イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    ショックウェーブ詰め合わせFaithTastyUnreasonableHalf and HalfFaith
     力を引き出すものは心である。何度となく聞いたその言葉だが、はじめにショックウェーブに面と向かって口にしたのは確かショックウェーブがラボで出会った名も知らぬオートボットの捕虜の一人であったはずだ。
    「おれはオプティマスを信じてる。オプティマスなら……オプティマスなら、お前みたいな悪魔にだっていつか必ず報いを受けさせるはずだ」
    「同じ趣旨の言葉を聞いたことがあるな。それを言った彼の名は……ゼータ・プライムだったかな」
     そう言えば激昂するかと思ったが、その男は憎しみに顔を歪めた後は殊勝にも冷静な精神状態を取り戻した。
    「ゼータ様だって信じたんだ。オプティマスはおれたちの希望、おれたちの光だ。お前のような悪魔には絶対に手出しできない、絶対に」
    「わからないな。ただ信じただけで何になるというのだ」
     根拠もなく心から信頼するなんて愚かしいにもほどがあるだろう。やはりオートボットは馬鹿ばかりだな、とショックウェーブが呆れていると、オートボット捕虜はにやりと笑った。
    「仲間を信じる心は、それだけで何にも負けない力になるんだぜ、一つ目の悪魔さんよ」
     その瞬間、ショックウェーブの後ろの硬化クリスタルの窓が割れる凄まじい音がした。驚いて振り向くと、オートボットのドロップシップが塔に向かって思いっきり体当たりしているのが目に映る。馬鹿な。自殺行為だ。こんなことをすれば脆弱なドロップシップの機体では長くは持たない、それどころかエネルゴンタンクが爆発する危険だってあった。
    「だから言っただろう! 仲間を信じる心はそれだけで普段の何倍もの力になるんだぜ!」
    「……」
     こんな危険な賭けに出るとはオートボットはつくづく愚かな連中だ。たったひとり捕虜を助けるだけの行為にドロップシップまでムダにするとは。
     ショックウェーブのラボにはあまりディセプティコン兵は寄り付かないので、現状ラボにいるのはショックウェーブただひとりだった。ドロップシップから次々と降りてくるオートボットには戦闘特化のブルート兵も混じっていて、応戦すれば圧倒的にショックウェーブにとって不利な状況になる。
     ただ向こうもショックウェーブと命の奪い合いをする余裕はないらしく、こちらに戦意がないとわかると実験台に拘束していた捕虜を解放してすぐに壊れかけのドロップシップに戻っていった。
     戻る際にずっと捕虜だった男に肩を貸して歩いていた男は、何度も無事でよかったと泣きそうな声で言っていた。絶対に生きてるって信じてたよ、だからあんな無茶ができたんだ。最後にそんな声も聞こえた。
     ドロップシップは離陸の際ショックウェーブの攻撃を警戒して砲台をこちらに向けていたのでさすがに手は出せず、ショックウェーブは煙を上げるドロップシップを黙って見送った。廊下から救難信号を聞いて今更やってきたディセプティコン達の足音がするが、ショックウェーブは無視した。なんだか少しつかれてしまった。ショックウェーブはラボの椅子に座ってため息をつく。
     時々、オートボットもディセプティコンも、ショックウェーブの予想を超えた行動を起こすことがある。今回もそうだった。論理的に考えれば絶対にありえないはずの行動を、彼らは激情にかられて実行してしまうのだ。
     信じる心? 馬鹿馬鹿しい。そんなのはひとりでは生きていけない弱いものが何かにすがるための言い訳だ。そして自身の恐怖心を打ち消し甘い夢で自分を慰めるのだ。
     本当にそうだろうか、とショックウェーブの別の部分が囁く。現に彼らは、こうして信じる心とやらで危機を脱しているではないかと。信念は時には普段よりずっと強い力を引き出す。何度も何度も、そんな記述を目にしてきた。科学的根拠がないからと、見ないふりをしてきた事実。
    「心か……」
     生まれた時から、ずっとショックウェーブにとって謎であり続けたもの。それが感情というものだった。嬉しい楽しい苦しい悲しい腹立たしい、そんな雑多な感情に支配され生きていく他のサイバトロニアン達。大抵の場合それは理性的な判断を妨げ、愚かにもそれによって命を落とすこともある。そして同様に、信じられないほどの力を引き出すのだ。
    「……だが、私には、それがない……」
     本当に、疲れてしまった。ショックウェーブは再びため息を付き、ディセプティコン達の到着を静かに待った。



     完璧なソルジャーを作り出すには、何が必要か。研究の末、それは圧倒的な力と知性を持った心の共存だという結論に至った。そしてその結晶が、グリムロックだ。遠い世界の星にかつて存在していた古の獣とサイバトロニアンの知性を合わせれば、他の追随を許さない存在を作り出せるはずだ。だが、グリムロックにあたえた古代の力は想像以上に強力で、グリムロックを完成させる前に彼は自分の元から逃げ出してしまった。
    「だが今となっては怪我の功名というやつだったのかもしれない。おかげで初めに立てた仮説が間違っていたことを知ることができたのだから。そうだろう、グリムロック?」
    「……きさま……」
     もしも自分に感情があったなら、今頃鼻歌でも歌いながら酒の一本でも空けているところかもしれない。ショックウェーブは、拘束具に囚われた自身の最高傑作を見下ろす。このボディパーツも、一度バラバラにして一つ一つショックウェーブの手によって再構築したものだ。どこにどんなパーツが有り、中にどんなケーブルやコードが走っているか、手に取るようにわかる。燃えるような憎しみに満ちてこちらを睨んでいるオプティックも、ショックウェーブのお気に入りの部分の一つだ。
     拘束具はグリムロックの抵抗によりぎちぎちと音を立てるが、今度こそ計算を誤らぬように必要よりはるかに耐久度をあげてある。いくらグリムロックといえどこれを壊すことは不可能だ。
    「君の強さは、君に与えた獣の力によるものだ。サイバトロニアンの高次な精神など関係なかった。思えば、君が強さを発揮するのはいつだってオルトフォームの方だったからな……キックバックを破った時も、この私の腕を食いちぎった時も」
    「あのとき……そのまま……死んでいればよかったものを……」
    「随分な挨拶だな。喋るのも一苦労だろうに」
     グリムロックのセレブラルサーキットへの改ざん処理は順調に進んでいて、彼は既に言葉を発するのにも多大な労力を要しているはずだ。それでも、決して絶望したりショックウェーブに屈しようとはしない。その目に宿る光は、まっすぐにショックウェーブのモノアイを貫いている。
    「完璧なる戦士に、心などという不確定要素は必要ない。そしてグリムロック、君こそがその証明となるんだ」
    「……ふん、あわれなやつだ……」
    「なんだと?」
     不可解な発言に思わずコンソールを操作する手を止め、グリムロックを見ると、グリムロックはせせら笑うような嘲笑を口の端に浮かべていた。
    「ショックウェーブ……きさまはただ……自分にないものを、あきらめる理由が、ほしいだけだ……」
    「諦める? ……まさか、私が感情なんてものを欲しがっているとでも言うつもりか? 馬鹿なことを!」
    「スパークをしらべても、機体をしらべても……こればかりは、どこにも見つからない……数値にならないものは……お前には理解できない……」
    「違う。私はそんなつもりで君から心を消すのではない。これは純粋なる理論の構築による結論だ。そんなくだらない考えの元にやっているのではない!」
    「だったら……なぜ……そうやってむきに否定する?」
     ショックウェーブは、何故か咄嗟に答えを返せなかった。いったい何故? 自分のことなのにショックウェーブは当惑する。そしてその一瞬の空白をグリムロックはしっかりと把握し、今度こそはっきりとせせら笑った。こんな状況で、よくもそんなにも余裕を見せていられるものだ。
    「たとえ……おまえの、じっけんが、うまく……いったとしても……おれの本当の心は消せないだろう……」
    「……本当の心?」
     するとグリムロックは、ふっと今までとは違う種類の笑みを浮かべる。攻撃的な色はそこにはない、穏やかな、優しい笑い方だった。
    「おれは、おれの仲間を、信じてる。なにがあっても信じてる、ずっとずっと」
     はっとする。それは以前、見たことがある種類の笑みだった。
     あのとき、仲間を信じるといって笑った名も知らぬオートボットと同じ笑い方だったのだ。
    「……それは、ありえない。メモリーユニットを抜き、このコントロールマトリックスを埋め込めば君は私の忠実な獣になるのだから。仲間が誰かなんて、すぐにわからなくなるぞ」
    「ダイノボットは……必ず来る。おれのもとに」
    「不可能だ。来るわけがない」
    「いまにわかる」
     グリムロックはショックウェーブの言葉を決して認めようとしなかった。何の根拠もなくかれはダイノボット達が助けに来ると信じている。そしてその信じる心が、決して屈することなくショックウェーブに抵抗を続ける原動力となっている。
    「いまにわかる」
    「……」
     ショックウェーブはじっとグリムロックを見つめた後、肩をすくめて無言でコンソールを叩き続けた。
     たとえ、それがグリムロックに力を与えているとしても。
     ショックウェーブには、それはないのだ。
    Tasty
     最近ショックウェーブは新しいオモチャに夢中でつまんない。
     いつもだったらすぐ壊れちゃうのに、今度のはいやに頑丈でショックウェーブの実験にも今のところ耐え続けてる。つまらない。早く壊れちゃえばいいのに、って思ってる。多分他のインセクティコンも。ショックウェーブはあいつらを使って新しい兵士を作るんだって言ってた。ダイノボットだっけ? 確かそんな名前だったと思うけど、ちゃんと覚えてない。
     今までは俺たちインセクティコンにもよく構ってくれたのに。そりゃ確かにあいつは俺たちでわけのわかんない実験もしてたけど、俺と、シャープショットとハードシェルはあいつのお気に入りだったから今のところ殺されてないし、たぶんこれからもそうだろう。どうせインセクティコンは大群なのが特徴だ。俺たちですら、一匹や二匹殺されたところで何も感じないほど。あいつも誰が死んでも何も感じないみたいだから、俺たちはその点に関してはよく似ている。他のディセプティコンがどんなに俺たちを気味悪がっても、あいつだけは俺たちをかわいがってるのはそれが理由なのかもしれない。
     そういえば、俺たち三体の名前はショックウェーブがくれた。俺はキックバックで、俺の特徴を元に考えてくれたらしい。群れの中では名前なんか必要なかったから名前なんて付けたところでどうするんだろうと思っていたけど、案外貰ってみるといいものだ。俺もシャープショットとハードシェルにすぐ声がかけられるようになって楽だし、ショックウェーブが俺のことを呼んでくれるのはなんだか嬉しかった。
     でも今のショックウェーブはグリムロックばっかり。グリムロックグリムロックって、いつもログを付けて実験して、あいつの何がそんなにいいんだろ? どうせすぐ壊れちゃうのに。あいつが何かを壊さなかったことなんてないのに。
    「ショックウェーブ」
     今日もショックウェーブは実験ばかりだ。グリッドの前で俺には難しくてわからない計算式を書いている。だから、今はグリムロックじゃなくて、スペースブリッジの準備でもしてるのかな。まあ、それは俺の勘だけど。
     俺はショックウェーブの後ろから抱き付いてショックウェーブの邪魔をする。最近はこれくらいしないと気付いてもらえないのだから面白くない。
     そして俺はショックウェーブの無機質な金属の感触と染みついた化学薬品の香りを嗅いで思うのだ。ああ、やっぱり、旨そうだなぁ、こいつ。
    「どうした、キックバック?」
    「もう俺たちに飽きちゃった?」
     するとショックウェーブは真面目に考えた後に律儀に答えてくれる。
    「いや。まだ、どうしてお前たちインセクティコンが、サイバトロン星のコアがダークエネルゴンに汚染された後地表に出てきたのかきちんと納得の行く理由を見出していない。だから、現時点でお前たちに興味を失うことは無いな」
    「ふーん」
     それがわかったらどうなるのかなと思ったけど、今は関係ないのだから気にはしない。
    「それより今は忙しい。邪魔をしないでくれるか」
    「はぁーい」
     あんまり邪魔すると多分俺でも解体されるから、ここはおとなしく引いておく。あーあ、つまんないなぁ。ショックウェーブが暇になって俺たちにも構ってくれればいいのに……いや、あり得ないな。こいつはサイバトロン星が滅ぶ日が来たってギリギリまでテストしてるような奴だもん。
     こうなったらいっそあいつを食べてしまうのもアリかな、なんて思うときもある。俺達のごはんは大体はオートボットの捕虜か、メガトロンを失望させたディセプティコンのボランティアだけど、こういう下っ端はほとんどみんな同じ味しかしない。量産型というか、特徴のない連中だからだろう。だから、この目の前の科学者だったらどんな味がするんだろうって、気になって仕方ないのだ。もしあいつが俺達に隙を見せるようなことが一瞬でもあればすぐにでも食らいついてやるところだけど、今のところそんなチャンスは転がってきていない。残念だ。
     ショックウェーブは俺達にごはんをくれるから好きだし、いなくなったらそれはそれで少し退屈になるかもしれないけど、それでも俺は、あいつの後ろ姿を見る度に翼をもぎとって噛み砕きたくなる。バイタルケーブルを引きずり出して真っ二つにして、中のオイルをすすりたくなる。ショックウェーブは俺がそう思ってることに気づいているんだろうか? パーソナルコンポーネントをえぐりだして調べたらわかるかなあ。食べる前に確かめてみたいな。
    「キックバック、これが終わったらテストサブジェクト1080の様子を見に行く。ついてきなさい」
    「はいはーい」
     そのときショックウェーブが俺に向かってそう言ったので、俺はいい子のふりをして返事をする。でも、俺はいつでもどこでも、こう考えずにはいられないのだ。
     ああ、お前を食べてしまいたいよ、ショックウェーブ。
    Unreasonable
    「こら、まだ動いちゃ駄目だってさっき言ったばっかりだろ」
     リペア台から気付かれないようにそっと降りようと試みたが、その前にサンダークラッカーに気付かれてしまった。サンダークラッカーは素早くショックウェーブに近寄ると、肩を押してリペア台に横たわらせる。有無を言わせない動きだ。
    「もう平気だ」
    「スクラップ寸前だったくせに何を根拠に言ってるんだ、馬鹿野郎。大体まだ左腕だって新しいの見つかってないんだから今はおとなしくしてろよ」
     グリムロックに左腕をもぎ取られ、そのまま尻尾で殴り飛ばされたところを偶然サンダークラッカーに救われてから数日が経つ。サンダークラッカーはあれからずっとショックウェーブに付きっきりでリペアや精密検査をショックウェーブの為に行なっている。そして片時も離れないのだった。当初の目的だったスタースクリームはいいのかとあるときサンダークラッカーに尋ねたが、あいつにはスカイワープが付いてるから大丈夫だとサンダークラッカーは言った。以前のサンダークラッカーの様子から考えると彼のその行動は意外だったが、それだけスカイワープのことを信頼しているということなのだろう。
    「だが、ネメシスが無事目的地まで到達したのか確かめなくては……」
    「俺もログを確認したけど、スペースブリッジの座標自体はあのメルトダウンの後でも変わってなかったぜ。後は向こうからの連絡待ちだ、メガトロン様から通信があったらちゃんとお前に言うから、今は何も考えずにリペアに専念してくれよ」
    「……仕方ないな」
     ショックウェーブがようやく諦めてリペア台に寝ると、サンダークラッカーは「素直が一番だぜ」と言って笑った。その表情をじっと見つめると、サンダークラッカーは今度は不思議そうに首を傾げる。サンダークラッカーはよく表情が変わるのだ。それは最近注意して観察している内に気付いたことだった。
    「お前は」
    「うん?」
    「笑っている方がいい」
     泣かれるよりはずっと。と、声には出さずに付け加える。そして何故自分がそう思うのかは相変わらずわからないままだった。サンダークラッカーが泣くのを見たくない、というこの妙な思いはどこから来るのだろう。そもそもこれはいったい何なのだろう。
     サンダークラッカーは驚いたように固まってから、少し微笑んでショックウェーブの右腕に触れた。そしてその手を持ち上げて手の甲を頬につける。
    「……お前がそういうこと言うなんて意外」
    「そうだな。我ながらおかしなことを口走っているとは思う」
    「いや、おかしくはねえよ。全然」
     そう言うサンダークラッカーの様子は何だか少し嬉しそうだった。それはショックウェーブにも見て取ることができるのだが、何がそうさせたのかはやはりわからない。他者の感情の流れは、理論で解明できるものではなく、そしてそれゆえにショックウェーブには非常に大きな難題であり続けている。
    「じゃあお前も俺の知らない間に死んだりするなよ」
    「……約束はできない。今は戦争中だ、不測の事態は十分にありえる」
    「そこを何とかしろよ。でないと俺、ずーっとお前の前で泣いてやるから」
    「それは困る、やめてくれ」
     思わず狼狽えてしまうと、サンダークラッカーは冗談だよといたずらっぽく笑った。
    Half and Half
    「いやあ今日は最高だったな!」
     いつになくはしゃいだ声で言ったスカイワープは、スタースクリームとサンダークラッカーの肩に腕を回してぐいっと引き寄せた。普段だったらそういうとき、何かしら苦情を口にするスタースクリームさえスカイワープにニヤリと笑って「そうだな」と同意したので相当に機嫌がいいことが窺える。そしてショックウェーブが観察できる範囲では、ほとんどのディセプティコン兵が彼らのように浮かれた様子であった。
     今日の戦いは、オートボットの主要な拠点の一つである基地を襲撃した大規模な作戦だった。それこそ、普段は後方支援が中心のショックウェーブやサンダークラッカーなども前線に駆り出される程に。そして結果は文句なしの大勝である。というのも、サウンドウェーブがあらかじめ送っていたスパイが入手した基地内部のホロマップやパスコードのおかげで、オートボット達が迎撃態勢を取る前に電光石火の勢いで制圧できたのだ。今日スパークを散らしたオートボットの大半は、何が起きたかわからないまま死んでいったに違いない。そして、ディセプティコン側の被害も普段よりかなり少なかった。
    「オートボットの奴ら泡食って逃げ出しやがってな! 背中撃たれて死ぬなんて情けないったらありゃしねえよ」
    「ま、逃げた所で無駄だったがな。俺様のナルビームはむしろ遠距離射撃用なんだから」
    「というより、お前の残念な射撃の腕前も16倍スコープならカバーできるからだろ?」
    「なんだとサンダークラッカー!?」
     スタースクリームはそのままサンダークラッカーに掴みかかりそうな勢いだったが、その前にスカイワープが仲裁に入る。
    「まあまあ細かいことはいいじゃねえか。今日はオートボットの連中に一矢報いてやったんだし」
     すると、頭はいいくせに単純なスタースクリームはすぐに誤魔化されてしまって、ふふんと得意げな笑みを浮かべる。
    「ほんと清々したな。あいつら、前途洋々将来有望なこのスタースクリーム様をあんな化石みたいなステーションに1000年以上押し込めやがって。ダークエネルゴンの研究なんかにこだわらずにとっととディセプティコンに入るべきだったぜ」
    「仕方ねえじゃん。あのときはまさかメガトロン様が使い方わかるなんて知らなかったんだしさ」
    「今夜は酒がうまいだろうなあ。お前もそう思うよな? サンダークラッカー」
    「……え? ああ……」
     どこか上の空だったサンダークラッカーは、話を振られてようやく我に返ったように同型機の方を見る。そして、ディセプティコンらしい冷たい笑みを浮かべて言った。
    「今夜の酒の肴はオートボット共の情けない散り様にすると盛り上がりそうだな」
    「よしきた! 今日は俺のとっておき開けてやるから俺の部屋来いよ」
    「……いや、俺はパス。やることあるからお前らふたりだけでやれ」
    「あ? なんだよつまんねえ、んなの後でいいじゃん」
    「よくない。メガトロン様が早めに完成させるのが望ましいって言ってたんだ」
    「だったら余計後にしろ。俺は将来のディセプティコンニューリーダー様だぞ!」
    「はいはいニューリーダーニューリーダー」
    「おいこら、サンダークラッカー!」
    「それじゃまた明日」
     サンダークラッカーはひらひら手を振って色違いの同型機たちと別れると、ラボに戻るための輸送機の方に歩いてくる。もっとも、今夜は勝利の余韻に酔いしれたい者が大半だし、メガトロンも各自好きなように休養をとっていいと許可を出しているので、ラボに向かう者の数は非常に少ない。ショックウェーブとサンダークラッカーの他には、二、三機ぽつぽつと輸送機の出発時刻を待っているくらいだろうか。
    「ショックウェーブもラボに戻るのか?」
    「ああ」
    「そっか……」
     サンダークラッカーは後ろを振り返って、ケイオンの基地に戻る大型輸送機の方にじゃれあいながら向かっている騒がしいシーカー達が小さくなるのをぼんやりと眺める。そして基地の残骸の向こうに彼らが消えるのを確認すると、先ほどの様子とは打って変わってくたびれた様子でため息をついた。
    「今日は本当に疲れたな……」
    「お前は、なかなか戦闘配備にはならないからな」
    「まあな。久々に戦場に出た」
    「疲れたなら休んだほうが結果的には作業効率が上がると思うが」
    「そんなのわかってる。でも、今は休んでる気分じゃない」
     そのとき、ラボへの輸送機を操作するディセプティコン兵がショックウェーブ達に声をかけた。
    「そろそろ出発します。研究所に向かうなら、こちらへ」
     ショックウェーブ達が乗り込んだのは小型輸送機だ。しかも本来ならば貨物輸送に使うものである。戦闘員輸送用のめぼしい飛行船はほとんどケイオンへの帰還に回っているためだ。だから、狭いし座席もない。内壁に寄りかかるように座ると、全員が密集するような形になる。
     そんな状況もあり、サンダークラッカーはショックウェーブのすぐとなりに腰掛けた。そして片膝を抱えて座り、何かじっと考えこむように輸送機内部の床を眺めていた。
    「……なあショックウェーブ」
    「なんだ」
    「仲間を見捨てて敵に背中を向けるのと、逃げる敵の背中を撃つのは、どっちが卑怯なのかな」
     囁くようなその小さな声では、ごく近くにいるショックウェーブ以外の乗組員にはほとんど聞こえなかっただろう。
    「それについては個人差が激しい。回答をひとつに絞ることは不可能だ」
    「……そうか。そうだよな……」
     サンダークラッカーは膝の上で腕を組むと、そこに顔をうずめてそれきり何も言わず、動かなかった。眠っているようにも見えたが、おそらく違うだろう。
     何故なら、ラボにつくまでの長い時間ずっと、サンダークラッカーの手がかすかに震えていたからだ。




    「どうしたらお前って笑うの?」
    「……は?」
     錆の海の遺跡にある、この宇宙全体を映したホロマップの部屋に、サンダークラッカーは暇なのか何なのかしらないがよく訪れる。ショックウェーブはディセプティコンのほとんどから非常に強い恐怖心を抱かれる存在なので、ここに来るのはインセクティコンぐらいのものなのだが、サンダークラッカーはただ一人といっていい例外だった。
     そして今サンダークラッカーは、彼以外には到底口にできないような妙な質問をよりによってショックウェーブにぶつけたのだった。
    「すまないがもう一度言ってもらえるか」
    「だからー、どうやったらお前は笑うのかって聞いてるんだけど」
    「……何のために?」
    「知的好奇心を満たすために」
    「…………」
     ショックウェーブはホロマップの検索を中断して、螺旋階段の中腹に座っているサンダークラッカーに視線を移す。サンダークラッカーは目が合うとにこりと笑った。
    「で、どうやったら笑ってくれる?」
    「……逆に聞くが、私を笑わせて何がしたい?」
     するとサンダークラッカーはちょっとためらった。そして翼のインシグニアを確かめるような仕草をする。それなりの期間彼と過ごすようになって気づいたが、それは彼が何かごまかそうとするときの行動だ。
    「ええと……ほら、俺達おなじディセプティコンだしさ、親睦を深めるためにはそれが一番手っ取り早いかなーって。いい考えだろ?」
    「嘘だな。本当は別に目的があるだろう」
     ぴしゃりと一刀両断すると、サンダークラッカーは苦笑した。それはもう、嘘だと認めたも同然だ。
    「実はスタースクリームがさあ……」
    「またあいつか? いい加減変な頼まれごとをしたら断ったらどうだ」
     元はといえばサンダークラッカーが錆の海に来るようになったのもスタースクリームの無茶な頼みが原因だったのだ。いつもいつも振り回されているが、それでもサンダークラッカーはスタースクリームに愛想を尽かすことはないらしい。理解し難いことだが。
    「いや、今回はそういうんじゃなくてな。スタースクリームが『お前ショックウェーブと仲いいんだったらアイツが笑ってるとこ見たことあんの?』って言ってきたんだよ。昨日」
     少し予想外な言葉だったのでショックウェーブは少し反応に困った。その間にもサンダークラッカーは言葉を続ける。
    「で、近くにいたサウンドウェーブも『言われてみれば俺も一度もあいつが笑ったところを見たことがない』とか言い出してさ。そしたらもう連鎖反応だ。どいつもこいつもお前が笑ってるとこ見たことないって言うんだよ……それで、わかるだろ? みんな気になっちゃったんだよ、お前が笑う所が。最後にはメガトロン様が『サンダークラッカー、お前が代表としてあいつを笑わせて来い』とか言い出してさ……」
    「それは……災難だったな」
     元々はオートボットだったサンダークラッカーは、ディセプティコンの中では比較的気性が穏やかなせいもあって何かと面倒なことを頼まれやすい節がある。そしてもっと悪いことに、スタースクリームのように図太くないサンダークラッカーはそれを断り切れないのだ。そのせいで余計に「とりあえずサンダークラッカーにまかせておけばいい」というような風潮も出来つつある。なまじサンダークラッカーが仕事が出来る男なのも彼にとってはマイナスに働いているかもしれない。
    「さあ全部話したぜ、メガトロン様の頼みでもあるんだからなんでもいいから笑えよほら」
    「無理だ」
    「なんで!? いいだろ減るもんでもないし!」
    「私にはユーモアを解するセンスはない」
    「ええー? そんなもんいらねえだろ、なんか面白いことあれば」
    「そう、そこが問題だ」
     サンダークラッカーの言葉に割り込んで言うと、サンダークラッカーはきょとんとする。いつも思うが、本当に彼は表情がよく変わる。感情が豊かなのか単に表に出やすいだけなのか、はたまた両方なのかは不明だが、ついサンダークラッカーをなんとなく観察してしまうのは、これが原因だろうとショックウェーブは考えていた。
    「私にはその面白い、という感覚がわからないからだ」
    「……どういうことだ?」
    「要するにお前達が滑稽なものやチグハグなものを見て愉快に感じる感覚を共有できた試しがない。生まれてから一度も」
    「……じゃあ、嬉しかったり楽しかったりとかは? なかなかうまくいかなかった実験で仮説が実証されて自分が正しかったってわかったときは? それも?」
    「実証されれば次の段階に進むだけだ。他に何がある?」
     純粋に不思議に思って聞き返しただけだったのに、サンダークラッカーはその返答にいささかショックを受けたようだった。
    「……おれ、クリスタルシティにいた頃は、スカイワープと抱き合って喜んでたもんだけど」
    「ああ、いかにもお前達がやりそうなことだな」
    「そうか……じゃ、本当に無理なんだな。ごめん」
    「別に謝るようなことじゃない」
    「……」
     サンダークラッカーはすっかり悄然として、黙りこんでしまった。ショックウェーブはそんなサンダークラッカーを見つめた後、仕方なしに仕事を放ってサンダークラッカーの隣まで降りて行って座る。別に彼がそんな風に落ち込んでいるのに罪悪感を覚えたわけではない。このまま帰すと、後々「よくもサンダークラッカーをいじめやがったなこの鬼畜野郎」とか何とか言って彼の同型機二体が殴りこんできて面倒なことになる予感がしただけだ。
    「たまたま私が特殊だっただけだ。お前にも悪気はなかったし私の方も特に気分を害したわけじゃない。なのに何をそう気に病む?」
    「だってお前……つらくないのか? 嬉しいことも楽しいこともなくて」
     つらい? 何故そうなるのか、ショックウェーブにはサンダークラッカーの思考の流れはさっぱり理解できなかった。いつもころころと表情を変えるサンダークラッカーは、やはりショックウェーブとは対極のところにいるようだ。
    「オートボットを撃ち殺す度に手が震えているお前の方が、よほどつらいのではないか?」
     サンダークラッカーはその返答に虚を衝かれたように少し固まった。それからちょっと俯いて、そうかもなあ、とつぶやいて笑った。苦笑とも自嘲とも取れない笑い方だった。
     ショックウェーブは何故サンダークラッカーがラボに篭ってばかりで前線にほとんど出てこないのか、その理由を知っている。彼はかつての同胞を殺すことにまだ抵抗感を捨て切れないでいるのだ。時々スタースクリームの要請で表に出るサンダークラッカーの照準は冷酷なまでにぶれることはないが、ひとたび戦場を離れると、誰にも気付かれないようにじっと手の震えが止まるまで一人きりで蹲っていた。以前輸送機の中で、たまたまそういうときのサンダークラッカーを見かける機会があった。そしてショックウェーブは思ったものだ。こちらが殺さなければ殺されていたのだから、罪悪感を覚える必要など何処にもないのにと。きっと彼にとってはそういう問題ではないのだろう。おそらくそこに理由などないのだ。ショックウェーブにとって、ユーモアの感覚が理解できないのとちょうど同じように。
    「な、ショックウェーブ……きっと俺達、足して二で割ったらちょうどいいと思うんだよ。そう思わないか?」
     ショックウェーブは少し考えてから、言葉は添えずにサンダークラッカーの肩に腕を回した。
     彼はそんな曖昧な答えでも満足したのか、ショックウェーブの方に少しだけ寄りかかって目を閉じる。
    「そんなこと……できたらいいのにな……」
     小さく独り言のように囁くサンダークラッカーの言葉を、ショックウェーブは否定も肯定もしない。ただ、空でぽつんと輝く恒星のような赤い光をその目に宿して、作り物の星空にちっぽけな星屑が流れて消えるのを何も言わずに眺めていた。
    小雨 Link Message Mute
    2018/06/15 17:43:52

    ショックウェーブ詰め合わせ

    #トランスフォーマー
    WFCのショックウェーブ関連の話。


    「Faith」
    Prime RotD&FOC ショックウェーブとグリムロックの話

    「Tasty」
    FOC ショックウェーブとキックバックの話

    「Unreasonable」
    FOC&WFC 衝サンでエンディング後のショックウェーブとサンクラ。

    「Half and Half」
    FOC&WFC 衝サンで過去捏造。

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品