(コーちん)「 ハッ!いけない、あっしも家のことしなきゃ…!万里様と亜乱様、お二人共ちゃんと部屋で養生してるかな? 」
「 当主様、すぐに戻ってくるからね。ゆっくり休んでて 」
パタパタと久しぶりに家の中が賑やかにコーちんは駆け回っていた。
(雨)
ザアァァァァァァァーーーー ……。
(その半刻後…)
ーーーーー …、 ……… 、 、、… 。
(雨が上がる)
やがて、
「ピチョン…。」
空には雲の間から晴れ間がのぞかせていた。
(当主)「 ……。」
ジャリ…ッ、
(足音)「 …サク…、………ザクッ…。」
“ …… 、.. ? ”
「 ( 誰だ… ) 」
(???)
「 当主様 … 」
(当主)「 …ーーー 、どなた… か?」
今まで病に伏せ起きることすらできなかった当主様がおもむろに目を開け、ゆっくりと声の主の方に首を傾けた。
………………………、
(???) ( にっこりと微笑む )
なんと女性だった。
それも不思議と当家にとけこむような人柄の雰囲気を漂わせ桃色の着物ととても綺麗な花の髪飾りをしたメガネの似合う女性だった。
(???)
「 … 当主様、気分はいかがですか?」
(当主)「 …… 貴女は… … ? 以前どこかでお会いしましたか…?」
すると女性は優しげにまた微笑んだ。
(???)「 いいえ、当主様とは初対面です。こちらの当家の方々とも..。」
(当主)「 ……。そうですか、こうして… 不思議と、貴女が他人の様には思えなくて… ………急に申し訳ない どうか気にしないでください…。」
(???)(首を振る)
(???)
「 ーー… 、いいえ 当主様からそんな風に言ってもらえて私は嬉しいです。…お側に来てもかまいませんか.. ? 」
当主は優しげにゆっくりと頷いた。
……………………、
(???)
「 … 耐え難い 辛い苦しみを患ってしまわれたのですね…。 」
(当主)「 ……、何か..ご存知なのですか? 」
スッ…
(当主)「 …… 、」
(???)「 …もしまた アザが暴れれば、短命の作用が辛い神経を蝕み、貴方の体を苦しめてしまう… 。」
(当主)「 短……… 命…. どうしてそれを… 」
(うつむく)
「 ーーー… 、・・・・。ごめんなさい… 当主様。今の私にはどうしてあげられることも出来なくて… 」
(当主)「 ……、」
この人は多分、その昔 当家とは何らか縁のある女性 だとそんな風に感じられた。
ただ、深い事情までは知ろうとはせず、今は客人であることに変わりはなかった。
(当主)
「 ……お気遣い痛み入ります。…どうか..涙を拭いてください…。」
(???)「 ーーー…. すみません、私ったら当主様の目の前でこんな.. 」
(当主)「 驚きました… 短命の事も......... 当家に突然貴女のような綺麗な客人が訪れるなんて 」
「 ここには訪ねてくる客人は滅多にありませんから…… 」
(???)「 ご迷惑でしたか . .? 」
(当主)
「 …とんでもない。自分がもう少し元気だったら……ゆっくりとお話も聞けたのですが残念です。」
─────────────── … 。
(空を見上げる)
(???)「 ……。またもうじき雨が降りそうですね 」
(当主)「 良かったら… 貴女の名を聞いてもいいですか?」
不思議なメガネをした女性は当主の手をギュッと握り最後にその名を明かした。
(???)
「【イツ花】と申します。当主様、あともう少しの辛抱です。きっといつか 近い日に、貴方がたにかけられた呪いも消えます。….どうか希望を捨てないで… 」
(涙を浮かべる)「 ……。」
(イツ花)「 明日をバァーンとォ、信じましょ 」
(当主)「 ーー…。」
(コーちん)「 当主様っ あれ…? ……!!」
ポツ… ポツ………、 ーーーー・・ サァァァァァァ…。(雨)
(当主)「 ………、」
(コーちん)「 当主様.. 起きて…… 」
(当主)「 コーちん、…今日はなんだか気分が良いんだ。世の中不思議な事もあるんだな…。」
(コーちん)「 ───、」
当主様はずっと雨の降る庭を見つめたまま、穏やかな表情で皆の帰りを待っていた。
(雨)「 ーーーーーーーー……。」
そしてそのまま1ヶ月が過ぎ
季節は2月に入った。
先月から討伐で屋敷を出ていた陸様達も全員、大きな怪我も無く、みんな無事に帰ってきて万里様と亜乱様も傷の方はほぼ完全に回復していた。
そしてみんな無事に帰還した事を当主様に報告するため全員奥の間の部屋へ集まった。
(陸)
「 父上、失礼します。」
陸の後方に続いて季子、七瀬、亜乱、万里が並んだ。
(季子)
「 当主様、討伐部隊全員無事に帰還致しました 」
(万里)「 私も亜乱も体の方は長期休養に努め万全に回復しました、改めてまた明日から討伐部隊に戻ります」
(当主)「 皆… よく帰ってきてくれた…、万里、亜乱。二人共すまなかった.. 自分が当主でありながらお前達には色々と無理をさせてしまったこと… 不甲斐ない 」
「 ……。許してくれ… 」
(亜乱)「 そんな、当主様 俺達は..っ 」
(万里)「 当主様の恩ため最後まで共に戦いに身を置く事が..それが私達の誇りです。」
「 そのお気遣いだけで十分、私達には勿体ないくらいです 」
(当主)
「 ………。 季子.. お前達の部隊は 」
(季子)「 最後の百鬼祭りの晴明の居所が掴めました。場所は… 1月の【竜宮渡り】」
「 最後の宝具、【※雪見ノ礼杯】もそこに… 」
(※晴明に奪われた宝具の一つ)
(当主)「 …ようやく.. ここまで来たか…。 ……ッ!! 」
ガタッ!!
(全員)「!!当主様っっ!」
(当主)「 いいっ、かまうな。……皆、よく聞け 特に陸、お前に伝えておきたいことがある。……今日限り…いや、今の内に.. 」
(七瀬)「 当主様.. 」
(うつむく万里)
(季子)「 ….……。」
(亜乱)「 … 」
(陸)「 とっ…!」
(当主)「 陸、今から【第十一代目】、お前は新当主として今日からは初代の名を名乗れ。今後は皆を引っ張って当家の当主として立派に一族の責務を果たすんだ。……もう、俺がいなくてもやっていけるな?」
(陸)「!!」
重い沈黙が続く中、皆が心配そうに陸の顔を見る。
(亜乱)「 ……。」
亜乱が震える陸の肩に優しく手を置いた。
(陸)「 ーー… 」
伝えなきゃならない。
オレは父さんに言わなきゃ、きっと一生後悔する。
(季子)「 七瀬、あんたもそんな顔するんじゃない。しっかり顔を上げて当主様を見るんだ 」
(七瀬)「 ーー…ッ 」
「 ( 当主様っ!) 」
(万里)「 陸、」
(手)
ギュッ..
(陸)「 …っ! 父上、この命に代えても…必ず晴明はこの手でオレが討ちます!」
「 当家の初代の名に恥じぬよう十一代目として今日からはその責任を立派に全うすること、父上の意志は決して…忘れません。」
(陸)「 俺、父さんの息子でよかった。」
「 …………… ありがとう。」
(当主)「 ..!」
「 … ────。」
立派な決意を向けられた陸様の言葉を最期に. .
(当主)「 ( …… ) 」
ーー … 。(涙)
(まだあんなに小さかった頃の陸)
” ちちうえっ ”
──── . . 、その風景には、
まだ陸にとって純粋に宿命もなかった頃、
無邪気に飛びついて遊びたがる幼い陸を高く抱き上げながら幸せそうに笑う自分の姿がそこにいた。
どこまでも空だけは青く高く、そして澄んでいて…
(込み上げる嬉しさが視界を滲ませる)
………… 。
命の炎が最期の時をついに迎えた。
(当主)「 …コーちん…、世話になったな。みんなも今まで…本当に感謝している 」
(コーちん)「!? やっ… ダメッ!当主様っっ!!」
(全員)「!!」
(当主)「 …… 万里も季子も、七瀬も亜乱も… お前たちがずっとこの家を支えていてくれたから、俺は今まで陸の成長にも恵まれ、十代目を... 立派に全うする事が出来たんだ…。」
「 言葉だけじゃ本当に言い足りないくらい皆には礼が言いたい…… ありがとう。」
(万里)「 当主様…っ 」
(コーちん)「 う…っ!! ヒッグ…ッ!」
(亜乱)
「 … コーちん…。」
(陸)「 …… 父さん.. 」
(若宮)「 ……、 ※明日どこを攻めるか俺が生きてる内に決めろ 」
「 陸。」
※ それが父さんの本当に最期の遺言だった。
(全員)「 ……、」
(父親の手を強く握る)
「………………。」
(陸)
「 皆、きいてくれ 」
(コーちん)「 ーーー… 」
(全員)「 ……。」
(陸)「 明日からはまた新たな【富士見ヶ原】の樹海、【常盤ノ社】へ向かう。そこに待つ太照天昼子様の天界の神と一戦交えてきます。」
「 それが終わったら… 」
(陸)「 俺は夜鳥子さんを復活させ、皆と来年の1月、晴明との最後の戦いに挑むつもりです 」
「 ( 宿命の連鎖も自分で最後にしたいんだ。) 」
カタッ、
(父の形見を手に取る)
(陸)「 ─── … 行ってきます、父さん…。」
ポタ.. ッ
「 …ーーーーーーー 。」
握られた手に息子の涙が伝い落ちた。
” 心配はいらない、この家の者達はみんな強い。”
“ ──────── …… お前さま・・ ”
(天竺姉妹)
“ 大義であったぞ。”
「 …… 。」
(微かに微笑む当主)
… 段々と 冷たく心臓の音が遠のいていくのを感じながらもこの満たされたような幸せは …………
" 辛かった日々も、
後に託せる者達がいてくれたから ”
先に逝くひとり一人が、 俺も………
(若宮)「 、…… 」
(最後に何かを伝える)
" 進むんだ ” … と。
(亜乱)「 !? 当主様っっ!!」
(全員)「 当主様っ!」
" 救われたんだ. . . 。”
スッ…
(若宮)
────────── .. …… 。(息をひきとる)
(陸)「 …っっ!! 」
───1133年 二月。
【若宮】
(1131年、第10代目新当主として就任)
享年 1才9ヶ月の命でこの世を去った…。
歴代史上最も信頼関係を厚く築き、
その功績は、二つ目と三つ目の祭具奪還を成功させ強敵な鬼頭から勝利へ導いた男だった。
その最期は苦しみのない穏やかな表情で彼もまた、歴代当主としての役目を今、終えたのである。
「!!」
コーチンや七瀬達はその場で泣き崩れ
亜乱もまた当主の死を深く痛み皆声が無くなるまで涙した。
(もう二度と物言わぬ父)
(陸)「 うっ…! うぅぅ!! ーー…ッ
!うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーーっっっ!!!」
……──────────────。
その日の夕暮れ、
( 若宮の葬儀が終わり先代当主であった父の墓に線香をあげる陸 )
「 ..... ───── … 」(塚山の冷たい風)
(故人の討伐衣装)
バサバサッ… ………
ザクッ!
(矢を突き立てる)
(陸)「 ……。」
もう、何も言うことはない。
左手には先代の父の形見として受け取った代々当主となる者が受け継ぐ特別な弓を握りしめ、
ただ、
その黒い瞳には確かな決意と光を宿していた。
(陸)「 ……、」
───しばらくして、
(万里)「…陸、」
(陸)「 …? 万里姉ちゃん 」
(万里)「 もうじき夕飯よ あんたの気持ち…痛いほど分かる…。だけど、いつまでもここにすがってちゃ前に進めなくなるわよ 」
(陸)「 うん。大丈夫、分かってるよ。俺もちゃんと父さんに別れを言えたから、…あのさ、万里姉ちゃん 」
(万里)「 なに? 」
(陸)「 俺が生まれる前の父上は…父さんはどんな当主だった? 」
陸の質問に初めて万里もここで昔を思い出すように当時の若宮との思い出を語った。