ハチミツよりも甘きもの メープルシロップよりもうれしきもの登米の先生のところに行って、二人でスーパーでお買い物。ほんのちょっとの日常がとっても楽しい。明日の朝ごはん何にしましょっか、という話になって、そういえばそろそろ使わないといけない卵がたくさんあるって先生がいうから、じゃあ牛乳とバゲットを追加して、フレンチトーストしましょう、ってことに。
バゲットで?って先生は意外な顔するけど、おいしいんですよ、って言ったら、それは楽しみですねってふわって笑う。バゲットと牛乳もカゴにいれて、ジャムとかのコーナーに。私が、フレンチトーストといったらはちみつでしょうとはちみつの容器を手に取ると、隣でメープルシロップの瓶を手にした先生と目があう。
「あれ?」
「フレンチトーストといえばメープルシロップでは?」
「はちみつでしか食べたことないですね…」
「実家ではメープルシロップで食べたのでそういうものかと」
「お店でメープルシロップなこともありますけど、メープルシロップって外で出くわすものだと思ってました」
「ひとり暮らししてからは買ったことなかったけど、家にはメープルシロップありましたねぇ」
「さすが都会っ子」
「なんだか含みを感じますね」
「いえいえ~」
ちょっとチベスナ顔になった先生をスルーしつつ、家でメープルシロップを食べるという誘惑と、やっぱり普通においしいはちみつの誘惑で板挟みになっちゃう。うーん、って悩んでたら、先生が笑ってはちみつもメープルシロップもカゴに入れてしまった。
「両方試せばいいと思いますよ」
「ぜいたく!」
「たまに一緒に食べる朝ごはんで、日持ちするはちみつとメープルシロップを買っておくぐらい、いいんじゃないでしょうか」
もー、そうやって甘やかすー。
ってふくれっ面をしてはみせるけど、ふたつともを先生と試せるのはやっぱりうれしくて、多分それは先生にもバレてる。
次の日の朝、フレンチトーストを一緒に作る時に、私がバゲットを縦半分に切るものだから先生が目を丸くして。でもこうすると、バゲットの皮に卵液が程よくしみておいしいんですよ、っていうと、覚えとこう、って言ってくれる。そういってほんとに覚えててくれて、忘れた頃に作ってくれることがあるの、ほんとそういうとこ。先生、気が付いたらクロックムッシュも作れるようになってるんだもん。
出来立てを食べよう!って、大皿に乗せたフレンチトーストを食卓に置いて。
取り皿に一切れとって、はちみつをかけたら、やっぱり安定のおうちの味。もう一切れにメープルシロップかけてみたら、まるでお店の味。両方食べられる贅沢に、にこにこしちゃってたみたいで、先生がとろけるような笑顔でこっちを見てたのに気づかなくて赤面しちゃう。
先生は、取り皿の右側にはちみつ、左側にメープルシロップを出して、そこにちょんちょんとつけて食べる作戦みたい。はちみつで食べるのもおいしいですね、とか、メープルシロップをバゲットの皮のとこにしみしみにさせて、なるほどこれはこの切り方だからだなぁって、なにやら分析顔なのもおかしい。
ふと、先生が私の口許に一切れをフォークで差し出してくれた。
ふわっと笑って、食べてみて、っていうから、あーんって食べてみたら、はちみつのしっかりした甘さとメープルシロップの軽やかな甘さのハーモニーが美味しい。
「皿の上でちょうどいい感じに混ざったみたい」
って、先生天才!
私の美味しい!の顔に、先生も満足げ。
私も混ぜてみよう、って思ったら、もうフレンチトーストが品切れ。
もうバゲット残ってないしなぁ、っていうか1本丸ごと二人で食べちゃってるし!
なんて、その私の葛藤も全部先生はお見通しの顔して「また今度、作りましょ」って笑ってる。
そうやって『また今度』をたくさんつくる先生はほんとそういうとこ。
ふたりで洗い物してる時に不意におちてきたキスは、さっき食べたどのフレンチトーストより甘くって。はちみつの甘さもメープルシロップの甘さも、どうしたって先生には敵わない。