双眸 「てめえのその目が」
静かに佇む、小柄な針鼠の目を射るように見る、大柄な男が吐き捨てた。
真っ黒なレザージャケットに身をつつみ、胸元の凄惨な傷を惜しげもなく晒してもなお、それに圧倒されない威圧感のある緑色の針鼠。スカージと呼ばれるその男は、眼前に現れたその存在を無視もできず、啖呵を切ったのだ。
「気に入らねえ。マジで。何なんだテメエ」
明るい空色の棘を持つ、小柄な針鼠の種族の少年は、苛立った声音を叩きつけられようが、威圧的な視線を投げられようが、どこ吹く風の様子で、まっすぐに相手を見返しては、微動だにしない。
その態度が、スカージには気に入らなかった。
急に目の前に現れたその少年は、見覚えのある相手に瓜二つだが、身長や瞳の色など、相違部分も数多い。
だが、その瞳が。あの青い風と同じ輝きを持つその瞳が、とある事実だけを告げていた。
好きにさせるわけにはいかないという、確固たる信念と、揺るぎない決意を持って。今、スカージを射るように見ているのだ。
「おい。何か言ったらどうなんだ」
少年は(うーん)と顎を撫でながら、考えるような仕草を見せると、やおら人差し指を立て、チッチッと振ってみせる。
それを合図に、スカージは思い切り地面を蹴りつけ、少年との距離を詰めた。
大振りの拳撃を払い除け、少年はひらりと身をかわし、男から一定の距離を取ろうとした。が、それを逃さずスカージは追撃に走る。針鼠種特有の、身体を丸めて弾丸のように飛んでいく攻撃を、かろうじて少年は躱す。
お返しとばかりに少年も地面を蹴ると、その小さな足から繰り出されるとは思えないほどの脚力で、スカージに蹴りを返す。空を切り、凄まじいまでのスピードで来るその攻撃を、スカージは見逃さずに叩き落とした。
地面に叩きつけられる前に少年は身体を丸めて受け身を取ると、そのままの状態でスピンをし、その場から距離を取り、高く跳ね上がる。
男の方へ視線を投げつつ、決して目を離さずに少年は地面へと降りた。
「あーーー気に入らねえ。あの青い野郎とそっくりな顔して、その余裕たっぷりな目も!態度も!」
激昂し、怒鳴り散らす男を横目に、少年は何も言わずに、ニヤリと口の端を釣り上げる。もう少しこいつの相手をしていてやれば、きっとあの青い風が後から追いついてくるだろう。ギラギラと輝くような相手の瞳を睨み返し、少年は一人、拳を握りしめた。