当主の後ろに隠れ 獣の本能が危険を察知したのか尋常じゃない怖さに急に怯えだした。
(コーちん)
「 …… ! ! 」
(当主)「! ( コーちん. .!) …… どうなってる。」
(陸)「うっ!」
(弓矢)
カシャンッ
(万里)「 当主様! いけない、陸が…っ」
(陸)
「 ハァ…… はぁっ………!..ッ 」
顔色が青ざめ血の気が引いていた。
まだ戦い慣れしていない陸は敵の強い瘴気にあてられ臓器が締め付けられたような苦しさが襲った。
(当主)「 陸… 、陸っ!!しっかりしろ!陸っっ!!」
(陸) ビクッ!
呼びかけに揺さぶられた反動で何とか正気は取り戻したものの…
(陸)「 と.. 、父さん・・」
(亜乱)「 まさかもう晴明の奴が… 」
(万里)「 とんでもない敵を送り込んでくれたわね。」
ズシンッ!!
(???)
「 ………。」
「 ───────────────────────────────!!!!! 」
(地割れ)
メキツ. .ッ …バコッ! !
ビシッ!!
(当主)「 全員退却しろ! ! こいつは、. . 戦っていい相手じゃない 」
全員すぐさま後退し全速力でその場から離れようとした時だった。
「 ……、ズズゥゥゥウウ…………… …バキンッ!!! 」
(亜乱)
「!? 危ないっ!落石だ!!」
ドシャ───────ンッ!!!
……………。
(万里と陸)「!!」
(当主)「 しまった! 」
「 ( 退路がふさがれた・・! ) 」
(コーちん)
「 そんなっ! …!?ヒイィッ!」
ザシッ!
(???)「..ゥゥウッ」
(四人)「!!」
ゆっくりとバケモノは後ろから歩み迫ってくる。
当主は一か八か、この岩たちを吹き飛ばすため向こう側の通路を貫通させる奥義の構えをとったが、その考えは周りの岩の音で望みは打ち砕かれた。
カララ. . 。 (小石)
(当主)
「 ( ……、さっきのと今のとでかなりこの周りの岩がもろくなっている ) 」
” 下手に刺激を当てれば今度は洞窟自体が崩壊する!! ”
(当主)「 … 」
今この場に残された選択肢はただ一つ。
だが…
ギリ..ッ
(当主)「 …。( どの道、この狭い洞窟の中であの巨体から逃れる隙は、前に進むしか選択肢は無い 。) 」
” ここで向かい撃つ ”
当主の目が強大なバケモノに殺気を放っている気を感じた万里と亜乱も心境を理解し、冷静に覚悟を決めた。
(亜乱)
「 戦うんですね、当主様 」
(万里)「 当主様の判断は正しい事だと思っています。万が一、私と亜乱、どちらか命を失っても私達はもとより覚悟は出来ています。」
毅然とためらいは無い。
すぐに戦闘体勢の姿勢に入れるのは、万里も亜乱もこれまで親の死を乗り越え、身に課せられた一族の運命から逃げずに培ってきた討伐部隊として
今、その重要な立場にいるからである。
(亜乱)
「 陸は防御で後列にいろ。お前はまだこれからなんだからコイツは俺達が、開花した素質を摘ませる訳にはいかねぇ 」
(陸)「 !? 僕も戦う!ボクだって…万里姉ちゃんや亜乱兄ちゃんの足手まといにはならないから…。 」
(二人の服をつかむ)
(陸)「 みんなで力を合わせれば、きっと負けないよ!」
(万里)「 陸 だめよ、ここにいなさい。」
(???)
「貴様らノ赤イ血肉ヲ…我ノ欲望ヲ満タセ。我ガ名ハ…【鬼頭】」
(当主)
「!? 鬼頭だと… !? 」
(万里)「 鬼頭って、晴明のあの… 」
(亜乱)「 仮面だけの奴が実体を持ってたのか!? 」
(揺れる地震)「 ーー…。」
(鬼頭)
「……時間切レダ 一人残ラズソノ肉体ハ全て喰イ尽クス 」
「 当主、最初ハ貴様カラダ 」
(当主)「 … 来るぞっ!」
(全員戦闘開始)
(鬼頭)
「 ─────────────────────────!!!!ッッ 」
(爆音に気付く)
「 ! 」
(黄川人)
「 …… 、… 」
・・ いつしか、
当家の歩んできた道は、
短命と種絶にかけられた
決して避けては通れない この身の障害から
生まれながら宿命に抗う生き方をみな強いられ、
子孫に託し
素質を受け継ぐ人ならざる人種の一族として俺達はこの世に生を受けた。
晴明を討つため
親の屍を土台にしてでも道を切り拓く。
先祖の流した血の海を渡ってでも悲願を果たし
ねじ曲げられた宿命から一族に正しい運命を取り戻すため…
それだけを願い
ただひたすらに前に進む力を信じていた。
だが………………
「 ビシャアッ… ! ! ! 」
── ─── ──── … 、ドロ… 。
血生臭い匂いが充満し
岩のあちこちが紅い鮮血に染められていた。
「ポタ. . . ポタッ… 」
ズルッ…。
(亜乱)「!ぁあ..!! ッ 」(岩に叩き付けられる)
もう常識レベルを超えたケタ違いの強さだった。
ブラン…。
(折れた片腕)
(亜乱)「 ……。ウソだろ 」
「( 奥義、何発あいつに打ち込んだんだ…っ? ) 」
(当主)「 ッ!… 」
(激痛が走る)
「!!!」(肋骨・アバラ骨)
(当主)
「 ッッ!……。( 何本かやられたか…。) 」
口からは既に吐血が流れていた。
グワッ!!(巨大な腕)
(万里)「当主様っ!!」
「 ドドドッ!」
通常でも鬼頭の強烈な連続爪が当主を庇う万里の体に襲いかかってきた。
(爪) ガチッ!!
(万里)「 ッ!この…っ!! 」
キィィンッ !!
(死に物狂いで左拳に渾身の力を集中させる)
(万里)
「 あんただって無傷じゃないはずよ、言ったでしょ?覚悟は出来てるって… 体力尽きたってね、捨て身で与えるダメージは何十倍もの威力を発揮するんだから 」
「 あんたは道連れよっ! 」
(鬼頭)「!!」
(万里)「 奥義、【※万里水龍掌】っ!!」
(※○○水龍掌… 頭上高くまで飛び上がり敵に突撃して大爆発を起こす)
カッ!!
水龍に似せた万里の拳が鬼頭を飲み込み
爆発の後 巨大な水柱が立った。
ドォオオン!!
(陸)「 万里… 姉…ちゃん…… 」
(万里)
「 ーー.. 、」
ザザ…。 (収まる波)
(万里)「 ハァ….、ハァ…ッ! ーーーー… 」
フラつく体勢をなんとか立て直した時だった。
ドゴォッッッ!!!
(万里)「!?」
(当主)「 万里っ…!!」
(壁に激突)
──────────── ッ.. !ダァンッ!!!
(万里)「 ゲホォッ! 」
(亜乱)「 ……!!ばっ…!?」
(石)
ガラガラガラ… ・・カラン… 。
(万里)
「 …うっ…!」
鬼頭の巨大な腕が万里の懐に強烈なダメージを与えた。
(万里)
「… ……ほんとに.. あんたってバケモノは……心臓がまるで無いんじゃないの…?」
(衝撃煙)
ーーーー…シュウゥゥゥ……。
(鬼頭)「ヴヴヴゥゥ…。」
(ほとんど無傷)
ガシッ!
(万里)「くっ!? 」
(髪を掴まれる)
(鬼頭)「 ………。」
ドグッ!ガッ!!
(万里)「!? あぐ…っ!! がっ!」
(腹に激痛な一撃を入れられる)
「!!、!!!」
(万里)
「 かはっ…!! うっ!あ…ッ!!」
(亜乱)「 やめ!…っ、やめろ!!!クソテメェ、それ以上万里に……っ!」
(当主)「..!!ッ鬼頭ぁぁっ ─────────────────────っっっ!!!!! 」
(陸)
「 万里お姉ちゃんっ!!」
(最後の一撃)
グワッ!!!
(万里)「 当主さ………… 」
ズドッ!
(鬼頭)「!? 」
「 …… … …、… 」
万里に手をかける大きな腕が宙に舞いボトリと片腕が落ちた。
(万里)「 あ.. 亜乱… けほっ… 」
(鬼頭)
「 ーーー獲物ガ…キサマ 」
ギロリと睨みつけたその先に亜乱が薙刀を片手に今までに無い殺気を放っていた。
(亜乱)「 ……。お前だけは絶対に許さねぇ。 ──…ッ! 人をモノみたいに女をなぶりやがって 」
「 バケモノがっ!」
(万里)
「 うっ!……ハァ、ハァ ッ…。」
(鬼頭)「 ……。オマエカラ殺サレタイカ 」
ドサッ!(万里を放す)
(亜乱)「 …。( これ以上、当主様や万里達を傷付けたくない ) 」
” 俺が少しでも時間を稼げれば ”
(万里)
「 待って…、 亜乱…………… あんた..、何する気… 」
「 …………。」
(亜乱)「 当主様、すみません… 俺、約束守れないかも…。皆で屋敷に帰るって… 」
(当主)「!!」
(陸)「 亜乱兄ちゃん!? 」
(亜乱)
「 誰かが道を作ってでも残る討伐隊を屋敷に、その役目を引き受けるなら俺がいい。たとえ腕の一本、持ってかれても俺はそんなにヤワじゃない。」
ジャキッ!(薙刀)
(亜乱)「 あと一回くらいなら最大奥義をあのバケモノにブチ込められる。いくら鬼頭でも、フラつかせるくらいには…その隙に当主様達はなんとか通路を、急いでここから離れてください。……、」
ビシ……ビシッ! ! (崩れかかる天井)
一瞬だけ天井に目をやった亜乱の様子が…
「!」
彼の考えてる事が冷静なはずの感情を激しく乱された。
(当主)「 ……、ダメだ亜乱、後退だ。当主の命令に背くつもりか?」
(亜乱)「 ……。出来ません 」
(当主)
「 下がれッ!!!亜乱っ!!」
(亜乱)「 嫌だっ!当主様を失うくらいなら…っ俺は…!!」
” 亜乱…… … 。 ”
物心ついてすぐだった。
───… 血の繋がった、たった一人の母さんを失って
誰にも、親にもすがれない
明日から一人だと当家の事もまだ何も分かってない幼い孤独感はどんなに怖かったか…。
(幼い亜乱)
「 とうしゅさま… 」
(線香が立てられた麟子の墓前に彼岸花を添える)
(当主)「 ……。」
(当主)「 大丈夫、お前の事は母親の麟子さんに代わって俺が 」
「 側にいる、 だから 安心しろ。
・・・・・。よ……っ..と、」
(亜乱)「 …?」
(当主)
「 こうして周りがいれば、きっと見えなかった景色が今はちゃんと良く見えてくるだろ? 」
─────… (肩車)
(豊かな自然やそびえ立つ山々に囲まれる)
(幼い亜乱)「 ────… ……、」
“ これからは皆が亜乱の親代わりに “
(当主)
「 不安な気持ちも今日で麟子さんのお墓に預けるんだ。」
“ もう、寂しいなんて思わなくていい “
(当主)「 お前の帰る家は、一人じゃない。麟子さんが今日まで笑ってみんなと過ごしてきた大切な場所なんだから。」
未熟だった俺の成長を誰よりも明るく喜んで抱きしめてくれた…
太陽の照らす優しいひとだった。
” 亜乱、お前もきっとそうなれる。”
(当主)「 いつか 後の世代達のために 」
(幼い亜乱)
「 ……!───っ!! うっ…、うぅっ!!……ひっく…っ!ははうえーーーー!!!」
(亜乱)「 ──── . . 俺はいつの間にか本当の母さんを忘れるくらいに当主様は俺の側でずっと父親代わりでいてくれた。」
「 あの時の言葉がどんなに幼い俺の不安を拭ってくれたか… 」
(亜乱)
「 だから今ここにいる陸のためにも生きて側にいてやって欲しいんです 」
“ ずっと恩返しがしたくて貴方は俺の心を救ってくれた。”
(亜乱)「 そうして来て今やっと、自分もこんな覚悟で望めるんです。」
(当主)「 亜乱…… っ 」
(陸)「 ……。」
そして今まで後列で皆の補助に徹していた陸が父親の前に亜乱に並んだ。
スッ…
(陸)「 父上、オレも亜乱兄ちゃんと一緒に戦います。皆よりはまだ体力も充分に残ってるから、お願いです。」
(当主)「!」
(亜乱)「 陸っ…!何言ってんだ!? 今の俺の話聞いてなかったのか!? あいつは…っ 」
(陸)
「 今の亜乱兄ちゃんは、父さんを悲しませるっ!だってそうなんでしょ!? それくらい僕にだって分かるよ。
だったら…っ!オレは亜乱兄ちゃんを…っ皆を死なせない戦い方をする!無茶出来ない事だってわかってる!!それでも…っ 」
(当主)
「 陸、亜乱。」
(亜乱)「 …!? 」
(陸)「 ーー 父さん… 」
(当主)「 二人とも下がれ。…よく聞くんだ亜乱、無駄死には戦において最も恥ずべき事だと俺は陸にそう教えてやってきた。」
「 お前も万里も戦慣れしてきたベテラン達はみな、どこか生きる役目を軽んじ、犠牲という考え方にとらわれるのは悲願に縛られたこの呪いの血筋のせいなのも否めない。陸にも後に残した子孫たちに対して親はすまないと思っている 」
” 何かを守るという信念が余りにも俺達を強く縛りつけてしまった ”
(当主)「 進む犠牲から自ら命を絶つ死に何の誇りも存在などしない。みんな何のために今ここで戦っている 」
(万里)「 当主様…。」
「【※卑弥呼】」
(※卑弥呼…味方全員体力特大回復)
(三人)「!」
(当主)「 ────・・。」
… 誰よりも死に近い目の前を見つめてきた。
死ぬ尊さには、
今という今を生きている者が
その最期の瞬間まで
生きる執着心を決して離さない。
本当の犠牲というものは
生を決して軽んじない生きた先に…
(当主)「 死と本気で向き合った覚悟のことだ。」
「 … ” ──── お前は、」
(鬼頭)
「 …当主…、貴様ハコノ手デ、引キ裂イテヤル 」
(当主)「 その死ねない体で何を見てきた?……晴明っ!!!」
(鬼頭)「!」
(三人)「!? 」
…ッ!!
「ガゴォッ!」
当主の今の言葉は意表をついたか、
よほど気に障ったのか完全に鬼頭の頭に血を上らせていた。
(鬼頭)「 黙レ…キサマ 」
(当主)「 ……、」
すでに死期の近い当主には鬼頭の殺気の邪念の先に魂の死というものが見えていた。
(暗い闇の中の神殿)
────────────…。
(晴明)
「 …..貴方も侮れませんね、御当主。」
” 鬼頭の邪念の先に私が視えましたか… ”
(亜乱)「 当主様っ!!」
もはや鬼頭の攻撃が当主1人に集中していた。
ガガガガッッ!!
(当主)「 くっ…!」
「 ( さっきより格段にスピードが増している…! ) 」
ガキンッ!!
(陸)「 ( ダメだ、これじゃ父さんが…… ) 」
” どうしたら… ”
(応戦する万里と亜乱)
すると、ある光景が頭に浮かんだ。
(当主)
「 ” 一つの非力な力も寄り集まり一度に合わされば… ” 」
(陸)「 ” すごい…っ 花乱火が、一つの術でもこんな強力に…” 」
(陸)「!!」
” 華厳の併せ ”
(陸)「 ─────、」
周りの洞窟にわずかな水術増大の結界が仕掛けられている。
「 ( 今一番利用に適している戦法って… ) 」
(陸)「 父さんっ みんな!!」
(三人)「!? 」
(陸)
「 華厳の積み、8手で併せの術だ!」
(当主)「 ( 陸… ) 」
(万里・亜乱)「!!」
当主の合図とともに2人はすぐさま陸を初めとする併せに入り呪歌を唱えた。
奥義にも劣らない確実な大ダメージが期待できた。
(陸)「 ( ……父さん ) 」
(当主)
「 ーー…っ!」
併せの呪歌を唱えるまでのわずかな時間、全員無防備になるため敵のダメージに耐え抜かなければならないが当主はそれを最小限にとどめるために鬼頭の攻撃の足止めに専念した。
(当主)「【※七天爆】っ!!」
(※前列敵単体…火属性特大ダメージ)
ドドドドッ!!
(炎)「ゴウッ!!」
(鬼頭) (完全に暴走)
キィィン!!
(陸)「 父上!!!」
(当主)「 かまわないっ、やるんだ!! 」
(三人)「!!!」
バッ!
「 ” 華厳っ…!!” 」
(発動しかけた時だった)
(鬼頭)「【※鬼哭吃哮】!!」
(※鬼哭吃哮… 敵全体、 行動不能・敏速大減少・防御力大減少のいずれか)
(当主)「 何っ!? 」
ピシィッ!!
(亜乱)「 ぐあっ!」
(万里)「 きゃあっ!! 」
(亜乱、万里行動不能)
スウゥゥ…!
(陸)「!?」
(防御力大減少)
2人の行動不能により併せの術は1人分にまで減った。
(華厳)
「ーーー…ドオォォッ! 」(水属性中ダメージ)
バシャアッ!!
(鬼頭)「 ………、」
(陸)「 っ!」
「 ( 全然効いてない.. ) 」
(陸)「 うっ 」
先程の能力減少の影響で体に力が入らない陸にはもう弓を弾く力さえ残されていなかった。
ズシャ!
(亜乱)「 クソッ… あいつ、あんな術まで使えてたのかよ… 」
鬼頭の攻撃対象が当主から陸に変わった。