(伊吹)「 じゃあ、行ってくるよ 」
交神の儀を迎える度に、
それだけ皆の寿命も刻一刻と迫ってきているということだった。
(武比古の娘、万里が当家にやってくる)
……そして 運命の別れが近づいてきた。
ダンッ!
(武比古)「 ..!?」
(一撃がまるで入ってない感覚に襲われる)
「? とうさま…?」
【万里】
(拳法家) 0才2ヶ月。
(武比古)「 ………。」
(手足に痺れを感じ始める)
「 ──.. 。」
(幼い万里)
「 とうさま 大丈夫? ここ… いたい?」
(武比古)「 ん、あぁ。大丈夫、心配ないよ さ、お前は打ち込みを続けるんだ 」
(万里)
「 うんっ。……えい!やぁっ!!」
ダンッ‼︎ ドスッ..!
娘の方が確実に一撃が入っている音だった。
武比古自身、その音は戦いの中でいつも感じていた僅かな打ち込みの音でも聞き分けられる、絶対音感が備わっていた。
(万里)「 はぁッ!」
それは娘の素質を感じられた嬉しい反面と同時に寿命の動揺も隠しきれなかった。
(空を見上げる)
(武比古) 「 ………。」
「 ( …もう 討伐は無理だな…。) 」
と、その時だった。
タタタ..!
(???)「 万里ーっ あそぼ!」
【季子】
(槍使い) 0才1ヶ月。
伊吹の娘である。
(万里)「 あっ!季子だー!!」
(伊吹)
「 こらこらっ お前は修行だろ、目を放すとすぐに抜け出して……っんとに・・。」
(抱きかかえられた季子)「 ………?? やッ!万里とあそぶの!!」
(頬をつねる)
グイィィーッ!!!
(伊吹)「 !? いででででっ!!こっ.. こら、季子っ!」
(季子)「キャハハハッ!」
かなりのおてんばであった。
(万里)
「 ────── …・:*+.、万里もやるっ!」← 好奇心旺盛。
(武比古)「 やらんでいい。」
(伊吹)
「 イテテテ…、全く・・困ったもんだなあのおてんばは、あの人【黄金ノ二荒】様に似たんだなきっと 」(二人を遊ばせる)
(武比古)「 元気だな季子も(笑)。うちの万里も何でもかんでも興味に行ってじっとしてられない落ち着かなさはウチの女神様と同じだ 」
(伊吹)「 お互い苦労のかかる子が、ホントは可愛もんだよな(笑) あれくらい元気なのが丁度いい。…最初、槍使いの職業だって嫌がらず自分からやりたいって言い出した時は嬉しかったな 」
「 女の子だからあまり向かないんじゃないかって心配してたけど、おかげで【奥義継承】の心配はしなくてすんだ 」
(伊吹)「 季子達には辛い思いをさせてしまう事になるが…すまないと思ってる 」
(武比古)「 ……そうだな…。」
(光輝)
「 おっ、いたいた。おーい 二人とも当主様が皆を呼び集めてる。出陣だ!」
(銀兵も一緒)
(伊吹)「 ? おっと、何だか久しぶりだな 」
(季子)
「 とうさまーっ 」
(武比古)「 季子、万里 お前達はここで修練をしているんだ 」
(伊吹)「 すぐに戻る 」
(二人)「 はーい!」
───当主の部屋───
(お茶を出す)
(コーちん)「 はい、当主様。」
(当主)「 ありがとう コーちん。」
(銀兵)
「 それで、次は何処へ出陣予定に?」
(当主)「 少し長い期間になりますが【焔極道】へ行こうと思っています。奥の【火天の社】までの討伐部隊は心技体、火属性の能力に長けたメンバーを選抜するつもりなので最低でも3ヶ月は…その間の出撃隊は……、」
当主が内部地図を広げた時だった。
(武比古)
「 …御当主、申し訳ないが俺は今日から討伐部隊を抜けて万里の強化訓練に当たらせてもらいたい 」
(伊吹)「 武比古?」
(光輝)「 …?」
銀兵が何かに気付いた。
(銀兵)
「 !? その首のアザ…… 」
(当主)「 …!」
( 銀兵の言葉に全員その意味を知る )
(伊吹)
「 お前…。」
(武比古)「 今の俺は、皆の足手まといになる。すまない 」
皆も動揺が隠しきれなかった。
(麟子)「 ……、」
(コーちん)「 …………。」
(当主)「 …出撃するメンバーは、俺と麟子さん、銀兵さん 光輝さん この四人で【焔獄道】へ明朝出発します。武比古さんと伊吹さんは万里、季子の【奥義継承】の初陣訓練の指南についてください。…………、」
(武比古)
「 お前がそんな顔するな。大丈夫、皆無事に帰ってくるまで待ってるさ 」
(光輝)「 武比古… 」
(万里)「 父さまーっ! 」
(当主)「 各自、出撃部隊は明朝まで待機。その他は全員、自分の持ち場へ戻れ 」
「 コーちん、夜には皆の討伐衣装を頼む。」
(コーちん)「 はい、」
(伊吹)「 ……。立派になったよな、若宮 」
(武比古)「 あぁ、俺もそれが嬉しいんだ。あいつを見ていると 当主として戦地に赴く横顔がいつの間にか… 」
” 先代の右京に段々と似てきたような気がして… ”
(武比古)「 あの世から帰って来たんじゃないかって一瞬思わせられるんだ、若宮には 」
(伊吹)「 家族が、一丸となるために.. 当主たって、どんな時も毅然としてなきゃならない辛さは俺達みんなそれを分かってる 」
だからこそ 越えていかなきゃならない悲しみも
やがて強さとなって俺達は成長してゆく。
(武比古)
「 何度経験しても慣れないもんだな いざ自分の番となると 」
“ まだ 戦いたかった ”
(伊吹)「 …。よせよ、お前らしくもない。それに俺達にはまだやる事がある 」
(二人の娘たちを見る)
(修練に励む季子と万里)「 ───!」
(武比古)「 そうだな、奥義を継承させて万里もいつか俺の代わりに御当主を支えられる立派な拳法家にしないと 」
沈んでる場合じゃない。
「 ありがとな、伊吹 」
(伊吹)「 ──…。だから礼なんか言うな、お前らしくもない 」
“ 俺は… ”
“ 晴明が憎い ”
戦友の背中に刻まれた蛇型の鎖のようなアザは短命の呪いのカウントダウンの印だった。
そのアザは確実に命を蝕み、やがて友の命の炎を奪い去ってゆく
(武比古)「 ……。」
“ 俺達は生まれてたった2年弱しか生きられないのだから ”
ズキン…。
(伊吹)「 ッ..」
“ そして いつか自分も… ”
(季子)「 とうさま? 」
(伊吹)「 あぁ、すまん 修行だったな、少し軽く実戦をしてみるか。……………季子、」
(季子)「?」
(伊吹)「 これから先、何があっても決して泣いたりするな、父さんと約束できるな? 」
(季子)「 …? うんっ、季子 修行頑張るよ?父さまのようにいっぱいいっぱい鬼退治するんだもん。」
(伊吹)「 ………。」
俺は、
過酷な運命を自分の子供にまで小さな背中に託していくしか
一族が生き残れる術はなかった。
────…1ヶ月後。
季節は秋を迎え
紅葉が赤く色づき始めた頃だった。
──【屋敷の修練場】───
ガッ‼︎、
ガッ・・!
(伊吹)「 まだだ、踏み込みが遅い!」
「‼︎‼︎」
.… 、………ッ!!
ガツッ!
「やぁッ‼︎」
突き技を仕掛けた時だった。
「!」(伊吹)
(季子)「あっ.. ⁉︎ 」
バシィッ!!
(相手の跳ね上げに練習用の槍を落とされる)
ッララ..。
(季子)「 まだだもんッ!」
すぐさま拾おうとするが、
(伊吹)「 そこまでっ 」
父は槍で制止した。
(季子)「 うっ… 」
「 ………。」
(伊吹)「 季子、途中から槍の持ち方がおかしくなっていた。正しい構えの姿勢をとらないと、その分動きに無駄が出てくる。
だからさっきの踏み込みも遅くなるんだ 」
(伊吹)「 自分でも無意識に持ちの姿勢を変えているんだろうが、…クセを直さないと 」
落とした槍を拾い上げ伊吹は正しい構えの動作を体で一緒に覚えさせた。
(伊吹)
「 いいか?さっきの攻めと防御の基本の構えの動きはこうだ。お前のはこう、違いが分かるか?」
何となく分かってか、分からずか季子はこくりと頷いてしまう。
(伊吹)「 少し分かりづらいか… なら、その構えのまま一歩踏み込んでこい。明らかにやりにくいはずだ 」
(季子)「 ……。 やぁぁああ───っ !!」
ビュンッ!
(季子)「?」
パシッ
(父に軽く受け流される)
(伊吹)「 今、分かっただろ?」
(季子)「 槍が思うように前に出ない…。」
(伊吹)
「 …気付いたか? 今みたいに、わずかな遅れが相手先への攻撃が素人ならまだしも、熟練者なら最初から今のタイミングは一瞬で見切られてるぞ。」
「 何を仕掛けるにも先手を打つため、相手に予測をつかせないその為の職業に自己流はつきものだが、それはあくまでも初心の基本を重ね習得してからの話。」
(伊吹)「 だから、いざという戦いの時 初心者がいきなり難易度に対応できるかというと、絶対に出来ない。戦いも自己流も、全て基本の形がみんな完成してるからこそ熟練者は相手をよく見て柔軟に戦いの対応が出来るんだ。
でもお前は、まだ危険すぎる。」
(伊吹)「 基本ができてないままそんな攻め方をしていたらいつか確実に死に繋がるぞ。」
(季子)「 はい。」
まだ芽吹いたばかりの季子の素質は、
間違いなくこれからの伸び代の血を引いていることは父親自身が一番よく分かっていた。
本人が未熟を焦ることよりも、
彼は一つ一つの教えを確実に押さえていく大切さを
何より自分の生涯にかけ娘に残してやれるよう
、優れた強さを備えた志を持つよう季子に指南した。
(伊吹)
「 少し休んだらまた同じ実戦だ。そろそろ初陣に向けて本物にも慣れるぞ 」
(季子)「 父さまの槍? 」
その時だった。
ドサッ!!
(万里)「 …! 父さまっ、 父様!?」
(二人)「!?」
(季子)「 …? 万里の声だ! 父上っ!」
(伊吹)
「!? 武比古っ ……!!」
(武比古)「 ハァ…、ハァ..ッ!ハァ………。」
顔中汗が吹き出て額に手を当ててみると
異常な熱があった。
(体のアザが動き出す)
ググ…ッ。
(伊吹)「!!」
(万里)「 ちちうえ、ちちうえ!!やだぁっ!起きてよ父さまっ!! 」
(伊吹)
「 ……、万里っ 季子は薬と寝床を用意するんだ 早く!」
「 ( 武比古…っ ) 」
──────────…。
(夕方)
(烏)
「カァ… カァ…。」
三人で武比古の寝床を囲みずっとうつむいたままだった。
(万里)「 うっ…ひっく… 」
(季子)「 ……。」
(伊吹)「 …………… 」
「ガタンッ!」
玄関先で急いでる足音が聞こえた。
討伐に遠征していたメンバー達が何らかの知らせを受け、急遽 戻ってきたのだ。
(伊吹)「 ……。(この音は… ) 」
「バタバタバタ…!」
───…パンッ!!
(季子)「とうしゅさまっ 」
(当主)「!?」
(銀兵達)「 ……!」
(武比古)
「 ─────…。」
(当主)「 武比古…っ ……武比古さん!!」
(麟子)「 伊吹… 」
「 ………… 」
(黙ったまま首を横に振る伊吹)
うつむいた顔の表情が影でよく見えない…。
そしてその様子を見た若宮は一瞬でその意味を悟った。
(当主)「 ────…。」
──1131年10月。
【武比古】
2才0ヶ月 永眠。
時すでに遅し…
武比古は息を引き取った後だった。
(銀兵)
「 最期を…看取ったんだな…。」
(伊吹)「 …死ぬ間際にあいつは言っていました。“ この家に生まれてきて俺は後悔なんてちっともしなかった ” 」
「 ※ 後の事 よろしくな 」
(光輝)「 武比古…っ、……うっ!」
(コーちん)「 …当主様、あの人の分まで生きることが何よりの供養だよ。あっしは… あっしはずっと先代当主様達のこと見てきたから…うまくは言えないけど、でも武比古様は… 」
(当主)
「 いいんだ、コーちん..。もういい。皆もありがとう、万里。」
(万里)「 …はい 」
(当主)「 辛いだろうが、もう 涙をこらえるんだ。あの人もきっとそれを望んでる 」
「 お前達も、これから一度 戦いに出れば、泣き事はもう許されない。親から受け継いだ力、無駄にするな 」
(季子)「 ……、季子も戦う 」
(万里)「 …ッ とうさま… 絶対あたしが父さまの代わりに晴明を討つから…。」
(伊吹)「 お前達… 」
そして後に
これから成長してゆく万里、
季子に続く銀平達の子供
新たに【七瀬】(剣士)、【亜乱】(薙刀士)の誕生により これからの強い戦力が加わろうとしていた。
───それから間もなくして、
1131年11月。
【根の子参り】
「 …!!」
(駆け足で奥へ進む討伐部隊)
──────……
(コーちん)「 ! 当主様、あれ!あそこに誰かいるよ?」
(当主)「!?」
「 ( アレは…?【黄川人】) 」
(万里)「?」
どこかで見覚えのある大きな祭り神輿が降ろされている場所に黄川人は立っていた。
(黄川人)「 やぁ、よくここが分かったね。へぇ、にしても もうこんな所まで。その分じゃ君達も討伐は順調にいってるようだね 」
(当主)「 黄川人、じゃあ【 三つ目の祭具 】はまさか… 」
(黄川人)「 ご名答。三つ目の祭具、【花見ノ瓶子】はここ、根の子参りで3月に【百鬼祭り】が開催される。残念だけど今は晴明を討つにはまだ早いってワケさ 」
(季子)「 簡単には入れないのね 」
(黄川人)「 三月にまたこの場所に来るといい。今度は【夜鳥子】さんを連れてね。」
(当主)「 分かってる。三月だな? 皆、先を行こう ……!? 」
全員何かの気配に気付いた。
「!!」
(黄川人)「 …!」
(万里)「 当主様? 」
(伊吹)「 …!( この声は…。) 」
ザワッ…。
(???)
「 皆さん ようやくここまでたどり着けましたか… 」
地面に五行星の魔法陣が浮かび上がった。
(全員)「!」
(季子)「 …、この魔法陣って… 」
(当主)「 ( まさか…っ!? ) 」
(黄川人)「 ……、僕の目の前で大胆に現れるなんてね 」
「阿部晴明っ!!」
(鬼頭)「 なぁ..オイ、何だかにぎやかだよなぁ、晴明 」
【阿部晴明】「 フフ…、なるほど 初代に見たときと一族の力もだいぶつけてきたようですね。私がかけた【短命】と【種絶】の呪いが皮肉にもあなた方を強くする根源となった 天界の神達も手を貸したがるわけです。」
(万里)
「 ッ!、お前が、父さまを……っ!」
(当主)
「 ( 何故 今、このタイミングで奴が…? ) 」
しかし黄川人だけはおかしな様子で
晴明に問いかけた。
(黄川人)「 もっとも、それを分かった上で、わざと僕ら(神々)に夜鳥子さんを復活させるために彼ら一族をあんな罠にはめてまで呪いを負わせたんだろ?」
「 一つは自分の目的利用として 」
(晴明)「 ほう、貴方は...? そうですか、あちら側の天界の神、..ですね。」
(黄川人)
「 姉さんはこうなる事態を特に驚く様子もなく、あっさり彼女の封印を解いちゃったけど……… 気に入らないね。」
──…ッ‼︎
「…キィンッ!」
(伊吹)「 ! あれはっ!?」
(コーちん)「 黄川人様が ………。」
「 …………。」
【朱星ノ皇子】
(太照天昼子の2位につく天界の男神)
(朱星ノ皇子)
「 ここへ来た理由はなんだい? 調査がら事と次第によっちゃあ、僕も黙ってられないんだけどね。」