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    Apoptosis 見渡す限りの焦土だった。かつてあった人の集落の気配はまったく残されていない。先日まで通りに軒を連ねていた家々も無惨に薙ぎ倒され、灰と瓦礫になって燃えつきていた。
     桂の足元には、瓦礫の下から助けを求めて腕を伸ばしたらしい人間の上半身が、炭化しているのが見えた。干からびよれた皮膚が肋骨にこびりついているような死体では、男か女かも、もう分からない―――ただそれは、黒焦げになった唇で洞穴のような口を開け、歯を剥き出しにして事切れていた。とうに眼球は焼かれ、虚ろな眼窩はひたすらに暗い。もはや炭化した舌と焼けついた喉で、最期は何を叫んだのだろう。天人への呪いか、村にこの事態を招いた攘夷志士への怨詛だろうか。
     確かにこの廃村は―――それでも少なくとも村と呼びたい―――仲間を殺された天人の、志士への恨みに満ちていた。村の痕跡すら消そうとした、その意志は明確な報復だ。我々の代わりに、無辜の村人を殊更に残虐に殺して溜飲を下げたのだろう。
     青く晴れた空のもと、きんと耳鳴りがする位に冷えた朝―――我々は、間に合わなかったのだ。
     誰も皆、霜の下りた瓦礫の山の前で立ち尽くしているしかなかった。この村は以前に隊が潜伏したところでもあり、今もしばしば伝令らを匿っていた。天人が村に捜査と称して入ったという知らせが届いたのは一昨日―――最初から、皆殺しにするつもりだったのか。
     呆然とする隊士の前に、抱えられる位の小さな炭塊を見つけ、それが炭化した幼児の遺体だと分かると嗚咽する声がした。焼死体は蹲るのだと、そうどこかで聞いた。どう考えてもまだいとけない年齢だろうに、そう思うと腸が煮えくりかえるような気がした。
     桂は首を振った。俺が、ここで怒りに我を忘れてどうする…。上に立つ者は容易に感情を露にしてはならない。
     唇を噛み締め、瓦礫から目をそらした。その視界の端に、高杉が見えた。彼もまた、微動だにしないで惨状を眺めていた。隊がいつまでもこの状態でいるわけにもいかない。
     俺は奴に歩み寄った。ここで立ち止まるわけにはいかない―――どうしても。
    「…高杉」
     背にかけた声に、返事はなかった。
    「高杉」
     今度もない。多少いらつく。
    「た…」
    「…うるせえ」
     思いのほかはっきりした答えがかえってくる。
    「俺たちがほうけていてどうする。お前…」
     叱咤しようとしたその時。
    「…自己嫌悪で吐気がしそうだ」
     そうきっぱりと拒絶した。その言葉でようやく思い出す―――はじめにこの村を利用しようと言い出したのは、この少年だった。
     桂は言うべきことをしばらく探し、結局見付からなかった。ふ、と気配を感じ、振り向くと銀時だった。
    ―――放っておけ、と、いうことか…。
     背後で、生きている人間の動き出す気配がした。ああ、坂本が、隊を立て直そうとしている声が、聞こえている。
     桂は少し逡巡してから、銀時と共に踵を返した。
     立ち止まることも、引き返すことももう出来ないなら、進み続けるしかない。
     振り返ったそこでは、やはり坂本が隊を励まそうとしていた。まだいつも通りとはいかないまでも、隊は少しずつ活気を取り戻しつつあった。なにげなく、あいつがいると明るくなるな、と傍らから言う声がして、桂はうなずいた。
     どうしてだろう、いつかどこかで、同じ気分を感じた気がした。
    ユバ Link Message Mute
    2019/11/20 12:42:57

    Apoptosis

    #銀魂 #高杉晋助 #桂小太郎

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