【初代TF】雷でテンションが上がるデストロン軍団の話「メガトロン様! たいへんです!」
ここはデストロンの海底基地。今日も今日とて地球のエネルギーを強奪するために悪巧みをするデストロン軍団のリーダーメガトロンのもとに、扉を勢い良く開いて一体のジェットロンが駆け込んできた。
メガトロンは驚いてそちらに目を向け、そしてそれが赤白水色のカラーリングの機体であることを確認した途端渋い顔になる。
「なんだスタースクリーム。またしょうもないことを言い出すんじゃあるまいな」
「何を言いやがるんですかメガトロン様、私がしょうもないことをいつあなたに言ったというんです!?」
スタースクリームがそう言った途端、そばにいたスラストとブリッツウィングが小声で「いつもだよなあ……」と話していたが、スタースクリームは聞いていない。
「まあよい、とにかく言ってみろ。どうしたというんだ」
「聞いておどろけですよ! 今日は雷です、嵐なんですよ! こいつぁー一大事じゃねえですか!」
「……」
メガトロンは無言でスタースクリームを見つめた後、後ろに控えていたサウンドウェーブの方を振り返った。
「レーザーウェーブがエネルゴンキューブを送って欲しいと言っておったな。スペースブリッジの準備をしよう」
「はい、メガトロン様」
「待った、最後まで聞いてくださいよ!」
スタースクリームは心外そうにメガトロンに詰め寄るが、メガトロンは「雷がなんだと言うんだこの愚か者! ここは海底なんだから波の影響もないだろうが!」と一喝するだけである。そのとき、遅れてやってきた残りのジェットロン二羽もスタースクリームの後ろからひょこっと顔を出した。
「メガトロン様、今日は基地の上を飛び回りたいんですがいいですか!?」
「ハリケーン! ハリケーン! 風が強くて飛びがいあるだろうなあ!」
サンダークラッカーも相当だが、もはやスカイワープのテンションは、台風が来る前日の子どものそれだった。まるで人間で言うところの小学生のようにわくわくしている同型戦闘機三機にメガトロンは呆れた。
「お前たち、ピクニックに行くのとはわけが違うんだぞ。わしらは遊ぶために地球にいるわけではないだろうが!」
「ええーいいじゃねえですかよぉー。それにただ遊ぶわけじゃないんですぜ、ほら雷なんか純粋なエネルギーの塊! エネルゴンキューブにうまく詰め込めたら儲けモンですよ」
「そうそう! たまにはスタースクリームもいいこと言うぜ」
「たまにってなんだよスカイワープ!」
スタースクリームはスカイワープを睨むが、今はそれには構う気はないらしい。三機揃って「いいじゃねえですかよ! ねえ!」と詰め寄られて、メガトロンは「わぁかったわかった!」とついに折れる。
「確かに低気圧の生み出すエネルギーも貴重だな……ただし、遊ぶのはエネルギー確保をしてからだ、それを忘れるでないぞ」
「わーかってますって!」
スタースクリームはにやっと笑って、水色と紫の同型機と手を上と下でぱしりと二回合わせた。
「やったぜベイビー!」
「なあなあキャッチボールしようぜ。俺いいボール手に入れたからよう」
「お、いつもより難易度高そうで楽しそうだな」
キャッチボールが好きなスカイワープに付き合っているうちに、サンダークラッカーたちもキャッチボールにハマりはじめている。そういうわけで雨の中でも三機は遊ぶ気満々だった。
「だから遊びに行くのではないぞ!! 愚か者め!」
「はいはいわかってますよ!」
見かねたメガトロンが釘を刺すが、どこまで聞いているものだか怪しい限りである。メガトロンは頭を抱えて、サウンドウェーブに声をかける。
「まったくあいつらは本当に……サウンドウェーブ、エネルゴンキューブの用意だ」
「了解、メガトロン様」
海底基地から飛び出した一部のデストロン軍団。空は既に真っ黒な雲で覆われていて、風はかなり強くなっている。雨が降り出し、雷が鳴るのも時間の問題だろう。
今回雨の中嵐のエネルギー収集作戦に乗り出したのは、メガトロンとサウンドウェーブを除いて、やはりお祭り騒ぎが好きな面々が多かった。スタースクリーム率いるジェットロン三人組はもちろんいるし、フレンジーとブリッツウィングも参加している。アストロトレインやスラストたちは、そもそも雨に濡れるのが嫌らしくて丁重に断っていた。メガトロンも今回はスタースクリームに押し切られる形での作戦ということもあって、嫌がるメンバーには強制はしていない。
ちなみにメガトロンは、ちゃんとキューブ作成をするか見張るために外に出てきている……というのは言い訳で、本当はハメを外した愚か者がマズイことにならないか心配で参加している。しかしサウンドウェーブは、キューブの容器を要領よく配るために仕方なく参加したのだった。彼はメガトロンに頼まれるとどうしても断る気になれないのだ。
「おーっし! 今日の主役はお前だぜサンダークラッカー!」
「そうだな! なにせお前はサンダークラッカーだからなぁ!」
既にテンションの高いスタースクリームとスカイワープ。そして名前が名前だけに、雷にはちょっとした特別な思いのあるサンダークラッカーは、そう言われてなんだか嬉しそうにしていた。
「ありがとよ! じゃあ俺頑張って雷のエネルギーをキューブに納めてみせるぜっ」
サンダークラッカーはぐっと親指を立てていい笑顔を二人に向ける。そしてトランスフォームすると分厚い雲の方にまっすぐ飛んでいった。スタースクリームとスカイワープもトランスフォームして後を追う。
そんなことをしているうちに、やがてデストロン軍団の機体を大粒の雨がぽつぽつと叩き始め、すぐに土砂降りに変わった。風が強いので、フレンジーはサウンドウェーブに捕まって飛ばされないようにする。
「ひえー、すげえなあ」
「大丈夫なのか」
「このフレンジーさまをなめんなよ、これくらい屁でもねえや!」
そうはいうもののフレンジーはちょっと不安そうな声で言う。サイズ的に、サウンドウェーブたちと比べると風に飛ばされやすいことが予想されるからだろうか。
「無理はするな」
「おう」
そんな会話をしているとき、サウンドウェーブたちの背後でガツンという音がした。鉄板の上に鉄球を落としたような重い音だ、何事かとメガトロンを含める三人は振り返る。
「いってえええええええ! なんだこれ!?」
どうもブリッツウィングの肩に何かがおもいっきりぶち当たった音らしく、ブリッツウィングは肩を押さえつつ落ちてきたものを何とかキャッチする。
「いっけね落としちまった!」
雲の合間から黒と紫のF-15が飛び出してきて、後から水色、白と赤の戦闘機が続き「なぁにやってんだよ、バカワープ!」と罵声を浴びせた。
「海に落としちまったらもう拾えねえだろーが!」
「うっせーなあ! ありゃ俺のだぜ、なくしたっててめえらにゃ関係ねえだろ」
「んー、まあそれもそうだな」
戦闘機状態でどのようにやっていたかは謎だが、キャッチボールをしていたようだ。ブリッツウィングは三機をぎろりと睨んで、球状の鉄の塊を投げ返す。
「お前らのしわざか!! 俺の肩がへこんじまったじゃねえかよ! どう落とし前付けてくれんだよ!」
「おーお前が拾ってくれたのか、サンキュー」
スカイワープは嬉しそうにトランスフォームしてそれを受け取った。
「拾ったんじゃねえ、ぶつけられたんだ!」
「だってよスタースクリーム、お前が投げた球だろ責任取れよ」
サンダークラッカーはニヤニヤしながらスタースクリームを困らせようとするが、スタースクリームは不敵な笑みで一蹴した。
「お断りだ、あんなもん避けられないほうが悪い」
「んだとこいつぅ!?」
ブリッツウィングはトランスフォームしてスタースクリームに向かってレーザー砲を不意打ちで撃ち始めるが、それも予測済みだったのかスタースクリームはひょいひょいとレーザーを避けて空を飛び回る。
「そーらブリッツウィングさんよぉ、悔しかったら当ててみやがれー!」
「待てスタースクリーム!!」
「こらお前たち!! エネルギーを集めに来たのにエネルギーを無駄遣いするやつがあるか!!」
メガトロンの注意も届かない上空に二機は全速力で飛んでいってしまった。
「メガトロン様……こんな調子で大丈夫なのか」
見かねたサウンドウェーブが声をかけると、メガトロンは深い溜息をついて、疲れたように首を振った。
「わしが愚かだった……馬鹿なジェッツどもの言うことを聞いたわしがな。とにかく、わしとお前だけでも少しエネルゴンキューブを作ってとっとと戻るぞ」
「了解」
メガトロンの願いが天に届いたからかどうかは定かではないが、激しい雨に混じって聴覚センサーをつんざくような雷の音が辺りに響き渡った。ようやく嵐が本格的に海底基地の上に到来したらしい。サウンドウェーブはキューブの容器を生成するとメガトロンにひとつ渡す。
「おー雷が鳴ったぜ! サンダー! サンダークラッカー!」
「サンダークラッカーだなあ!」
スカイワープとサンダークラッカーが今日で一番のはしゃぎようを見せている。もう一度言う。お前らは小学生か。しかしそんなメガトロンの心の声はジェットロンたちには届かない。
それでもサンダークラッカーはしまっていた容器を外に出すと雷に向かって突っ込んでいったので、一応自分の役割は忘れていなかった。未だにブリッツウィングと鬼ごっこをしているスタースクリームも彼を見習って欲しいところだ。
「雷ですメガトロン様! ダイノボットアイランドのあの日を思い出しますなぁ!」
空からスタースクリームがメガトロンに向かって叫んでいる。スタースクリームの皮肉交じりの声にメガトロンは嫌な顔をした。
「過ぎたことだ! いいからとっととエネルギーを集めんか!」
「はいはい……、うおわあああっ!」
「な、何だどうした」
「か、雷が、びっくりしたぜっ」
雲の合間から帯電しているスタースクリームが飛び出してきた。ちなみにまだブリッツウィングに追跡されている。雷に打たれたらしいスタースクリームは、しかしタイムトラベルしたときのサイバトロンのように元気いっぱいになっている。
「諦めなブリッツウィング、今の俺様にはエネルギー的な意味で勝てっこないぜ」
「ちくしょぉ! お前なんか雷に打たれまくってパンクして爆発しちまえ!」
何でもかんでも爆発するトランスフォーマーの世界でその言葉は大変不吉なものであったが、スタースクリームは聞いちゃいなかった。いつも都合のいい言葉しかこの白い羽の戦闘機の聴覚センサーは拾わないのだ。
「ていうか今ならメガトロンも倒せるんじゃねえ?」
「おい、何を言い出すんだお前は」
「コンドル、イジェクト!」
咄嗟にサウンドウェーブが前に出て、カセットを一つ胸部から放った。カセットはトランスフォームし、コンドルとサウンドウェーブがメガトロンとスタースクリームの間に立ちはだかる。
「邪魔すんなよサウンドウェーブ! 今がチャンスだ、今日から破壊大帝の椅子は俺のものだぜ!」
「この愚か者が……! 貴様ごときのへなへなレーザーでこのわしが倒せると思うのか!」
「やってみなきゃわかんねえだろ? 覚悟しろメガトロン!」
だが、そのときである。
どこからともなく飛んできた鉄骨がスタースクリームの機体に思いっきりぶち当たった。
「ぐわあああああああああああっ!?」
「いっけね落としちまった!」
スタースクリームはそのままふらふらと錐揉み回転しながら海に突っ込み派手に水しぶきを上げる。
「スカイワープまたてめえかあああああああああああああああっ!!」
ロボットモードに戻ったスタースクリームが海面から顔を出して怒鳴る。エネルゴンキューブを二、三個抱えたサンダークラッカーは腹を抱えて笑っていた。鉄骨に関してはサンダークラッカーはインカの遺跡でスタースクリームに恨みがあるのだ。
「ざまあみろ航空参謀! 俺の痛みを思い知ったか?」
更にもう一人、ゲラゲラ笑って他人の不幸の蜜の味を楽しんでいるブリッツウィング。その横でメガトロンは怒りを収めて呆れ顔になる。
「因果応報だ! そこで頭を冷やしておれ馬鹿者!」
「ちっくしょおおおおおおお!」
羽根を破損してしまったので、コンディションが不利になった以上メガトロンに挑むことができず、スタースクリームはものすごく悔しそうにナルビームをところ構わず撃ちまくった。
「やめろ。迷惑だ」
「うるせえぞサウンドウェーブ!!」
「仕方ない……コンドル、アイツを拾ってこい」
コンドルは突風の中でもまっすぐスタースクリームの方に飛んでいき、がしっとスタースクリームの機体を足で掴んだ。
「離せよ! 焼き鳥にされたいのか!」
「ちょうどいい、ついでに遠くの島に捨ててこさせよう」
「ええっ冗談でしょうメガトロン様! やめてくださいよ!」
「フハハハ喜べスタースクリーム、ガダルカナル島に再度バカンスだぞ。よかったな」
「よくねえですよ! 今捨てられたら帰って来られねえ!」
ギャーギャーと騒ぐスタースクリーム。それもそのはず、今の彼は翼が破損しただけでなく平衡感覚も少しやられているので、うまく飛ぶことができないのだ。
「達者でな」
メガトロンの横からサウンドウェーブも珍しく笑いを含んだ声で言う。どうせいつも通りサウンドウェーブが拗ねたスタースクリームを拾いに行かされるとわかっているので、今のうちにせいぜいからかっておこうという算段だ。
「この薄情者ぉ! 陰険サウンド!」
「よし。コンドル、宇宙の彼方に捨ててこい」
「あっウソです冗談です、あーもう放せよぉぉぉ!」
そのときである! スタースクリームの願いが天に届いたかは定かではないが、再び空が光った。
「うおわあああっ!!」
そしてまたもやスタースクリームに雷が直撃した。驚いたコンドルが反射的に運んでいた機体を放して、バッシャーンと海が水しぶきを上げる。
「ひゃははははははは何これ最高!」
フレンジーが指をさして笑い転げて、風に飛ばされかけたので、サウンドウェーブが腕を掴んで止めてやった。それでもまだ笑っている。あのメガトロンすら口元を押さえて肩のパーツを震わせているので、それも不可抗力だろう。
「ぶっ……お前の体を張ったコントに免じて、ふっ……くく、今日のところは貴様の裏切りも見逃してやろう、ふは、ふははははは!」
「そこまで笑ってんならこらえなくていいでしょうが! 馬鹿にしやがって!」
そのとき、空でスカイワープと遊んでいたサンダークラッカーがスタースクリームの方に急降下していく。そして何事かという顔でこっちを見るスタースクリームに向かって素敵な笑顔でぐっと親指を立てた。
「負けたぜ。そこまで雷に愛されるなんて。今日の主役はやっぱりお前だぜスタースクリーム!」
「何の話だよ!」
「まあ仕方ねーから拾ってやるよ、ほらリペアルーム行くぞ!」
サンダークラッカーはスタースクリームを拾い上げようとしたが、触れた場所からバチっと衝撃が走ってすぐに手を放してしまった。
「いてっ! なんだ今の? 電気?」
「なんだと?」
どうもスタースクリームの様子がおかしいことに気付くと、デストロン軍団は怪訝な顔でスタースクリームの周りに集まる。サウンドウェーブは冷静にスタースクリームの状態を分析して、全員に向かってこういった。
「先ほどの雷の影響で帯電している。かなり高濃度のエネルギーがコイツの中に」
「おおそうか、じゃあスタースクリームからエネルギーを抜き取ってエネルゴンキューブを作ってしまえ」
「何言い出すんですかメガトロン様!」
「それはキケンだ。スタースクリームのバッテリーは雷のエネルギーに耐えられない。このままでは爆発する」
「…………え?」
びゅうびゅうと吹き荒ぶ風の中、サウンドウェーブの声ははっきりと響き渡った。その場のデストロン軍団全員が固まる。そしてスタースクリームは顔から機熱がさーっと引くのを感じながら、聞き直した。
「爆発する? おれが? 本気で?」
「ウソではない。雷二発は、おまえの許容量を超えている。爆発まであと一分」
図らずもブリッツウィングの罵声が現実のものとなってしまった。全員のブレインサーキット内に、かつてコンドルが送ってきた映像がフラッシュバックした。瀕死のコンボイがコンドルの攻撃を受けて派手に爆発したあの光景が。
サウンドウェーブがきっぱりと言い切った瞬間、蜘蛛の子を散らすようにデストロン軍団はスタースクリームから逃げ始めた。
「ぎゃあああ逃げろ!」
「あばよスタースクリーム、お前のこと嫌いじゃなかったぜ!」
「スクラップは拾ってやるからよう!」
「待て! 誰か助けてくれ! コンボイみたいになりたくねえよおお!!」
死に物狂いのスタースクリームは何とか助けを求めようと、無理矢理空を飛ぼうとする。しかし、悲しいことにバランスが保てずすぐに落ちてしまった。
「ううっ、デストロンのニューリーダーのこのスタースクリームさまが……こんなしょうもないことでっ……!」
ほろりと零れたスタースクリームの冷却液は、すぐに海と混じって見えなくなった。スタースクリームのブレインに今までのメモリーが走馬灯のように再生されていく。このままニューリーダーになるという野望はウタカタの夢となって海の藻屑になってしまうかと思うと、とても悔しかった。せめて故郷の星の上で死にたかったなあ、とスタースクリームは思う。
そうして、万事休すかと思われたそのときだった。
「落ち着け、まだ手はある」
「さ、サウンドウェーブ……?」
まだ逃げていなかったらしい冷静沈着な情報参謀の声に、スタースクリームはすがるような視線を向ける。
「エネルギーを放出してしまえばいい。俺も手伝う、急げ」
「お前、助けてくれるのか?」
「お前に死なれたら困る」
「サウンドウェーブ……」
いつも通りの平坦な声で紡がれた言葉だったが、スタースクリームのスパークにじんわりと染みる。こいつ、こんないいやつだったのか、今までチクり屋とか言って悪かったなとスタースクリームは感動しつつ反省した。
「お前に貸した五十ドルを返してもらうまではな」
だがそれも本当に短い時間で終了した。スタースクリームのブレインサーキットは一瞬動作を停止した後に、ああそういうこと……と非常に醒めた冷たい思考に変わる。
「ああそうだな……半年前に借りたままだったな……」
スタースクリームはうつむきながらがしぃっとサウンドウェーブの腕をつかむ。絶対に放すまいという意思の感じられるその力の入れ方に、サウンドウェーブも不穏な気配を察した。
「お、おいスタースクリーム……?」
「いいぜ……五十ドルどころか三百ドルにして返してやるぜ……ただし」
「おい!?」
「お前がこれに耐えられたらなぁ!!」
がっちりとサウンドウェーブをホールドすると、スタースクリームの機体に満ちている高濃度のエネルギーを一気にサウンドウェーブに向かって放電した。
「ぐわああああああああ!!」
「爆発しても道連れにしてやらぁ!!」
いくらエネルギーが命の源と言っても、あまりに高純度のエネルギーは時には害となる。まして電気信号で動いている彼らに強力な電流は辛い。
たまらずサウンドウェーブは気絶し、スタースクリームも力尽きてブレインボックスを強制終了させる。幸いなことに、二発分の雷を二人で分け合ったことで、どちらかが爆発するということはなかった。
次にスタースクリームが目を覚ましたとき、そこは海底基地のリペアルームだった。アイセンサーが駆動したことに気付いた水色と紫のジェットロンがスタースクリームのそばに寄ってくる。
「やっとお目覚めか?」
「無事でよかったな、おい」
「……てめえらよくも見捨ててくれたな」
「へっ、お前さんだっていつも見捨ててんだろうが俺達を」
そうは言うものの、スカイワープはスタースクリームが意識を取り戻したことに少し安堵している様子だった。スタースクリームは額を押さえて、「あの根暗カセットは」と二機に尋ねる。
「誰が根暗だ」
「うおっいたのかサウンドウェーブ……」
「お前のせいでな」
検査器具にケーブルをつないでいることからして、おそらく回路がショートしてしまっていないか調べているところなのだろう。サウンドウェーブはスタースクリームに向かって首を傾げた。
「俺に何か用があるのか」
「ああ……その……」
スタースクリームは言い淀んだ。理由は大分アレだったが、あのときスタースクリームを助けてくれたのはサウンドウェーブだった。あのままでは十中八九かつてのコンボイのようにとても悲惨なことになっていただろうと、スタースクリームは思う。けれど、ひねくれ者のスタースクリームには、素直にそれに対する礼の言葉が出てこない。
「何だ、早く言え」
「……っエネルゴンキューブも付けといてやるよ」
急かされた上での、苦し紛れの一言だった。
サウンドウェーブは、何のことだろうという様子でちょっと考えていたが、やがて何の話だか合点がいったらしい。
「三百ドルもな」
サウンドウェーブも、スタースクリームにはこれが限界だということがわかっているので、冗談めかしてそれだけ言った。スタースクリームもいつになくおとなしく「おう」とだけ返す。
「何の話だ?」
サンダークラッカーが不思議そうに二人を眺めて首をかしげるが、スタースクリームは「何でもねえよ!」と突っぱねたのだった。
そんな嵐が訪れた海底基地の午後の出来事だった。