イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    【TF:FOC】Nonsense サンダークラッカーは元オートボットのスタースクリームがディセプティコンに寝返る際に連れてきたシーカーのひとりだった。それ以外のことは知らない。恐らくサウンドウェーブに尋ねればすぐに詳細すぎるほどの情報を貰えるだろうが、別に興味が有るわけではなかったので訊くことはなかった。今のショックウェーブの興味は、錆の海で見つかった肥沃なエネルゴン湖とその近辺で見つかった遺跡に集中していた。無論ただの遺跡だったならそのまま捨て置いていたはずだ。今は戦争中、文化財の保護など行えるような時勢ではない。敵を排除する助けにならないのなら、どんな歴史的価値のある建造物でもそれはただの廃墟でしかないのだ。
     しかしショックウェーブは、先達者たちの遺した『地図』に興味をいだいた。現在のサイバトロニアンが通常用いるようなホロマップとは違う。ドーム状の空間に、暗く星の輝く宇宙が映しだされていた。近付けば螺旋階段が現れ、それを登れば小さな星々のミニチュアが立体映像として周りを飛び始める。
     そしてショックウェーブはその空間を軽く調べているうちにその中の本当にちっぽけで見逃してしまいそうな小さな青い星に目をつけた。
     とある恒星の回りを周回するその惑星は、表面のほとんどが水で覆われていた。金属の星サイバトロンで水というものはほとんど見かけないのでショックウェーブはまずそのことに驚いた。酸化還元反応による腐食でとっくにコアが錆びきっていてもおかしくないのにどうしてこのような安定した状態を保っているのかと更に観察すれば、奇妙なことにその星のコアはマグマでできているようだった。見れば見るほどサイバトロン星とは何もかもが違っていて、面白い。ショックウェーブは戦争のこともサイバトロン星全体の深刻なエネルゴン不足のことも忘れてその星の調査に乗り出した。
     そしてそのちっぽけな惑星には信じられないほどの豊富なエネルギー資源が眠っていることをショックウェーブは発見したのだった。これだけのエネルゴンがあればオートボットとの戦争に勝つことができるばかりか、ダークエネルゴンの侵蝕以来シャットダウンしたままのサイバトロン星のコアを再起動することも可能だと判断できた。
     メガトロンにそのことを伝えると、メガトロンもショックウェーブ同様にその惑星に非常に興味を持ったようだ。
    「お前の意見を聞かせてもらおうか、ショックウェーブ」
     それは彼が一介のグラディエーターだった頃から何度となく聞いた言葉だった。そしてショックウェーブもあの頃と同じように整理された意見を淀みなく述べていく。
    「利用しない手はないでしょう。エネルゴンの貯蔵量は戦局に直接影響する。今やこの戦争は持久戦に入っています。そしてどちらのエネルゴンも尽きかけている。たとえ終戦を迎えても、そのときこの星にどれだけのエネルゴンが残されているかわからないほどに」
    「それは俺にもわかっている。問題は、どうやって、その星にたどり着くかだ」
    「……幸いなことに我々はおそらくサイバトロン星最後のエネルゴン湖を見つけました。これだけあれば空にポータルを開いて空間移動を行うには十分でしょう。しかしここで問題が一つ。我々には、宇宙を長く放浪出来るだけの拠点とできる船がないのです」
     星を捨て難民となることを選んだ一部のオートボットとは違い、ディセプティコンは全員メガトロンと共にいつか機能を停止するその日まで戦い続けることを選んだ。だからこそ、宇宙へと逃げ出すための船がないのだ。
    「燃料は問題ないでしょう。恐らく資材も。だが、問題は動力源です。ディセプティコンを全員乗せるわけではないにしても……並大抵のエンジンでは到底多人数を乗せての長旅の負荷には耐えられない」
     実現への最大の障害はまさしくそれだった。今からそんな動力源を作ろうにも、ソースコードどころか設計図すらないこの状態だ。あまりに時間も手間もかかりすぎる。いくらディセプティコン優勢の状態といっても、そこまで戦争以外のことにかまけていられるほどの余裕はない。ショックウェーブは、こうなればオートボットのアーク号を奪うしかないかと考えていた。
     しかしメガトロンはにやりと笑ってこう言った。
    「何を言う? それならお誂え向きのものがあるではないか」
    「……どういう意味です?」
     少なくともショックウェーブの参照したディセプティコンデータネットにそのような情報はない。ショックウェーブが戸惑う様子を、メガトロンは面白そうに眺めて、それからまた口を開く。
    「トリプティコンだ」
     思わずショックウェーブは、あ、と声をこぼしていた。
    「あいつはオートボットに敗れて俺を失望させた愚か者だが……何万イオンもの歳月を軌道周遊ステーションとして過ごしていたはずだ。あれを使えばいい」
    「なるほど。それは盲点だったな」
    「お前は論理を元により確実なことを導き出すのが得意で、それがお前の長所だと思っている。だが時には柔軟な発想も必要だぞ」
    「心得ておきます」
     メガトロンはこうして肝心要のときに鮮やかなまでの機転を利かせることのできる男だ。だからこそ、あの墓場のようなグラディエーターピットから抜け出し、これほどまでの数のディセプティコンを率いる指導者となり得たのだろう。ショックウェーブもそれが興味深く感じて、こうしてメガトロンのそばで観察を続けてきたのだ。
    「トリプティコン……ステーションのことならば、ステーションの最高責任者だったスタースクリームがお前の役に立つだろう。このプロジェクトを手伝うように言いつけておく。頼んだぞ、ショックウェーブ」
    「……あなたの望むままに、メガトロン」
     スタースクリーム。あまりいい印象はないが、メガトロンがそう言うのならば仕方ない。それにそのメガトロンの判断は最も理にかなったものである。
     だから、ショックウェーブは渋々了承したのだが。
    「……何故お前がここに?」
    「いやあ、その……」
     一度目の打ち合わせで、塔のある錆の海にひとまず来いと連絡したはずだった。だが、スタースクリームは現れず、代わりに姿を見せたのが彼の空色の同型機だったのだ。
     サンダークラッカーは困ったような愛想笑いを浮かべつつ、どうにかこの状況を打破しようとしているようだった。
    「スタースクリームはどうした?」
    「……あのな、一応俺は止めたんだぜ。そんな勝手なことするなってよ」
     それを聞いて、ショックウェーブはサンダークラッカーの言わんとする事を察した。ショックウェーブは思わず呆れる。
    「逃げたんだな? お前に押し付けて」
    「アイツ昔っからわがままなんだよ……あ、でもほら、俺だってずっとアイツと一緒にステーションにいたし、戦争前はクリスタルシティで働いてたからさ。役に立つと思うぜ。と言うかそうでなきゃ流石にスタースクリームでもこんなことはしねえよ」
    「……」
     クリスタルシティは科学者の中でも最も優秀と言われるような連中が集められている場所だ。確かにそれは間違っていないのだろうとショックウェーブには思われた。
    「まあ、どちらでも私は構わん。とにかく、ネメシスプロジェクトさえ完遂できればそれでいい」
     それを聞いてサンダークラッカーは少しほっとしたように表情を緩めた。
    「ええと……そんじゃこれからよろしくな」
    「ああ」
     こうしてネメシスプロジェクトは、まずはショックウェーブとサンダークラッカーによって推し進められることになった。



    「……ショックウェーブ、この部屋は?」
    「『地図』だ。恐らく13プライム時代の遺産だろう」
     ショックウェーブが錆の海の遺跡内部にサンダークラッカーを案内すると、サンダークラッカーは宇宙空間の広がるホログラフィを見つめて呆けたように固まった。
    「どうした?」
    「綺麗だな……」
     それを聞いてショックウェーブは少し驚いた。何度となくこの空間に出入りしているが、彼がそんな感想を抱いたことは一度もなかったのだ。
    「綺麗? 何がだ?」
    「何が? 全部さ。幻想的だよ。星雲も、恒星も、変光星も、惑星も。見事な調和じゃねえか……そうか、これを13プライムの頃のサイバトロニアンが……」
    「だが、これと全く同じ物は我々の頭上でいつでも見られるじゃないか?」
    「そうだけど、それでも綺麗だよ、ここは」
     サンダークラッカーがこの『地図』をそのように特別視する理由がショックウェーブには理解できなかった。けれど、それは後回しにしてショックウェーブは漂っているちっぽけな小さな星を呼び出して指をさした。
    「我々の最終目標はこの星だ」
    「は? こんな、小さくて原始的な星が?」
     ショックウェーブはメガトロンにしたのと同じ説明を繰り返した。
     さすがにサンダークラッカーは飲み込みが早く、それほど言葉を重ねなくても同じ結論に達した。
    「なるほどな。それは確かに、無視できない」
     そしてショックウェーブとサンダークラッカーは、メガトロンがトリプティコンをオートボットの元から取り返す間にサウンドウェーブが以前入手したステーションのホロマップとサンダークラッカーの持つ内部情報を合わせて大体の計画を練ることになった。
     だが、やはりトリプティコン本人がディセプティコンに帰ってこなければどうにもならない箇所はある。トリプティコンのCPUの精確な情報やソースコードはさすがにサンダークラッカーもすべて把握しているわけではない。そして彼らの主な役割はプログラムやオペレーティングシステムの開発であり実際の造型を行うのは彼らではなくコンストラクティコン達の仕事だ。だからネメシスの差し当たりの設計図面を作り終わった後は、サウンドウェーブやメガトロンがトリプティコンを奪い返す日を待つ以外にあまりやることがなくなってしまった。
    「しばらくお前に尋ねるべきことは特にないだろう。何かあったら呼ぶから、別にわざわざ錆の海に来る必要はない」
    「わかった」
     だがそれからもサンダークラッカーは度々錆の海を訪れては、『地図』のある部屋に入ってぼんやりと天井や漂う星々を眺めていた。よほどこの空間が気に入ったようだ。ショックウェーブも『地図』に用があったので頻繁にそこを訪れている。だから、自然と二体で過ごす時間が増えた。
     珍しいことだと思った。ショックウェーブはディセプティコンのほとんど全員から非常に恐れられているからだ。そして原因は自分でもわかっている、実験だ。残忍な行為に抵抗のない若いディセプティコン兵ですら躊躇ってしまってできないことでも、ショックウェーブは平然とやってのけることができる。そしてそこに感情は一切含まれない。淡々と実験を進めるさまに、誰も彼もが言った。あいつはおかしい、近付いたらなにをされるかわからないと。
     ショックウェーブは誰に何をいわれようとどうでも良かったが、それでも自分が他者から好かれない性質を持っていることはわかる。だからこそ用もないのにショックウェーブの元までやってくるサンダークラッカーは異質な存在として映った。
    「どうしてお前は私を避けない?」
     ある日とうとう訊かずにはいられなくなってサンダークラッカーに尋ねると、サンダークラッカーは少し控えめに笑みを作った。最近知ったことだが、彼は困ったことがあるとその笑い方をする。
    「さあ。俺にもわからない」
     それから冗談めかした声で言った。
    「なんだよ。避けて欲しいのか?」
    「別にそういう意味ではない」
    「確かにお前って何考えてんだかわかんなくて怖えしな。味方でもあっさり実験台にしそうだ。あとぶっちゃけお前のペットも怖いしお前のやる実験もどうかと思ってる」
    「……」
    「だが何の利益もないのに味方を殺すほどイカれちゃいねえだろ?」
     確かにそのとおりだったのでショックウェーブが黙っていると、サンダークラッカーは「ほらな」と言って今度は作り笑いではなく笑った。
     それからも幾度と無くサンダークラッカーは『地図』の部屋に現れて、少しだけ会話をした後に去っていく。サンダークラッカーの振ってくる話題は、他愛もない話が多かった。そしてほとんどがスタースクリームかスカイワープに関する話だった。スタースクリームにはうんざりだとか、スカイワープはミスばっかりだとか、愚痴や文句も多かったが、どんな内容であっても彼らのことを話すサンダークラッカーの表情はどこか穏やかで優しかった。
    「お前とあのシーカー達はどういう付き合いなんだ?」
     試しに聞いてみると、サンダークラッカーは少し悩んだ末に答えた。
    「……なんていうか、一言では言えないかも」
     サンダークラッカーは階段に座り込んだままくるくると周る恒星のミニチュアに指先を伸ばして触れようとしたが、ホログラフィはすっと音もなく通り抜ける。
    「俺たち、実はオルトフォームの訓練所の頃からの付き合いなんだよな」
    「……そんなに昔から?」
    「びっくりだろ? 俺も正直驚きだよ」
     サイバトロニアンは通常生活するときの形態、プロトフォームの他に、飛行機や走行機などのオルトフォームを持つ。そしてこの星にスパークを受けて誕生した者達はまず訓練所でオルトフォームの練習をする。
     要するに、彼らはほとんど生まれたときからずっと同じ時を過ごしてきたということだった。
    「だから俺にとってはスタースクリームとスカイワープはそこにいるのが当たり前の存在なんだ。あいつらがいないなんて、想像できねぇな。まぁ……スタースクリームにとってはどうだか分からねえけど」
    「……まさか、それがお前がディセプティコンに寝返った理由か」
     サンダークラッカーは、それには答えずにただ笑ってみせた。
     彼の答えに対してまずショックウェーブが抱いた思いは驚きで、次に「理解不能」という感想だった。そうまでして他者に執着する合理的な理由が一体どこにあるというのだ? 自分の立場を投げうってまで誰かを追うなど、ショックウェーブにはサイバトロン星が滅びる日がきたとしても実行し得る理由を見つけることは出来ないだろう。
    「……じゃ、今度は俺がお前に尋ねるが。お前なに作ってんの?」
    「ああ、これか? 別に……大したものじゃない」
     サンダークラッカーがショックウェーブに寄ってきてショックウェーブが話しながら編集していた携帯グリッドを覗き込む。
    「何のプログラムだ、これ」
    「……言っておくが私の趣味ではないからな。頼まれたものだ」
    「え?」
     ショックウェーブは首を傾げるサンダークラッカーを横目にファイルの実行を選択する。画面いっぱいに表示されていたソースコードが消える代わりに、気の抜ける音楽と共に画面中央にキャラクターが現れる。
     その瞬間サンダークラッカーがぶっと噴き出した。
    「ち、ちょっ、何だこれ! はははは!」
    「だから私の趣味ではない! 頼まれたんだ!」
    「ふっ、し、ショックウェーブがゲーム作ってるなんて、よ、予想外すぎる、あははははは!」
     サンダークラッカーは普段の落ち着いた態度が嘘のように声を上げてひたすら笑い続けた。だから違うと言っているのに、とショックウェーブは居心地の悪い思いを抱く。やはり見せなければ良かった。
    「何がそんなにおかしいのか……まったく」
    「わ、悪い、なんかツボに入って、くくっ」
     サンダークラッカーは何とか笑いを堪えると、オプティックの端に滲んだ冷却液を拭った。
    「お前に頼んだのメガトロン様だろ? そりゃ断れないよな」
     ショックウェーブは一瞬言葉に詰まる。
    「……なぜ分かった?」
     メガトロンが暇潰しに遊べるゲームを作れとショックウェーブに時々要請することを知っているのはそれこそ長い付き合いのサウンドウェーブくらいのものだろう。そしてメガトロンは勿論まさかあのサウンドウェーブが情報を漏らすわけがないのだが。
    「お前にこんなこと頼める勇者メガトロン様以外にいるか?」
    「……なるほど。いないな」
     そのことを失念して余計なことを言ってしまったようだ。メガトロンにこのことが露見しなければいいが、とショックウェーブが考えていると、サンダークラッカーが付け加える。
    「ついでに言うと、この前スタースクリームが発見してサボってたぜ。MEGAFUN'S」
    「…………あいつ……」
     はぁ、と深いため息をつく。あの男、どうしてそういう方面の勘だけは異様に鋭いのだろう。相当に見つけにくくしてあったはずだったのだが。と言うか、見つけたということはあそこのモニターを理由もなく二つも壊したことになるわけだがスタースクリームはどういうつもりだったのか。
    「あそこに置いてあったアーケードゲームも全部ショックウェーブ作?」
    「……だったら何だ」
    「あ、やっぱりそうなんだ」
     サンダークラッカーはくすりと笑う。
    「なんだ、お前も結構可愛いとこあるんじゃん」
    「馬鹿にしてるのか?」
    「違うって、本当に好感持ってる意味で言ってるんだって」
    「そうは見えない」
    「分かった謝るよ、笑って悪かった」
     そのときサンダークラッカーの個人通信回線にアクセスがある。サンダークラッカーは届いた文章を読むと慌てて立ち上がった。
    「おっと、スタースクリームに呼ばれてたの忘れてた。俺もう行くぜ、じゃあな!」
     サンダークラッカーはひらひらと手を振って『地図』の部屋を駆けて出て行く。ショックウェーブはそれを黙ったまま見送った。
    「……やっと静かになったか」
     やれやれと思いながら零した独り言に、ショックウェーブはふと引っかかりを感じる。
     ――静か?
     ショックウェーブは首を傾げる。今までそんなことを考えたことがあっただろうか。ショックウェーブは聴覚センサーにブレインサーキットの処理を集中させる。しんと静まり返った遺跡。墓場とも表現出来るそこは、何処までも静かだ。
     そうか、今私は独りなのだな、とショックウェーブは何故か当たり前の事実を改めて認識していた。
     ラボに篭り、ショックウェーブはなおも水の惑星について半ば取り憑かれたように調査を進めていた。
     水の惑星には、金属生命体であるショックウェーブ達サイバトロニアンとは違う炭素で形成された生命体がおびただしい数生息しているようだった。その組成は貧弱で、たった1メガサイクルでさえも生き続けることのできない生物がほとんどだが、ショックウェーブはその『貧弱』なはずの炭素生命体の中には驚くべきパワーを秘めた種も存在することを知った。巨大で、大きな顎や鋭い牙を持つ、恐るべき種族だった。
     これまでもショックウェーブはディセプティコンの兵力強化のための研究を行なってきた。数えきれない数の必要ないオートボットの捕虜を分解しパーツの組み合わせを換えて、新しいサイバトロニアンを誕生させるのもその一環だった。たとえばバックパック以外に弱点の存在しないブルートや凄まじい破壊力を持つリーパーなどはその過程で誕生した。もちろんオートボットであった頃のことを思い出されては困るので、セレブラルサーキットのメモリーコアを破壊して、ショックウェーブがプログラミングをした『新しい人格』を据えておいた。そして現時点で目立った問題は発生していない。オートボットですら、彼らがかつての同胞であることに気付かないまま彼らを殺しているだろう。
     ショックウェーブはこの巨大で粗暴な炭素形成の生物を兵力として利用したいと考えた。リーパーなど目ではない、素晴らしい戦士を作り出すことができるだろう。名前は、そう、恐るべきロボット――ダイノボットとでもつけようか。何もかもを破壊するほどの力を持つ新しい戦力のことを想像すると、ショックウェーブはほんの少しだけ高揚を感じる。ほとんど感情の起伏を持つことのできないショックウェーブが、感情と呼べるような思いを抱くことができる唯一の瞬間だ。そしてショックウェーブは時々、自分を実験に駆り立てる原因はまさしくこれなのではないかと考えることもあった。
     ショックウェーブはそんなことを考えながら、特殊な装置で入手した炭素生命体の二重らせん構造の組成情報をサイバトロニアンのソースコードに変換していた。そのとき突然、ショックウェーブのラボに突然アラートが鳴り響いた。
    『警報! 警報! 錆の海、例の遺跡に侵入者あり。至急増援を求む!』
     続いて響いた放送を傍受しながら、ショックウェーブは監視カメラの映像を自分の端末に表示する。
    「こいつらは……」
     侵入者には見覚えがあった。
     ライトニング・ストライク・コーリションだか何だか言う長ったらしいチーム名のオートボットだ。だがそんなことはどうでもいい。肝心なのは、彼らがオートボットの中でもかなり頑強で強力なパワーを持っているということだ。特に、リーダーのグリムロック。彼の手にかかり、数多のディセプティコンがそのスパークを散らしてきた。
    「ああ、本当にいいタイミングで来てくれたな……」
     彼らほど、テストサブジェクトとして相応しい者たちはいないだろう。
     ショックウェーブは立ち上がって、スクラップをバリバリとかじっていたインセクティコンたちに声を掛けた。
    「ハードシェル、シャープショット、キックバック。他のインセクティコン達を呼んでくれ」
    「え? いいけど」
    「なんで? あいつら食べていいの?」
    「雑魚はお前達がどうしようと構わんが、グリムロック達は壊さずに捕らえろ。それさえ守れば他は何も言わない」
    「やったやった! 新鮮な餌が食べれる!」
     いつ見てもインセクティコン達の食欲には驚嘆させられる。恐らく地下生活では、地表のサイバトロニアンと性質を分ける何かがあるのだろう。今度二、三匹解剖してそのあたりを調べてみてもいいかもしれない。
     そしてショックウェーブはインセクティコンの群れを連れてグリムロック達の捕獲に向かった。




    「ああ、また来たんだな。サンダークラッカー」
    「…………」
    「今回は少し折が悪かった、というべきかもしれないが」
     サンダークラッカーは何も言わなかった。身じろぎ一つせず、目の前に広がる光景をただ呆然と見つめていた。
     遠くからオートボットの絶叫が響く。
     ――く、来るな、来るな来るな来るなぁああああ!
     ――ひもじい、ひもじいんだよ。お前、うまそうだな……。
     ――やめろ、やめ……ぎゃああああああああああ!!
     そんな絶命の声がそこらじゅうで上がっている。いつもは本当にしんとしていて、物音ひとつしないのに、今は随分と賑やかだった。
    「…………なにが……あったんだ?」
     サンダークラッカーはようやく言葉を思い出したかのように、ショックウェーブに震える声で尋ねる。
    「どこから情報が漏れたかわからないが、オートボットにエネルゴンの存在がバレたようだな。幸い、彼らはオプティマス・プライムにはそのことを告げていないらしい。だから侵入した連中を殲滅している」
    「……いや、そうじゃなくて……」
     そのとき天井の辺りをインセクティコンが一匹飛んでいった。くわえていたオートボットからパーツが取れてサンダークラッカーの傍に落下する。その瞬間サンダークラッカーは飛び上がってそれから離れて、後ずさった際に元々はオートボットだったスクラップを踏んづけてバランスを崩して転んだ。サンダークラッカーはよろめきながら立ち上がって、柱の一つに手をつく。
    「こ、こんな……ここまでする必要、あるのか……?」
     サンダークラッカーは、信じられない、という表情でショックウェーブを見つめる。ショックウェーブは首を傾げた。
    「何故だ? 一体でも生きてここから戻ったらオートボットにエネルギー資源があることが知れてしまうだろう」
    「そうじゃなくてッ!! いくらなんでも生きたままペットの餌にすることはねえだろ!?」
    「別に私はそんな指示は出していない」
    「止めてないんだから同じ事だろ!!」
     サンダークラッカーがこうも声を荒げるのを聞くのは初めてだった。
    「だが結果は同じだろう? どのみちあいつらには死んでもらうしかない。お前達がオートボットを撃ち殺すのと何が違うんだ?」
     サンダークラッカーはふらふらとショックウェーブから距離を取るように後ろに下がった。
    「お前……それ、本気で言ってるのか?」
    「ああ」
    「あれ聞いても、何とも思わないのか? 敵とはいえ同じサイバトロニアンがそこで生きたまま食われてても、お前は何も感じないのか?」
    「ああ」
     淀みなく肯定する。サンダークラッカーは今度こそ絶句した。
     そのとき、グリムロック達の捕獲に向かっていたキックバックがひょっこりと現れた。
    「どうした、キックバック」
    「大体うまくいったぜ、ショックウェーブ! でもごめん、一匹やりすぎてステイシスモードになっちゃった」
    「……キックバック」
    「ごめんって言ってるじゃん! でも他の奴らはしぶといからまだ動いてるぜー」
    「逃げそうか?」
    「どうだろ? グリムロックだったらあの状態でも逃げるかも、かも」
    「なら手足のパーツを外しておけ。後で繋げるからなくすなよ」
    「了解了解!」
     キックバックは地面を強く蹴って飛ぶとそのまま去っていった。それを見送ってからショックウェーブは振り返ってため息を付いた。
    「……お前も私が狂っていると思うか?」
     サンダークラッカーのような者が、今までいないわけではなかった。でも結局、ショックウェーブの行為を目の当たりにして遅かれ早かれ去っていく。ずっとその繰り返しだった。
     だから本当は尋ねなくても彼が何と言うかはわかっていたのだ。
     サンダークラッカーはゆっくりと口を開く。
    「……さっきの違いが、本当にわからないなら。やっぱりお前はおかしいよ」
    「そうか」
     それからサンダークラッカーは逃げるように出口の方へと駆けていく。ショックウェーブは彼を追わず、ただその背中を見ていた。
    「……私だって好きでわからないわけじゃないんだがな」
     ぽつりと独り言をこぼして、ショックウェーブはそこら中に散らばっているスクラップを眺める。それでも何の感情も浮かんでこない。どんなに理解しようとしても、感情も気持ちも心もショックウェーブにはわからない。死ぬことへの恐怖すら彼は持っていない。だから、テストサブジェクト達が命乞いをする度に不思議に思った。何がそう怖いのだろう。ただ永遠にオフラインになるだけだというのに。今も不思議だった。単なる敵の殺し方でサンダークラッカーは何をそうムキになるのだろう。わからないということは、きっと理屈ではない、ショックウェーブ以外のサイバトロニアンが当然のように持っている心や感情に関する何かがそこにあるのだろう。そしてそうである限りショックウェーブには一生かかっても理解することはできないのだ。
     サンダークラッカーはその日から遺跡に現れなくなった。当然そうなるだろうと予想していたのでショックウェーブは特に驚くことはなかった。元々来るような用事だって彼にはなかったのだ、むしろこれがあるべき状態であるとさえ言える。
     サンダークラッカーは元々がオートボット側で、更に言うならスタースクリームのようにオートボットに嫌気が差してディセプティコンに加わったわけではない。彼の感性や考え方はむしろオートボットの方に近く、無闇に他者を傷付けたり殺したりすることに抵抗があるようだった。だから科学者であることを理由にしてあまり前線にも出ようとしなかった。そんなサンダークラッカーが、インセクティコンのやることを目の当たりにすればショックを受けるのも当然だろう。
     ショックウェーブが水の惑星で見つけた生命体の組成情報は、美しい二重らせんの構造を持っていた。そして、たった四つの単位構造の物質の組み合わせでサイバトロニアンの機体ソースコードのような複雑な情報をさえ表現するのだ。こんなやり方もあるのだな、と思いながらサイバトロンの言語に合わせて情報を丁寧に翻訳する。そして、ダイノボット達の改造もそれに合わせて進めていった。
     スラージがステイシスモードになってしまったのは実に残念だ。彼のために用意したオルトフォームのアイディアはお蔵入りにするしかない。いつか機会があれば使いたいものだ。ショックウェーブはラボにいる間はそうやってただ実験のことだけを考えていたが、『地図』の部屋に入るとふとサンダークラッカーのことを思い出すのだった。
     サンダークラッカーはいつも螺旋階段の中腹に座り込んでぼんやりと星の輝きを眺めていた。そしてショックウェーブが来たのに気付くと、宇宙空間を見上げるのをやめてショックウェーブに笑いかけた。そして取留めのない話をショックウェーブにして、気が済んだらひらひら手を振って去っていく。サンダークラッカーがしていくことと言ったら本当にただそれだけだったのに、何故この空間を訪れる度に自分は彼の笑顔を思い出すのか、ショックウェーブは我ながら不思議だった。
     しかし、何度『地図』の部屋を訪れてもそこにサンダークラッカーが座っていることはなかった。


     メガトロンが死んだ。そしてその後をスタースクリームが引き継ぐことになったが、正直言って先行きは不安である。スタースクリームはようやく軍団のリーダーになれたのがよほど嬉しいのか毎日浮かれているようだ、錆の海にいるショックウェーブのもとにすらスタースクリームに対して呆れる声は大量に届いてきていた。
     メガトロンの死に対してもショックウェーブには特に感慨はない。メガトロンはディセプティコンでは最も指導者に相応しい能力と人格を持っている、と判断したから彼に従っていたにすぎないのだ。メガトロンに心酔していたサウンドウェーブとは違う。だから、まあ、たとえトップがスタースクリームに代わったところでショックウェーブにそれほど変化があるわけではなかった。もっとも、ショックウェーブの星を出る計画に理解を示さないのだけは困った。この男ではやはり駄目かもしれないなと思い始める始末だった。
     だからサウンドウェーブから、メガトロンが再生したと連絡が来たときは正直ほっとした。最近ずっとスクラップを集めていたかと思えば、メガトロンのばらばらになったパーツを探していたようだ。メガトロンもこれほどの忠臣を持つことができたのは幸いだろう。
     スタースクリームは蘇ったメガトロンに戦いを挑んで破れ、そのまま逃げて行方がわからなくなったそうだ。ならばきっとサンダークラッカーも彼についていったのだろう、とショックウェーブは思った。誕生した時からほとんどの時をすぐ傍で過ごしてきたと言ったサンダークラッカー。きっとこれからもそうなのだ。
     だから、特に何も思わず入った『地図』の部屋でうずくまった空色の機体を視界に捉えたとき、ショックウェーブは非常に大きな驚きを感じたのだった。
     かつてと同じように螺旋階段の中腹に座り込んでいるサンダークラッカーは、しかし以前とは違い膝を抱えて顔を伏せていた。
    「サンダークラッカー?」
     ショックウェーブが声をかけても、身動き一つしない。ショックウェーブは戸惑いを感じながらサンダークラッカーに近付いて、もう一度声を掛けた。
    「おい、サンダークラッカー」
    「…………」
     サンダークラッカーはようやくのろのろと顔を上げてショックウェーブを見た。今にも泣き出しそうな表情をしているのでショックウェーブは再び驚いた。
    「何があった?」
    「……スタースクリームが……」
     サンダークラッカーはそこで言葉に詰まって、もう一度顔を伏せて震える声で言う。
    「スタースクリームに置いてかれちまった……」
    「……どういうことだ?」
     ショックウェーブはサンダークラッカーの隣に腰掛けて尋ねる。サンダークラッカーはなかなか答えない。感情を抑えるのでいっぱいっぱいなのだろう。
    「……スタースクリームがメガトロン様を裏切って逃げるときに、俺もあいつと一緒に行くって言ったんだ。でもあいつは『お前は来なくていい、俺一人で十分だ』って……」
    「事情はわかったが、だったら何故ここに来た?」
    「わかんね……どうしたらいいかわかんなくなって、そしたらよくわかんないけどここのことを思い出して」
     それを聞いたショックウェーブまでもが混乱してしまう。その状況で、何故あんな別れ方をした自分のいるこの場所をサンダークラッカーは選んだのだろう。
     そしてサンダークラッカーはとうとう堪えきれなくなったのか声を殺して泣き始める。ショックウェーブはこんなときどうすればいいのかさっぱり思いつかず途方に暮れた。
    「わかってたんだ……俺にはあいつがいなきゃ駄目だけど、あいつはそうじゃないって、わかってた……」
    「泣くな、サンダークラッカー」
     慰めや励ましの概念がないショックウェーブには取るべき行動がわからない。仕方なくいつか誰かがやっていたのの見よう見まねでサンダークラッカーの肩にそっと手を置いてみる。するとサンダークラッカーは何も言わずにショックウェーブの機体にしがみつくように抱きついたのでまたショックウェーブは驚くはめになった。何だか今日はサンダークラッカーには驚かされてばかりだ。
    「なんでだよ。ちくしょう。俺にはスタースクリームが必要なのに……スタースクリームがいないと駄目なのに……なんで? どうしてだ」
     すすり泣きながら、サンダークラッカーは何度も何度もスタースクリームの名前を口にする。ショックウェーブは、サンダークラッカーに泣かれると何だか居心地の悪いような据わりの悪いのようなよくわからない気持ちになることに初めて気がついた。
     サンダークラッカーのオプティックからは後から後から涙が溢れる。それを止める術をショックウェーブは知らない。そしてその原因は、サンダークラッカーがここまで強い執着を見せている相手はスタースクリームなのだと思うと、形容しがたい何かがスパークをよぎる。ショックウェーブは戸惑った。こんなことは初めてだった。
     その日サンダークラッカーは泣き止むまでずっとショックウェーブから離れようとはしなかった。
     スタースクリームは裏切り者の反逆者だったが、それでもメガトロンは奴を見つけたら即刻捕らえて持って来いと言うだけで、破壊しろという指示は出さなかった。どうもあの破壊大帝はスタースクリームに対して甘すぎると思わざるをえないが、メガトロンがそうしたいのならばそうすればいいだろう。ショックウェーブには関係ない。
     サンダークラッカーとスカイワープは、メガトロンに許可を取ってスタースクリーム捜索班に加わることにしたようだ。自然ネメシスプロジェクトの責任者からもサンダークラッカーは降りることになり、代わりにサウンドウェーブと共に先頭に立って計画を進めた。サウンドウェーブは非常に優秀な情報参謀であり、トリプティコンに関する必要な情報も既にサンダークラッカーから入手している。だから問題など何もなかった。メガトロン達がオートボットからトリプティコンを取り返した後は、コンストラクティコンの尽力もあって戦艦ネメシスは急ピッチで製造が進み、ついにいつでも宇宙へと飛び立つことが出来る状態になった。
     ネメシスがあの水の惑星に無事たどり着けば、戦争が終結しサイバトロン星が救われる可能性は極めて高い。そしてショックウェーブの計算では失敗の確率は小数点以下でほとんどないに等しかった。
     だから、たとえ自分がそれを見届けることができなくても、それほど後悔はない。
    「君のように強力な存在を作り上げた私が、それを支配する方法も持つものとは考えなかったのか?」
     脱走したグリムロックは、ディセプティコン兵達やインセクティコン達をことごとく蹴散らしながら、塔のショックウェーブがいる場所までついにやってきた。だが、なんと予想通りの行動だろう。そんなことを考えながら拘束装置に囚われたグリムロックを眺め、それからコンソールに視線を戻した。
    「さあ、そこで大人しいペットみたいに座っててくれるか。その間に私は仕事を終わらせる。メガトロン、ポータルは無事にターゲットの世界に開きました。ポータルの状態は安定していて……」
     ばちり、と音がした。思わずスペースブリッジの報告を途中で止め、ショックウェーブは振り返る。
    「グリムロック、支配できるやつ、いない!」
     絶対に破ることはできないはずの拘束装置を引きちぎったグリムロックは、床に手をつきショックウェーブの目の前でトランスフォームする。
    「馬鹿な……!」
     ショックウェーブは、驚愕しながら巨大なトランスフォーマーを見上げる。ありえない。現在のグリムロックの設計を行ったのはショックウェーブだ、だからこそ彼の出し得る力も把握した上であの装置の設計を行ったのに。
     グリムロックは牙の間からちらちらと炎を覗かせながら、ショックウェーブを強く睨んだ。
    「貴様もこれで終わりだ、ショックウェーブ!!」
     咄嗟に自身をかばうように出した左腕にグリムロックは噛み付き、そのまま腕を引きちぎった。激痛が走り、関節部がショートする。そしてそれだけでは終わらない。グリムロックはショックウェーブの腕を噛み砕くと、勢いをつけて尻尾をぐるりと回し、そのまま尻尾をショックウェーブの機体へと思いっきり叩きつけた。凄まじい衝撃が機体を走り、一瞬で90%以上の機能がダウンした。警告音と共にアイセンサーに警告のメッセージが表示される。ショックウェーブは吹き飛ばされた勢いそのままに塔の足場から放り出された。ショックウェーブのオルトフォームは飛行型だ、トランスフォームさえできれば落下の衝撃でスクラップになることは避けられる。だが、それがわかっているのに指先一つ動かせない。この高さで落ちればどうあがいても助からないなとショックウェーブは思った。仮に万が一オフラインになることを避けられても、この周辺はインセクティコンの巣窟だ。彼らがスクラップ同然のショックウェーブを前にして食事をせずにいられるわけがない。ペットに餌をやっていた自分がペットの餌になるとは何とも皮肉な結末だ。
     かつてサンダークラッカーは、彼らがインセクティコンに生きたまま食われていても何とも思わないのかとショックウェーブに聞いた。今、自分がその立場に置かれた状況ですら、ショックウェーブはそれに対して淀みなく肯定できる。自分がバリバリと装甲を齧られ、中のバイタルケーブルを噛み千切られるさまを想像してみても、ショックウェーブは何も感じないのだ。自分はそういう性質を持って生まれてきてしまった。暖かい友情とも、穏やかな愛情とも、すべて無縁の存在として、スパークをこの機体に受けてしまった。何故プライマスはショックウェーブだけにそんな生き方を強いたのだろう。たまに考えることもあったが、長い時を生きるうちにどうでもよくなった。
     たとえここで自分のスパークの灯火が消えたとしてもショックウェーブに心残りはない。それに、きっとショックウェーブが死んだところで困る者もいない。悲しむ者もいない。メガトロンにはサウンドウェーブがいる。彼さえいれば、大抵のことはどうにかなる。
    「どうせオフラインになるなら、苦痛の少ないうちになってしまうか」
     地面にたたきつけられるのも、インセクティコンに食われるのもどちらも痛みを伴うだろう。どうせ結果が同じなら、今すぐ死んだところで何も変わらない。ショックウェーブはブレインサーキットにシャットダウンを命じる。すべての機能を停止状態にすれば、ただオールスパークに還るその瞬間を待つだけだった。



     ぽたり。
     液体が落ちる感覚。
     小さな粒は、ぽたぽたと何度も落ちては、機体を伝って流れていく。
     なんだろう、これは?
     ほとんど停止状態のサーキットがかすかな思考の流れを作るが、著しくエネルギー残存量の低い状態で再起動するのは面倒だった。ショックウェーブは無視して再びオフラインに戻ろうとしたが、どこからか第三者のアクセスがあってそれを阻止した。
     これは誰だ?
     シャットダウンしたはずなのに、意識があるのはこの第三者の仕業らしい。どこかから繋がったコードから、この誰かは懸命にショックウェーブのブレインサーキットに向かって再起動の命令を出している。何故だろう。アクセスを完全に拒否することも可能だったが、純粋に興味をいだいて、その誰かの命令を受け入れた。
    「……っ、ショックウェーブ!!」
     オプティカルサーキットがオンラインに戻った時。
     目の前には、ぼろぼろと涙をこぼしているサンダークラッカーがいた。
    「……サンダー、クラッカー」
    「よ、よかった……生きてる……っ」
     サンダークラッカーは泣きながらショックウェーブを抱きしめた。さっきから落ちていた液体は、彼の涙だったのだとショックウェーブは気がついた。何故泣いているのかは、よくわからないが。それに状況もつかめない。
    「……何故、お前が?」
    「俺、スタースクリームがお前んとこの塔に現れたって聞いて、様子見に来て……そしたら、お、お前がグリムロックにやられて落ちてくの見て……!」
    「……そうか」
     サンダークラッカーが泣いているのを見るのは二度目だなとショックウェーブは思う。そして奇妙なのは、彼が前回見た時よりも大きく動揺して大粒の涙を零していることだった。スタースクリームが見つかったなら、彼は喜ぶものだと思っていた。
    「何故泣いてるんだ?」
     純粋に不思議に思ってショックウェーブが尋ねると、サンダークラッカーは何を馬鹿なことをと言いたげにショックウェーブを涙でいっぱいの目で睨んだ。
    「お前が死んじゃったんじゃないかって思ったからだろ……!」
     それを聞いた瞬間、ショックウェーブは本当に心の底から驚いた。言葉に詰まってから、ショックウェーブはようやく問いの文章をブレインサーキット内に形成することができた。
    「何故……私が死んで泣く?」
    「知らねえよ! だって、お前が死ぬかと思ったら、すごく怖かった……ほんとうに怖かったんだ……っ」
     サンダークラッカーは痛いほどにショックウェーブを抱きしめたままただただ泣き続けた。あたたかい液体がショックウェーブの機体に落ちて流れていく。そしてショックウェーブはサンダークラッカーの機熱を感じながら、されるがままになっている。
     いつか抱いた疑問がよみがえる。
     そうまでして他者に執着する合理的な理由が一体どこにあるというのだ? ショックウェーブにはサイバトロン星が滅びる日がきたとしてもそれを実行し得る理由を見つけることは出来ないだろう。
     これまでも、これからも、何処まで行ってもサンダークラッカーはショックウェーブには理解できない存在だった。
    「……泣くな、サンダークラッカー」
     けれどショックウェーブは、ある一つの思いを抱いていた。どこを探しても論理的理由が存在しないにもかかわらず、彼の泣き顔は見たくないと感じた。
    「どうか泣かないでくれ」
     半ば懇願するように声を掛けても、サンダークラッカーはふるふると首を振って涙を流し続ける。ショックウェーブはその涙を拭ってやりたかった。残った右腕を動かそうとするが、ほとんど機能を停止している機体はいうことを聞いてくれない。
     ショックウェーブにできることは、彼の様子をただ見つめて泣き止んでくれるのを待つことだけだった。

    (nextあとがき→)
    一方その頃スカイワープはショックウェーブの塔で気絶中のスタスクを発見しているのだった!(政宗)

    ショックウェーブは行動がまさに外道な上にセリフが理系すぎて文系人間には書くのすごい難しかったですが愛だけは込めました!!マッドサイエンティスト大好きだ!!!!
    FOCにはサンダークラッカーは出て来ないですが、時系列的に繋がってるらしいプライムのサンクラのプロフィールにはショックウェーブのことが書いてあるんですよね!「メガトロンやショックウェーブの行為には納得できない事もある」みたいな感じですけどw
    サンクラがスタスク大好きなのは私の趣味ですが、メガ様についていけないのにデ軍にいるのは、スタスクがいるからじゃないかなぁと妄想してます。あの三人のWFCでの仲良しっぷりもあるし!WFCジェットロンの仲良しっぷりをFOCでも見たかった…!
    人情や道徳が一切無いとかプロフに書かれてるショックウェーブですが、そんな冷血漢な鬼畜参謀がサンクラに絆されてく様を想像するだけで私は幸せです。ここまで読んでくださってどうもありがとうございました!!(2012年12月17日)
    小雨 Link Message Mute
    2018/06/15 21:56:33

    【TF:FOC】Nonsense

    #TF腐向け #小説
    Fall of Cybertronのショックウェーブ×サンクラ。科学参謀衝撃波さんとデ軍科学者サンクラが話したらきっとこうなるはず!という妄想の塊。前半ほのぼの、後半暗め。FoCのショックウェーブの鬼畜っぷりが大好きです

    more...
    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    NG
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品