満員電車なんて乗らない 好奇心は猫をも殺すという。そして私は今、好奇心に押し潰されそうになっている。物理的に。
目の前にはバルバトスさん。そしてその背中越しには人、人、人。私の後ろにも人。これだけ人がいるのにどこからも話し声は聞こえてこない。スマートフォンを弄るか本を読むか、もしくは寝ているか。仕事へ向かう人たちをこれでもかと積んだ電車がレールの上を進む重い音だけが車内に響き続ける。
人間界での集合場所までディアボロは迎えの車を寄越してくれると言ったのに、無駄に好奇心を発揮して「たまには電車で行きます」なんて言わなければよかった。結果、迎えに来てくれたバルバトスさんまで巻き込むことになってしまった。唯一の救いは空調が効いていることくらい。
揺られては止まり、駅に着いて人が大量に乗り込んでくるたびに前から後ろから押され、気付けばほぼ抱き合うような距離になっていた。
周囲の人は皆背を向けているか手元を見ているのをいいことに、バルバトスさんの腰に軽く腕をまわす。おや、という視線を感じ、混んでるので、と答えになっていない答えを小声で返すと、返事の代わりとばかりに私の腰にも腕がまわされ、抱き寄せられた。暖かくなってきた気がするのは服越しに感じる体温のせいだけではないはず。
これなら満員電車も悪くないかもしれない。
なんて思えたのは一瞬で、カーブにでも差し掛かったのか電車が急に傾いてバルバトスさんとその後ろの人の山が圧し掛かってきた。
「ぐえっ」
……絶対に聞かれたくない類の悲鳴が口から出た。
申し訳ありません大丈夫ですか、と気遣う声に俯いて無言で頷いたけど、気持ち的には全然大丈夫ではない。暑い。
恥ずかしさをごまかすように抱き着く腕に力を籠め、次は絶対車で迎えに来てもらおうと強く心に誓った。