(当主)「 夜鳥子、ありがとう。俺達が今こうして宿命から解き放たれてここまで戦って来られたのもお前が陰ながら戦いに支えてくれていたおかげだ 」
「 俺達の方こそ感謝している。」
(亜乱)「 …… 寂しくなるな。あんたも今度はゆっくり休んでくれ 」
(七瀬)「 ありがとう。夜鳥子 」
(子供達)
「さようなら…。 」
(夜鳥子)「 ーー…ではな。」
優しい微笑みを残して夜鳥子は最後に冥界へと消えていった。
──────────── … 。
やがて京の都を覆っていた暗雲の雲は次第に引き赤い夕日の光がオレンジ色に京を染めていった。
(町人)「 ..!? 空が…. 」
(兵士)「 バケモノが消えた!?」
── (御所) ──
(帝)「 朕は今まで何を…? あの者達がやったのか? かの者達はどこだ!?」
帝は晴明の支配から正気を取り戻し、
しきりに彼らの姿を全兵士達はくまなく都中探したがそこにはもうあの一族の姿はいなかった。
そして…
何度目の春を迎えただろう。
ある庭の一本の若い苗木だった木が長い年月を経て
ようやくしっかりと大地に根付いた頃だった。
??年後・・・。
京の都から少し離れた山里では紅葉の季節が近づいていた。
(お墓の花)
サワ…
「 …………。」
屋敷を少し出て歩いたところに平野の墓地がある。
そこには数えきれないほどの土を盛った塚一つひとつに線香が上げられていた。
(老婆)
「 ……。」(手を合わせる)
リィイィィン…、リイィィン……。
(足音)
「 ……、」
(???)「 母上。」
(老人)「 …? おや、雅彦。いつ帰ってたのかい?」
(孫)「 ババさまっ!」
ガバッ!!
(老人)「 ? おぉ、凛ノ助、お前も来ていたんだねぇ。よしよし…。あぁ、大きくなって。お春さんもよく来てくれたねぇ 」
(凛ノ助)「 えへへ。ババさま元気だった? 」
(お春)「 ご無沙汰しておりました、義母上」
(雅彦)
「 家に居ないから探してきてみれば、やっぱりここへ来ていたのですね 」
(老人)「 それよりも 仕事は? 都での役職はいいのかい?」
(雅彦)「 はい、ようやく休暇もとれましたし一度、母上のいる実家に戻ろうと思って 」
「 母上もその後、お変わりはないですか? 」
(老人)「 大丈夫だよ、あんたは心配性だからねぇ、早々体も悪くできないよ 」
(凛ノ助)「 ババさまっ、ねねっ!ボクおはぎが食べたいのっ、あんこたっぷりババさまの大きなおはぎ!口いっぱい全部食べちゃうんだ!」
(お春)
「 もうこの子ったら、道中でも義母上のお萩がどうしても食べたいってはしゃいじゃって 」
(凛ノ助)「 もしかしてババさまのおはぎ… もう無いの..? 」
(老人)「 そんなに食べたかったのかい? たぁんとあるよ。ばぁばのお萩、凛ノ助の為にいつもこしらえてあるからね。まだ残ってあるよ 」
(凛ノ助)「 ホント!? やったぁー!ババさまのおはぎいっぱいたべられる!ねぇね、早く早く!」
(お春)
「 これ、凛ノ助。もう少し待ちなさい、ね?
……ごめんなさい この子が… 」
(老人)「 いいんだよ、お春さん。丁度ご先祖様の供養も終わったからね、凛ノ助の元気な姿を見てあの人もきっと喜んでくれているよ。..さぁ、雅彦達も家に帰るよ、ゆっくりしていきなさい 」
(雅彦)
「 …….、母さん.. 」
ふと真剣な表情で息子は呼び止めた。
(老人)「 …? どうしたんだい 」
(雅彦)「… 母さん、一緒に京へ暮らそう。俺達みんな家族なんだし、母上の気持ちは分かります…。でも、俺達一族はもう…っ 」
(老人)「 ……。雅彦、いいんだよ。私はご先祖様が暮らしていたこの屋敷も、静かで豊かなここの土地がみんな好きなんだよ。ここは小さな頃からあたしも自分の両親と暮らして父母もこの墓に埋まりたいと言ってそれは幸せそうだった。」
「 辛い宿命から解き放たれ、今や私ら一族はようやく帝からの信頼も取り戻し、ご先祖様が成し得た偉業のお陰で天子様に招き入れられる身分にまで息子のお前がやってくれているから、これ以上望むものなんてないよ。」
(老人)
「 あたしは今が幸せなんだよ 」
(雅彦)「 母上… 」
(老人)「 可愛い孫にこんな清楚で優しいお春さんまで縁があって凛ノ助を授かったんだ、あんたもこんな当たり前の日常をちゃんと家庭を築いてかなきゃバチが当たるよ 」
(雅彦)「 分かってます。….生前 父上も同じことをよく口にしていましたから 」
………………。
ここに、どれだけ先祖達の血が大地に流れたのだろう… 。
錆び付いた刃、折れた矢羽に血の滲んだ布が風に流され 母は今でも長い間ここで俺の曾じいさん、またはその前より祖先が過ごしてきた時と同じこの屋敷に一人残り供養を続けている。
それは……
(ひんやりと冷たい土)
(雅彦)「 ……、 」
自分達の先祖が今に至るまでどれだけの苦難を乗り越え想像を絶するような日々の中で生きてきたのか
その子孫達が忘れないためにも自分達が出来ることは…
(凛ノ助)「?」
追悼と感謝の意味を込めて今この幸せな日常を未来へ
そして最後には祖先へ返すこと。
それがこれからを生きる凛ノ助達のためにも人は忘れてはならないものがここにあった。
(老人)
「 お前の曾おじいさんはね、とても立派な弓使いの当主様をやっていたんだよ。その人を最後に私たち一族の歴史は大きく変わっていった。」
「 本当に… 皆苦しい思いをしてようやく悲願が叶ったんだ… 。こんなに長生きがありがたい事に感謝の心を無くしたら人はそれだけで悲しい生き物に成り下がる 」
だから……
(老人)「 雅彦、この先何十年、何百年先あんた達が自分自身のために歩もうとした生き方は、それは先祖達の願いだったもの。」
「 あたしが死んでこの屋敷に誰も居なくなったとしても、あんた達はこれからも決して不幸な生き方をするんじゃないよ 」
特別な生き方をしろってんじゃない 。
(老人)「 ちゃんと自分に与えられた天寿を全うしなさい。いいね? 」
(雅彦・お春)「 はい。」
───────────…。
平凡な日常だからこそ決して分からない
ほんの当たり前でごく小さな幸せにまだ多くの人は気付いていないのかも知れない….。
だけど俺達一族はようやくその日常を取り戻すことが叶い、今、一人ひとりが日々の暮らしを大切にそれぞれの家庭や自分の生き方を持って歩んでいる。
(今でも故郷を思いながら武の道を極め旅を続ける槍使いや剣士だった本家の者達)
「 ────…。」
(戦いから身を引き幸せな家庭を選んだ拳法家や薙刀士など人それぞれ)
雅彦も凛ノ助を授かる前はかつては立派な弓使いだった。
(雅彦)「 ………。」
(老人)「 さぁ、みんな中へお入り。」
(嬉しそうにはしゃぐ凛ノ助)
「 わーい!!」
大丈夫 。
これからは次の世代もそのまた次の世代も未来永劫として映る背景は今度こそきっと、親子揃ってみんな幸せに暮らしている人生だと信じて… 。
(お春)「 もう、この子ったら。フフ、良かったわね、凛ノ助。」
(雅彦)「 ホントに誰に似たんだか(笑) 食べる前にちゃんと手を洗うんだぞ 」
(凛ノ助)「うんっ!」
(父と母に手を引かれ幸せそうに笑う凛ノ助)
─────── リイィィン…、リイィィン…。
誰かが優しく微笑んだ。
「 ………。」
“ 明日をバァーンとォ!!信じましょ ”
【俺の屍を越えてゆけ2 】
オリジナルストーリー晴明編・完