ける奴はいなかった」
    「そうなのか?」
     サウンドウェーブはモニターから思わず顔を上げてショックウェーブを見た。クリスタルシティはアイアコンにある高名な研究施設なのに、何故ケイオンのこんなうらぶれたリサイクルセンターにいるこの男がそんなことを知っているのだろう。
    「独学でここまで?」
    「……ああ。データネットに入り込んでいる内に、自然と」
    「そいつはすごいな。ケイオンで錆びらせておくには実に惜しい逸材だ。メガトロナスが君をあの場所から連れ出したのは正解だったというわけだ」
     それからショックウェーブは感心したようにサウンドウェーブを見つめて、少し考えるような間を置いてから言葉を発する。
    「私は君がまだ知らないことを教えてやれる。ウイルスの作り方も、バックドアの作り方も、ハッキングの仕方もクラッキングの仕方も、色んなことを。そのうち君は恐らく私よりも情報を盗むのがうまくなる、そんな気がするんだ。どうだろう、君さえ良ければやってみないか?」
     そしてサウンドウェーブは、その提案を受け入れた。確かに鉱山の作業員だった頃でも、アイアコンのネットワークに侵入してデータバンクから音楽ファイルを盗んでダウンロードしていたくらいだ。そういう方面こそ、サウンドウェーブには向いているのかもしれない。
     そうしてサウンドウェーブはショックウェーブから少しずつ技術を学び、メガトロナスのために陰で有益な情報を盗みだしては彼に渡すようになった。どこかでメガトロナスを裏切り、彼を上層部に売ろうとしている仲間がいればすぐに突き止めてそれを阻止した。メガトロナスの理想のためなら、彼のためなら、サウンドウェーブはどんな汚いことでも迷わずに実行することができた。やむを得ず殺して循環オイルを身体に浴びても、何も思わなかった。ただ、その状態で帰るとショックウェーブが「殺すぐらいなら私のテストサブジェクトとして使わせて欲しかったな」と残念がるのだけは少し反応に困った。相変わらず彼はどこかおかしい。何がおかしいのかは、その頃はまだはっきりとはわからなかったが。
     ショックウェーブは、傷付け合ったり殺しを楽しむような連中もごろごろしているグラディエーターピットで生活していたサウンドウェーブから見ても、群を抜いて冷酷な男であると言えた。ショックウェーブのことをメガトロナスはマッドサイエンティストと呼ぶ。サウンドウェーブもそう思う。センターの一角にあるショックウェーブのラボからはいつもくぐもった悲鳴が聞こえてくる。そして彼に用があって中に入ると、水色の循環オイルがとくとくと流れている何かのパーツがそこら中に落ちていたりする。
    「あいつ、ほんと、やばいよなあ」
     ラボに入ると、ランブルはいつもしみじみとそうつぶやいた。
    「なあサウンドウェーブ、あいつのとこにいて本当に大丈夫か?」
    「心配ない」
    「そう言うけどさあ。根拠はちゃんとあるんだろうな? いつかお前のことも前触れ無く実験の道具にするかもしれないぜ」
    「それは俺もちょっと思ってた。ショックウェーブってさ、たまにサウンドウェーブのこと解体したそうな顔してるよな?」
    「あ、やっぱフレンジーもそう思う?」
    「うん」
    「……」
     依然として心配そうな顔で二機とレーザービークはサウンドウェーブを見つめている。サウンドウェーブ自身、過保護だと言われる程度に彼らを庇護している自覚はあるが、彼らのサウンドウェーブに対する態度も似たり寄ったりであると言える。それにこれに関しては彼らの心配は的外れというわけではない。初対面でショックウェーブがスクラップになる寸前だったサウンドウェーブに向かって何気なく放った言葉は今でもはっきり覚えている。
    「君が死んでいたら心ゆくまで解体して仕組みを調べたんだが……ああ、そう考えると残念だな。きっといい実験ができた」と、彼は悪気などネジの一本ほどもなく言ったのだった。間違いなく今でもショックウェーブはそう考えているだろう。
    「理由はある。ショックウェーブがどういうつもりでも、メガトロナスが俺を必要としている限り奴は絶対に俺に手を出すことはない。あいつは、論理に背くようなことは、絶対にしない男だ」
     サウンドウェーブははっきり言い切って、まっすぐ二機を見つめた。すると不服そうながらも、ミニコン達は渋々それ以上の議論を諦める。
    「まあいいや。いざとなればレーザービークだっているしな。そうだろ?」
     するとレーザービークはフレンジーの肩に止まって当然だというように高らかに一鳴きした。
     だが、ミニコン達の心配とは裏腹に、そしてサウンドウェーブが思った通りに、ショックウェーブは一向にサウンドウェーブを壊そうとすることはない。仮にサウンドウェーブを殺したり改造したりすればメガトロナスとの間に無意味な軋轢が生じることなど、この恐ろしいほど頭の切れる男は考えるまでもなく理解しているのだ。彼は感情に流されることはない。彼を支配しているのは、常に最適な未来を選びとる純粋なる論理だけなのだから。
     そういうわけで、サウンドウェーブはショックウェーブと、ショックウェーブの築く関係の中ではメガトロナスの次に安定した状態を保っていた。
     そんな二人へのメガトロナスの態度も、いつも変わりなかった。サウンドウェーブから情報を受け取っても必要以上にサウンドウェーブを持ち上げたりはしない。せいぜい一言声を掛けるくらいというほど、あっさりしている。でもサウンドウェーブはそれで構わなかった。別にメガトロナスに感謝して欲しくてやっていることではなく、自分がそうしたいからやっているに過ぎないからだ。ただ、メガトロナスとショックウェーブの付き合いはどうやらサウンドウェーブと彼が出会うよりずっと前から続いているものらしく、彼らは時々気の置けない友人のような空気を持つことがある。そういうときサウンドウェーブは少しばかりの嫉妬を覚えた。メガトロナスは、そんなサウンドウェーブを面白がっているような節がある。時々わざとショックウェーブとメガトロナスの間でしかわからないような話題を出して、サウンドウェーブの反応を見ることがあった。メガトロナスの意図はわかっているが、感情ばかりはどうしようもなくてサウンドウェーブは毎回つい不機嫌になる。するとメガトロナスはくすりと笑ってサウンドウェーブを宥めるのだった。
     一方のショックウェーブはサウンドウェーブたちがそんなやり取りをしていると何だか不思議なものを見たような目で二人を観察している。はじめは彼がそういう反応をする理由がわからなかった。けれどじきに知った。彼には、心や感情というものがわからないのだ。道理で仲間の死体がすぐそこのリサイクル場で歯車に噛まれて粉々に破壊されるのを見ても平然としているはずだと納得したものだった。ショックウェーブの声にはいついかなるときでも感情がこもることはなく、心を波立たせることはない。ショックウェーブを見ていると、サウンドウェーブは地下深くに眠る暗い湖を連想した。辺りには物音一つせず、濁りとは無縁の限りなく澄んだ水の中には微生物一匹生きることができない。波紋一つ広がらない水面は鏡のように動かず、生命のあたたかみとは程遠い冷たさがどこまでも広がっている。そんな空想をサウンドウェーブは抱くのだった。

     特に変わりない日常の中のある日、サウンドウェーブが一仕事終えてショックウェーブの元に戻ってきたときだった。ラボでショックウェーブに情報その他を渡していると、そこにメガトロナスが顔を出した。
    「メガトロナス、久しぶりだな。ここに来るのは162日ぶりではないのか」
    「少し試合が立て込んでいたからな。お前達は……いや、少なくともお前は相変わらずみたいだな」
    「その呆れた顔はなんだ。失礼な」
     ショックウェーブは心外だというように軽く肩をすくめる。その前には、既に原型を留めていない今日のテストサブジェクト達が無造作に作業台に散らかっていた。今回はサウンドウェーブが処理した裏切り者数名と、行き倒れていた身寄りのない工場労働者の死体だった。
    「今回は何を作ってる?」
    「武器を一度に二個しか持ち運べないのは不便だろう? だからいっそ腕の数を増やしてみようと思ってな」
     それを聞いて発声回路を破壊されている裏切り者の一人が泣きそうな顔をしたが、既に虫の息の彼では抵抗することすらかなわないだろう。実験が終わっても生きていたとしたら彼はプライマスに心から感謝の祈りを捧げたほうが良い。たとえ、どんな状態であっても。
    「うまくいったらあなたも試してみるか?」
    「死んでもお断りだ、ショックウェーブ」
    「そうか……」
     そこでショックウェーブが「あなたが戦いやすいように、とも思っていたのだが」と付け加えたのでメガトロナスは「余計なお世話だ、このマッドサイエンティスト」と釘を刺している。
    「そもそもそんな小細工などせずとも俺は負けはしない、誰にもな。そうだろう、サウンドウェーブ?」
    「ああ。グラディエーター全員のデータからしてもあなたが負ける確率はゼロに等しい。あなた以上に強い者はいない」
     サウンドウェーブの答えにメガトロナスはふっと笑う。メガトロナスは、賛辞を受けるのが好きなのだ。
    「ところで、何か変わったことはあったか?」
    「例のデータ・クラークから通信が」
    「何、オライオンから?」
     オライオン、という名前を口にした瞬間、メガトロナスの口元がほころんだ。闘技場で見る獰猛な笑みでもなく、ショックウェーブやサウンドウェーブ達同志の者に見せる自信に満ちた指導者の表情でもない。純粋な、ただの一人のサイバトロニアンとしての喜びを感じさせる笑顔だった。
     それを見る度にサウンドウェーブは複雑な思いに駆られる。それはひょっとしたら嫉妬という感情なのかもしれないが、サウンドウェーブはそうではないと思っている。これは、何か、嵐が来る前の快晴の空を見たような、そんな不安感なのだ。
    「……テキストの暗号はもうデコードしてある。返事を出すのならば、いつものように俺に。暗号化する」
     メガトロナスの企ては最高議会への反逆でもある。もしも誰かに読み取られれば、メガトロナスはおろか、彼に賛同するすべての者達が投獄され、革命は成されぬまま歴史の一ページに収まるだろう。何としてもそれは避けなくてはならない。それはオライオン・パックス――アイアコンの下級情報員にとっても同じ事で、彼とサウンドウェーブは彼らにしか通じない暗号コードを作り出し、それでやり取りをしているのだった。
    「わかった。頼むぞ、サウンドウェーブ」
    「……」
     依然として不安は消えない。メッセージの入ったデータチップを渡すとき、いつもは何も言わないのだが、サウンドウェーブは意を決してメガトロナスを見上げる。
    「メガトロナス。何故あなたはあの男と連絡を取り続ける? 彼ほどではないが、俺も一介のデータ・クラーク以上の働きはできる。危険を犯してまで、彼と通じる必要はない」
     普段盲目的といえるほどメガトロナスの行動に口を挟まないサウンドウェーブの言葉に、メガトロナスは一瞬驚いたように目を見張る。けれどすぐに指導者らしい自信に満ちた笑みを浮かべた。
    「だがお前ではアイアコンの生の情報を手に入れることはできないだろう。時が来た時、アイアコンに仲間がいれば容易に侵入することも可能だ。それにあの男の解析能力は優秀だぞ。利用しない手があるか?」
    「……確かに、そうだが」
    「それに」
     メガトロナスはサウンドウェーブの手からデータチップを取り、部屋の出口に向かいながらデータチップを持つ手を挙げてひらひら振った。
    「あれは俺の友人だ」
     扉がさっと動き、メガトロナスの背中が見えなくなる。サウンドウェーブはしばらく閉まった扉をじっと見つめていたが、やがて少し顔を俯けてため息をついた。
    「友人か……」
    「メガトロナスが心配か?」
     成り行きを静かに見守っていたショックウェーブが尋ねる。サウンドウェーブは振り返った。
    「……どうしても、信用出来ない。あのオライオン・パックスという男が」
    「理由は?」
    「……特にない」
    「そうか。実に君らしくない、非論理的な答えだな」
     サウンドウェーブは再び俯く。ショックウェーブの淡々とした声はただ事実を述べているだけに過ぎなかったが、いかに自分が馬鹿げたことを言っているのか自覚するには十分だった。
    「おまえは、どう思う」
    「オライオン・パックスか。私もメガトロナスと同じ意見だな。ただし、彼は私にとって友人ではないが」
     ショックウェーブは話しながらテストサブジェクトの一人の関節のリペア用パネルを開く。そして循環オイルの流れるバイタルコンデュイットに細いワイヤーを巻いて縛り、処置を進めていく。
    「信用出来ないなら信用する必要などないだろう。利用するだけして、使えなくなったら殺せばいい」
    「だが、それではメガトロナスはどうなる? あの人は……彼を信じている。この地下にはそぐわないような、子どもみたいな純真さで。もしそんなことになれば……」
    「深く傷付く、そう言いたいのか?」
     ショックウェーブはそこで施術用の鋏をパネルの中に突っ込んだ。ぱき、と音がして、じょきじょきという音が続く。そしてショックウェーブが引っ張ると、オイル一滴零さず腕のパーツが外された。
    「だが、それでスパークが失われるわけではない」
    「死ぬことはなくても。死ぬまで消えない傷になるかもしれないんだぞ?」
    「なるかもしれないし、ならないかもしれない。確実なことは何もない。それに比べてパックスを利用した場合に期待できる利益は無視できない程度に確実で、大きい。サウンドウェーブ、お前の懸念はわからんでもない。彼はアイアコンの者で、我々とは価値観の違う世界に住んでいる。メガトロナスと同じ苦しみを味わってきた同郷のケイオンの者と比べれば確かに信用度は落ちるが……」
     ショックウェーブはそこで言葉を切り、テストサブジェクトを眺めてふむと首を少しかしげた。
    「やはりこのままではパワーが落ちるな。ブレインサーキットの出力系統にも手を加えなくては」
     ショックウェーブがそう言った途端、彼のテストサブジェクトが最後の抵抗を見せるように必至にずりずりと後退を始めたが、ショックウェーブはそれを無視してテストサブジェクトの首筋に黒いチップを差し込んだ。
    「心配するな。ちょっとオフラインになってもらうだけだ」
     その瞬間がくんとテストサブジェクトの機体が硬直して動かなくなる。
    「目が覚めたらきっと生まれ変わったような気分になっているさ」
     冗談のつもりだかなんだかよくわからない言葉と共にショックウェーブは軽く彼の肩を叩いて、作業を再開した。
    「……そうそう、パックスの話だったな。どちらの結果になろうとも、彼を仲間として使うのが一番合理的で有益だ。たとえそれでパックスが君の懸念通り彼と道を違えても、それでメガトロナスが何を思おうとも、私の感知するところではない」
     サウンドウェーブは思わずショックウェーブの腕を乱暴に掴んで引き寄せ、そのモノアイを間近に睨み付けた。
    「死にさえしなければどうでもいいとでも言うつもりか?」
    「勘違いはしないでもらいたいな。私はメガトロナスにこの星を導く指導者になってもらいたい。そのためには、あの情報員の男を使うのが一番の近道で論理的な方法だ、と言っているだけだ」
     サウンドウェーブはそのとき初めてショックウェーブの無感情な性質に苛立ちを覚えた。彼は、味方だ。間違いなく、サウンドウェーブと同じくらいこの革命の成就を望んでいる。だが、彼と自分との間には何か言葉にはできない決定的な相違があるのだと言うことをサウンドウェーブははっきりと感じた。
     サウンドウェーブは更に言葉を続けようとしたが、その直前に背後の扉が開いた。
    「サウンドウェーブ、オライオンへの返信を送信してもらえる、か……」
     はっとして振り返ると、そこにはきょとんとした顔で二人を見つめるメガトロナスが立っていた。ただならぬ雰囲気をすぐに読み取ったメガトロナスは、ふたりに尋ねる。
    「何を揉めている?」
     ショックウェーブはひょこりとサウンドウェーブの機体の横から顔を出して、それに答えた。
    「サウンドウェーブは、あなたとオライオン・パックスのことが心配なんだそうだ」
    「俺とオライオンが?」
     ショックウェーブの言葉をそっくりそのまま繰り返してメガトロナスは面食らったように瞬きする。そして、何だそんなことか、というような苦笑を浮かべてサウンドウェーブに歩み寄ると、その頭にぽんと手のひらを載せた。
    「心配するな。奴はたとえ何処かから脅しをかけられたとしても決して屈するような弱い心は持っていないし、その志は俺やお前と同じものだ。アイアコンの連中を憎んでいるお前があいつを信頼できないのは無理もないが、オライオンは信用に足る男だ。俺が保証する」
     そうではないのだ、と言いたかった。確かに、自分達をこんな目に合わせて、その殺し合いを楽しんでいたアイアコンの者たちは憎い。けれどそんな自分の意思など関係ないのだ。ただ、あの男はあなたに何か取り返しのつかない過ちをもたらすような、そんな気がしてならないのだ、と。
     しかしサウンドウェーブの言葉はどれも声にはならなかった。発声装置は至って正常なのに、何も言うことができなかった。
     メガトロナスは彼を信じている。それも、心から。ならば、横からどんなに警告を口にしたところで、何の意味もない。
    「わかってくれたか? ならばこれを頼んだぞ」
    「……あなたの望むままに、メガトロナス」
     サウンドウェーブはメガトロナスから手渡されたデータチップをじっと見つめて、メガトロナスがふたたび去った後にぐっと握り締める。壊してしまいたかった。でも、できなかった。メガトロナスがそれを望んでいないことは、サウンドウェーブ自身が一番よくわかっていたからだ。
    「良かったのか、彼に何も言わなくて?」
    「…………」
    「まあ、君の好きにすればいいが」
     ショックウェーブはあまり興味の無さそうな声でそう言って、また自分の実験に戻っていく。同じ生きたサイバトロニアンをまるで模型か何かのように扱う彼のことは、やはり理解できそうにないと思った。
    「サウンドウェーブも、メガトロナスも。相手を信じるという行為は古来より誰しもが美しいと称する感情だな」
     ショックウェーブはリサイクルする前に抜き取ったサーキットのスペアパーツの入った容器に手を突っ込み、何個か取り出して最適なものを選んでいる。
    「お前にとってはくだらないと、そう言いたいのか?」
    「とんでもない。私だって、できることなら君やメガトロナスのような感情をスパークで理解してみたいくらいだ。興味深い存在だよ」
     ショックウェーブはそして何気なくことりとスペアパーツを置いて、作業台からサウンドウェーブの方に向き直った。
    「まあ、私には、必要のないものだと言えばその通りなんだがな。たとえば」
     そのとき、突然ショックウェーブが片腕を挙げて、銃形態にトランスフォームさせる。何をする気なのかとサウンドウェーブが呆気に取られていると、スクラップの山の一角を撃ち抜いた。
    「こういうことをしても幸い私は何も感じない」
    「なっ……!」
     気付いていたのか。
     そこは、裏切り者の処理に赴く際、密かに忍ばせておいたレーザービークが隠れているはずの場所だった。頭が真っ白になって咄嗟に駆け寄ろうとするが、その進行方向、足元をショックウェーブが再び撃ったのでサウンドウェーブは否応なしに足を止める。
    「本当に、君の忠誠心は素晴らしい。私でさえも、メガトロナスを裏切りはしないかと監視していたんだろう?」
    「ショックウェーブ! 貴様……」
    「いや、勘違いはしないでくれ。それについて抗議しているわけではない、本当に称賛しているんだ。君の行動は、私が彼の現状の右腕であるという表面的事実に流されることのない論理的行動だ。称賛されて然るべきだろう」
    「なら、これは、どういうつもりだ?」
    「……サウンドウェーブ、心というのは実に脆くて弱々しいものだとは思わないか? 君のような優秀な頭脳を持つ男でも、そこのミニコンへの執着……いや、愛着と君達は呼んでいるんだったか。その感情のせいで、知能を持たぬドローンのように無力な存在に成り下がる。感情は、どんな屈強な存在でさえも等しく持ち得る弱さだ」
     ショックウェーブは、動けなくなっているレーザービークにゆっくりと歩み寄って拾い上げる。サウンドウェーブが強く睨みつけていることも、全く意に介していない。
    「その点、君の心配は正しいかもしれない。メガトロナスは、いつか、あの男のせいで、壊れてしまうかもな」
    「レーザービークを放せ」
    「ふふ。私に心と呼べるような代物がなくて良かったな。仮にそんなものが存在していたら、恐らく私は合理的状況判断を無視して、君の愛するミニコンを盾に脅して君をバラバラにしていたはずだ。サウンドウェーブ、君の機体データに私は非常に興味をそそられるから」
    「レーザービークを放せ!」
    「心配しなくても、少し麻痺しているだけだ。メガトロナスが、相手を傷付けずに一時的にオフラインする武器がほしいとぼやいていたから、試しに作ってみた。君の部下でテストしたのは悪かったがどうも成功みたいだな。協力感謝する」
     ショックウェーブはちょんちょんとレーザービークの頭をつついた。すると、レーザービークのオプティックに光が灯り、ゆっくりと羽根を動かす。
    「レーザービーク、リターン!!」
     サウンドウェーブが思わず大きな声を出すと、レーザービークは驚いたようにサウンドウェーブに顔を向ける。そして危なげないなめらかな動きでふわりとショックウェーブの手から離れて、トランスフォームした後サウンドウェーブの胸部に収まった。
    「麻痺による後遺ダメージも無し、と。文句なしの成功だ」
    「……」
     サウンドウェーブは胸部パーツに手を当てながら、ショックウェーブを睨み続けた。
    「今度こんな真似をしたらお前を殺す」
    「わかってる、もうしない。全く相変わらず、部下のことになると驚くほどムキになるんだな」
     ショックウェーブは謝るように軽く両手を上げて言った。
    「そうまでして他者に固執する理由が何処にある? 私にはわからない」
    「お前にはわからなくて当然だ。理由なんか、あるわけないだろう?」
     サウンドウェーブは怒りに燃えたまま、つかつかとショックウェーブに歩み寄り、ぐっとショックウェーブの胸部を押した。
    「それが感情で、それが心だ。スパークの奥から湧き上がる衝動に理由なんてない。俺達をただの歩く機械から分けているのは、それ以外に何がある?」
     ショックウェーブは答えない。ただ、何の揺らぎも見せずに、静かにサウンドウェーブを見返している。
    「俺には生きる目的がある、死ぬ訳にはいかない理由がある。ランブル達を守ること、メガトロナスの未来を支えること、それが俺の心を満たす目標だ。俺は今、生きていることに充足感を感じている。お前には、きっとこの充足感なんかないんだろうな。お前は悲しむことも苦しむことも喜ぶことも愛することからもすべて無縁だ。生きていく上での幸福を得るためのすべてから、お前は見放されている。俺は苦しくても幸せだ。苦しいからこそ俺は生きていると実感できる。苦しくても愛する者がいればそれだけで生きていく理由になる。お前にはそれがない」
    「……」
    「どうしておまえがそうまで実験に拘るのか俺にはわかる。お前は、どうしようもなく退屈なんだろう。それも当然だ、お前には生きる目的も得られるはずの幸福もはじめから存在しないんだからな」
     普段、必要最小限の言葉しか口にして来なかったサウンドウェーブは、激昂するままに浮かんだ言葉をそのままショックウェーブにぶつけていった。
     そしてショックウェーブはふと視線を下げる。そこには、サウンドウェーブがショックウェーブと出会って初めて目にする僅かな揺らぎがあった。
    「……私だって、好きでそういう性質を持って生まれてきたわけじゃない」
     ぽつりと、囁くような声だった。サウンドウェーブは思わず、ショックウェーブをなじる言葉を止める。
     ひょっとしたら、気のせいかもしれない。けれどその声にはどこか、諦めたようなかなしみが含まれていたような気が、サウンドウェーブにはしたのだった。でもそれもほんの少しだけのことで、ショックウェーブはすぐにいつもの冷静な科学者の顔に戻って言った。
    「そろそろ収集車からスクラップが届く時間だな。私は手が離せないから君が行ってくれるか?」
    「……」
     サウンドウェーブはそれ以上何も言えなくなって、ただこくりと頷いた。
     何故だかわからない。しかしサウンドウェーブは罪悪感を覚えていた。彼があんな反応をするとは思っていなかった。ショックウェーブの触れてはならない場所に思いがけず刃物を突き立ててしまったような、そんな感覚だった。サウンドウェーブはショックウェーブのラボから出て一人歩きながら、ショックウェーブの少し俯けた目と声を思い出す。怒りはとうに霧散して消え、ただもやもやとした晴れない気持ちだけが残っていた。
    小雨 Link Message Mute
    2018/06/15 22:36:31

    【TF:WFC】Still Following

    #トランスフォーマー  #WFC  #小説
    メガ様がグラディエーターだった頃のサウンドウェーブとショックウェーブの話です。捏造注意。ランブル、フレンジー、レーザービークもいます。

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