(コーちん)「 …、」
(当主)「 お前の仕事は、まだ…残っている……。やってくれるな?」
(コーちん)「 当主様… 」
「 ───…、うん。」
こらえきれない涙を必死に拭い、
最期の言葉をコーちんは当主に告げた。
(コーちん)「 当主様、当主様の命の炎はあとちょっとしか残ってないから…しゃべれるうちに次の当主様の名前を呼んで 」
(若宮)「 …! そんなっ.. 父上、やだっ‼︎ いかないでよ!やっと・・帰ってきてくれたのにっ!!」
(伊吹)「 若宮……。」
(受け入れるんだと首を横に振る)
(若宮)「!」
(光輝)「 ……、これが一族に課せられた短命の呪いなんだ…。晴明を倒さない限り俺達は永遠に……くそっ…‼︎」
(銀兵)「 よせ、皆。御当主の前で… 当主様、全員の意思は一致してもう決まっています。名前を呼んであげて下さい 」
(当主)「 ……。すまない 皆、自分が…もう少し長く生きられたら… 」
首をある人物に向けた。
(右京)「 若宮、今日から【第10代目】新当主にお前を任命する。…当家の歴代に恥じぬよう、【初代の名】を今日からお前が継ぐんだ。そして・・ 」
「 いつか必ず晴明を討て。……いいな? 」
(若宮)
「!?……僕が?」
(右京)「 武比古、伊吹 銀平、光輝…そして 麟子。すまないが息子を頼む…。きっと、俺の代わりに…支えてやってくれ……。」
異論はなく5人は力強く頷いた。
(伊吹)「 必ず..、 必ず俺達が 」
(武比古)「 お前と一緒に戦った日々の事、俺、忘れないからさ 」
(麟子)「 ゆっくり休んでちょうだい…。」
皆の言葉を最後に当主様は優しく微笑んだ。
だけど それ以上に心配だったのは…
(若宮)「 ………。」
(ずっと顔をうずめて父親の布団にしがみつく)
ギュッ..。
(右京)「 …お前も、もう泣くんじゃない。皆のいる前で当主になれば明日からはまた辛い戦いの日々だ。」
「 …いつまでも一緒にはいてやれない。だから…今まで父親らしい事何もしてやれず、お前には辛い思いをさせてしまったと思っている。許してくれ 若宮…。」
(幼い我が子の頭に手をやる)
(若宮)「 ……、とうさ… 」
(右京)「 しっかり顔をあげろ。そして、前を向いて当主としていつかは成長しこの家の家族を、皆を守れ。…いいな?」
(若宮)「 …。」
幼い子供には酷な大粒の涙が布団を濡らす。
明日からの自分を想っての現実的な言葉を残した父の本当の優しさが伝わってきたのだ。
(若宮)「 …ッ!」
(右京)
「 ……世話になったな、コーちん 」
(コーちん)「 当主様… ありがとう、今まであっしのこと人間扱いしてくれて…すげー嬉しかったよ 」
「 これからは空の上でずっと皆を見守ってて… 」
(穏やかに笑う当主)
「 後の事、頼んだぞ 」
(右京) ※「 ……。俺は お前らの何かになれたのかな…。」(※実際ゲーム上の遺言です)
(涙)「 ──…。」
(右京)「 …………………。」
【右京】1131年6月。
1才10ヶ月 永眠。
(全員)「 …!?当主様っ!!」
(若宮)「!? 父上…っ?父上────っっ!!…っ!ううっ…っ!ぁあああああーーーっ!!!」
(雨)
「 ────────…。」
父さんは安らかな最期を迎え、生涯にかけて当主としての任を全うした。
「 ..ッ!」
(武比古)「 晴明…っ!いつか必ず……。」
この時、まだ幼かった俺は父の後に続く
第10代目新当主として、
初代の名をこの日、襲名した。
「 …………。」
そして、辛い気持ちも明日からはいつも通りの日常を守っていくことが
先祖代々からの習慣を義務付けられてきたのだ。
一族に残された時間は一人一人、
あまりにも短すぎる人生の中、
少しでも先へ進めるよう、過ぎた時間をいつまでも振り返らない。
一人一人が強く生きるにはそうしていくしか術はなかったのだ。
(葬儀を終えた雨上がり、朝焼けの空を見上げる若宮)
───────────…、
(当主)「 …。」
” 父さん… ”
(小さな足音)
「 タタタ…ッ 」
(コーちん)「 当主様、おはうぃーっす!! 」
(当主)「 …!うわっ!?」
(コーちん)「 初代ご奉名 襲名の儀、お慶びを申しゃげます!あっしも色々手伝うから魚いっぱい食べて頑張れ 」
(当主)「 コーちん…どこから…… 」
(コーちん)「 ふふん、」
びっくりさせたかったのか可愛いイタチ耳と尻尾が嬉しそうにパタパタと動いていた。
(当主)「…ありがとう、コーちん。俺 ちゃんと頑張るよ。今日から初陣なんだ、よろしくな。」
(コーちん)「 うんっ あっしも今まで以上にしっかりサポートするから。あっ、けど、当主様は無茶は絶対にダメだよ 」
(???)「 コーちんの言う通り、初陣早々命を落としたらシャレにならないからな。」
(当主)「 武比古さん、」
【武比古】(拳法家)
「 お前を死なせたら向こうで右京に合わせる顔がない。当主として無茶をするのはまだ先でいい、お前にはもう少し時間だってあるからな 」
(当主)「 え?」
(麟子)「 そういうこと、あぁ…まだ初陣の若さって羨ましいわね。あたし達も永遠の若さってのになれないのかしらねぇ。」
(伊吹) 「 って、麟子…これから出陣って時に何のんきな夢ごとを呟いてるんだ、それに もう当主としての初仕事も決めないとな。」
(当主)「 あ..、えっと・・。」
【銀兵】(剣士)
「 出撃隊 (編成)、だろ? 」
(当主)
「 …と、そうだ、すみません 」
…………………………。
若宮はしばらくどこの迷宮の討伐に向かうか決めたのちにようやく出撃隊を決めた。
(当主)「 攻める場所は【龍穴鯉のぼり】、討伐部隊は俺と伊吹さん、そして光輝さんと麟子さんでお願いします。」
(伊吹)「 何か根拠はあるのか?」
(当主)「 …あそこは以前、父さんが敵の数も多く奥の洞窟は防御と術の使い手の敵もいるって聞きましたから一撃で強烈なダメージを与えられる、壊し屋の光輝さんの力と… 」
「 自分はまだ初陣なので多くの討伐は望めません。だから、広範囲で多数を攻められる麟子さん(薙刀士)、中範囲での伊吹さん(槍使い)の力が必要なのでお願いします。」
(武比古)「 ……。そうか、ちゃんとした討伐理由での編成、悪くない選択だ 」
(麟子)「 ちゃんと当主様出来てるじゃない。」
そう言いながら実の姉のように麟子さんは親しげに抱きついてくる。
むぎゅーーーっ
(当主) ( 反応に戸惑う )
「 ええ…っと、あのっ…麟子さん、……。」
(麟子)「 ほらぁ、照れないの 」
(武比古)「 ………。」
(安心する)
“ ずっと落ち込んでばかりだと思ってたけど… ”
(武比古)「 ( そうじゃなかったんだな ) 」
それは伊吹達みんなも同じ気持ちだった。
(伊吹)「 父親の右京が何もしてやれなかったっていってたが、最期まで本当の息子思いだったからな…。余計辛かっただろう… 」
(当主)
(地図を確認する)「 ───、」
(銀兵)
「あいつは、よく頑張ってるよ」
(コーちん)「 それじゃあ 当主様、準備はいい?」
(当主)「 うん、行こう。」
(武比古・銀兵)「 みんな無茶しないようにな 」
(コーちん)「 当主様、ご出陣ー!」
(時の炎)「 …、」
(1ヶ月が経過)
────【龍穴鯉のぼり】─────
ザアァァァァァァァァーーーーーー…ッ
(滝水)
「ーーー…ドドドドッ!」
初陣の成果は上々で、
初めの1ヶ月は伊吹さん達の援護で戦い方を学び、
生前 父さんから訓練で受け継いだ弓使いの奥義を使える機会を伺っていたが、
残念ながら奥の【龍神の社】までは辿り着けなかった。
その代わり、
バサッ!
(光輝)「 ぃち、にぃ、さん.. よん…… 4本も新しい巻物か。こりゃ銀兵達も喜ぶぞ。」
(麟子)「 どれも貴重な術の巻物みたいね、えっと… 」
(※萌子 石猿 富士山 壱与姫 )
※【 萌子 】 …味方単体 攻撃力大
※【 石猿 】…味方全体 防御力大
※【 富士山 】…敵単体 火属、土属性の特大ダメージ
※【 壱与姫 】…味方単体 体力全回復
(伊吹)
「 それと…※奉納点だ。(※水母くらら解放 ) 」
※奉納点…( 一族が子供を残す際に神と交わる交神の義で必要となる数値 )
※【水母ノくらら】解放… (本作俺屍ゲームでは天界の女神であり2では中ボスの役割として登場する)
(当主)「 良かった、──…っ!」
(麟子)「 当主様? あ、大丈夫?初めての戦いだったから豆がつぶれちゃったのね。」
(コーちん)「 うぇ~…痛そう…。当主様大丈夫?」
(当主)「 うん、平気だよ 」
(伊吹)「 一度帰還しよう。十分な戦利品も手に入ったし、みんな技力がもう限界だ。2ヶ月ぐらいが頃合いかもしれない 」
(当主)「 そうですね、戻りましょう。」
─────そして、
(銀兵・武比古)「 御当主っ、みんな 」
(当主)「 ただいま。」
(光輝)
「 当主様の初めての初陣、ほら 見ろ、こんなにすごい戦利品が勢ぞろいだ。」
(武比古)「 術の巻物じゃないか、石猿まで 」
(コーちん)「 これで新しい術を誰が最初に覚えるか競争だね!」
(銀兵)「 御当主、ケガは?」
(当主)「 平気だよ、少し弓を引きすぎて豆がつぶれちゃってるけど、大した怪我じゃないから 」
(伊吹)
「 早い時期でもう前列で戦えるようになったからこれからは自分一人でも大丈夫そうだ。」
(武比古)「 そうか、なら次は俺も出陣する。」
(コーちん)「 あっ、けど当主様 」
(当主)「 …出陣はしばらく延期に。皆にはしばらく交神の儀をやってもらいたいんです。元服を迎えた人達の大事な役目もまだ残ってますから 」
(銀兵)「 そういえば、御当主以外全員… 俺達だけじゃこの屋敷はちょっと静かな気もするし、また賑やかになるだろうな。」
(麟子)「 ホント成長が早いわね、私たちも 」
(伊吹)「 子孫か……。」
(コーちん)「 ねっ、ね 当主様、誰を交神の儀に指名するの?」
しばらく考えたのち、当主様はその人の名前を呼んだ。
(当主)
「 武比古さん…に、お願いしたいと思ってるんですけど ダメですか? 」
(武比古)「 俺か?けど俺は年数も結構いってるしなぁ。時期的にいったら銀兵達の方が…。」
(麟子)「 いいじゃないの、それに 拳法家の血筋は初代からずっと長く続いてるんだから子供は残していかなきゃダメよ、素質も強いんだし 」
(伊吹)「 生きてるうちに子供の顔だって見たいだろ? 」
(武比古)「 変に期待するな(笑) ………でも 確かに俺の母親は、最後の命を交神の儀に使ってあの世に逝っちまったからな・・。せめて顔くらいは…って、思ったよ。」
(全員)「 …………。」
皆がみんな自分の両親の側で育つ人は多くはいない。
武比古さんのように親が自分の命を
ギリギリまで神に捧げる奉納点に使い
まだ見ぬ子に
託す子孫が何代かずっと続いていたらしい。
「 …………………。」
【初代当主】
「 ※ “ 子孫に短命の呪いを背負わせたのは俺だ。だが 詫びるつもりは無い、苦しい時は俺を恨め ” 」
※ “ そして一歩でも前へ… ”
「 ※ “ 子供達よ、俺の屍を越えてゆけ ” 」
(※俺屍2 本編初代当主遺言)
【 ※ 歴代子孫遺言 】
【※薙刀士】 “ ごめんね… 私達の代で終わらせるつもりだったのに ”
【※剣士】 “ お前らの痛み 全部俺によこせ。
.. あの世に持っていく ”
【※大筒士】“ 見送るのも辛かったけど見送られるのもさびしいもんだな ”
【※弓使い】“ 振り向かず 行け “
(全員)「 ────、」
(当主)
「 ( 父上…。) 」
一族を死に追いやり
更に【短命】と【種絶】の呪いをかけたのは、
憎き宿敵【阿部晴明】だった。
(当主)「 ………。」
(武比古)「 それじゃあ せっかく御当主が配慮してくれた貴重な機会だ、俺もしばらく1ヶ月ほど戦いから離れるよ。お先に 」
(当主)「 お願いします。」
ギギィィィィーー . . .
…、
(天界の扉)
「 バタンッ。」
(全員)「 ………。」
【種絶の呪い】
一族が晴明にかけられた【短命】に並ぶもう一つの呪い。【普通の人と交わり子を成す事が出来ない】。
その為、子孫が生き残る手段はただ一つ、
【神と交わり子を残すこと】。
親から何世代も重ねて強い血を引く子供達を残し、
いつか宿敵である阿部晴明を倒して
一族にかけられた呪いを解くこと。
それが亡き先祖から今に継いだ遺志であり
戦い、
子孫の未来のために
短い命を 懸命に紡ぐことが、
(武比古)「 ───・・」
【 愛宕屋モミジ 】様と交神。
晴明打倒への 一族の “ 悲願だった。”
(コーちん)
「 おめでとう武比古様!」
「 すっごく、元気な女の子が生まれたよ!」
(赤子)
「 ──…! ────!!」
(万里誕生)。
────その1ヶ月後、
武比古に続き、天界の扉へ向かうのは伊吹だった。